第30話 恋人空間って色々暑すぎて死ねる
熟睡しないとか言っていたが、完全に熟睡してたわ。
揺れる馬車の荷台、寝るには最高の枕。
銃声も悲鳴もない場所。
寝るには最高の状況だった。
んで、起きた瞬間リコに説教を受けたんだが?
おれ、そんなに寝相悪かった?
「リューさん?我慢はダメですよ?」
「え、あ、おう。我慢は別にしてないが…?」
我慢してるのはリコ達ではないだろうか。
俺の気まぐれに振り回して色んなことしたもんな。
「なにそんなに怒ってんの?」
「別に怒ってなんかいませんよ?ただ少し不満があるだけです」
「怒ってないならその目止めない?めっちゃ怖いんですけど」
「リューさんだって人間ですよね?だったら不満の一つや二つあるんじゃないですか?」
「ないって…」
「…」
「強いて言うなら…」
リコは軽く動物を殺せるくらいの目から聖母のような眼差しへと変わった。
「寝てるときに色っぽい声を出すのと俺の名前を連呼するのを止めてくれ。正直怖い」
「え…」
そして顔を赤らめていつもの顔へともどりました。
「どんな声…出してましたか…?」
「どんな声と聞かれると難しいな」
「そんな難しいような声を出してんたんですね…」
「不満はそれくらい。寝るに寝れない」
だからガイとアレンと寝ようとしたんだがこっちもこっちである意味うるさくて寝られなかった。
寝不足の理由はこれだ。
「不満は今のところその程度」
「あ、はい。わかりました…」
「アレン、メイなんか暑くないかにゃ?」
「そうだね。だいぶ暑いかな」
「あ、暑すぎます」
☆
「ん、この臭い…なんだ?これ」
「なにかの腐臭でしょうか?大丈夫ですか?フユ」
「これは結構キツイにゃ」
「フユさん達亜人にはキツイ匂いですよね」
身体能力とかもともとの基礎が高いと大変だな。
「もうすぐオルディンに着くぞ」
「この匂いはなんだ。クセェ」
「それは硫黄の匂いさ。ここら一帯は火山地帯。地面から噴き出した硫黄の匂いが漂ってるのさ」
「ふーん。この卵が腐ったような臭いがね…」
「あの、皆さんそんなに吸わないほうがいいですよ…?」
「どうしてだい?」
「臭いからだろ。俺だって吸いたいわけじゃない」
ただ呼吸のために仕方なくだ
「いえ、そうじゃなくて…強烈な硫黄の匂いを嗅ぐと死んでしまいますので…」
うそやろ。
結構吸ったけど?大丈夫か?
「この先に街がある。街の辺りまでなら吸っても問題はない。そもそも、問題があるならオレはもう死んでるって。ガハハハ」
「そうなのか」
「ああ、でもそこのお嬢さんが言ったことは本当だ。死にはしなくても息が苦しくなったり頭が痛くなったりはするらしいがな」
それって割と死活問題じゃないか?
街中で過ごす分には問題ないが、こうして街に行くまでとかの道中で頭が痛くなったりしたら死者だってでるだろうに…
臭いを我慢して進むこと数十分。
街の門が見えてきた。
「ここの領主はどんなやつなんだ?」
「それが…わからないんです」
「分からないってどういうことだ?」
「ここ数年、姿を見てないんです。女王であるメアもここの領主には会ってなくて詳細が不明なままなんです」
「たしか、弱々しい優男だった気がするけど…覚えてないにゃ」
領主不在にも関わらず領地運営は続いている。
側近が優秀なのかそれとも別の誰かが統治しているのか…。
ま、領主が誰であろうと俺達には関係はないがな。
ガイに依頼達成の印をもらってギルドへと報告に行った。
アレンとフユには宿探し。残りはギルドへの報告。
「あ、あの…私まで着いてくる必要はあったんですか?」
「今のメイは俺の従者だ。文句あるか?」
「従者…文句はないです…」
「だよなー」
メイの文句をねじ伏せたところでレンガ造りの建物についた。
「さすが火山の麓の街。温泉のせいで湿っぽい」
「乾燥してるよりはいいじゃないですか」
「そうか?ジメジメしてやなんだけど」
「乾燥はお肌の敵ですのでありがたいですね」
女の考えることは分からん。
てか、2人とも肌の乾燥を気にするほど歳行ってないだろ。
ギルドで報告を済ませてアレン達と合流。
宿の確認をして早速仕事を受けることにした。
「火山の麓ってだけあって火山の掃除が多いね」
「リューさん、なにか希望はありますか?」
「モンスターがいればなんでもいい」
「大丈夫ですか?確か火山の近くの敵は火を使ってきますが大丈夫ですか?」
「そんなのいつものと比べたら大したことないだろ」
「そうですか?リューさんがそう言うなら…」
今回受けた仕事は、リザードマンの討伐。
リザードマンートカゲのモンスターで個体によっては盾を装備したり鉈で襲ってくる個体もある。
まあ、ほとんどが冒険者を襲って手に入れた粗悪品だから切れ味は悪いし盾もただの金属であることが多い。
「そんな大変そうでもなさそうだな」
「分からないよー。ただリザードマンって書いてあるだけで、強い個体が混じってるかもしれないし転生体がいたらそれこそ僕らじゃ対処できないからね」
「そんなに強いのか」
「王都の騎士団長クラスが10人くらい居ないとむりだね」
あれが10人。
確かに俺達じゃ無理だな。ここに居る奴もれなく全員特異体質だし。
ギルドを突っ切ると火山へと続いている。
ギルド内もそれなりに熱いしフユみたいな亜人は硫黄の臭いでそうとうへばってた。
「流石火山。熱気がここまで伝わってくる」
「熱中症には気をつけてくださいね」
「多分大丈夫」
その熱中症がどんな症状なのかわからないけど大丈夫だ。
火山だけに限らないが仕事の途中でモンスターに乱入されることも当然ある。
目的のモンスターが弱くてもその道中で命を落とすことも少なくない。
そのいい例が今である。
「ミノタロス2体とかマジかよ…アレン。リコ達をちゃんと守れよ」
「勿論。命に代えてでも守るよ」
頼もしいことで。
さてと。ミノタロスならまだ簡単だ。一度倒してるし。
『一刀流居合ー首刈り』
低い体勢からの抜刀はデカイ体格のやつには最適な攻撃だ。
刀身は見えないし抜くタイミングも全く分からないからだ。
しかし、それが効果的なのは一回まで。
知能が低い的なら数回効くがミノタロスには初見で仕留めるしかない。
「残り一体」
ミノタロスに向かってニヤリと笑ってやると俺を敵だと認識したミノタロスは持っている斧で俺を切り裂こうと己の腕力に任せて振り下ろす。
「アレン」
「『守護陣形、反撃技!カウンター!』」
力づくで振り下ろされた斧は真っ直ぐ降りてくる。
ミノタロスより小さかったら俺が弾いても良かったがミノタロス以上となると刀が折れるかもしれないからアレンに弾いてもらっている。
自分の力以上の力で押し返されたミノタロスは大きく後ろに仰け反った。
「一刀流居合ー首刈り」
仰け反った状態なら防御はガバガバになるし反撃の心配もいらない。
首を落としてお終いだ。
「モンスターの倒し方を覚えるのは早いね」
「おいおい、その言い方だと他のことは全く覚えられてないみたいじゃないか
「メイちゃんに字、教えてもらってたよね?自分の名前書いてみてよ」
「余裕だ」
その辺の石ころで地面に「くろいりゅうき」ってかいてやった
「メイちゃん、これなんて読むの?」
「えっと…くるいりゅうき…だと思います」
「くろい!りゅうきだ!なんだくるいって」
「これは酷いんじゃないかい?」
「小学生…いえ、幼稚園生並です」
「それは年齢はいくつぐらいなのかな」
「3〜5歳くらいです」
どうせ俺の字は5歳児の字ですよーだ。
字なんか書けなくても喋れればいいんだ。
勉強も必要ない、勉強するくらいなら戦って経験値を手に入れる。
それが俺の人生だ。