第29話 リューという男
「こうして寝てると完全に子供だよね」
「そうにゃ?ただ危機管理がなってないだけにゃ」
「あまり大きな声出すと起きちゃいますよ」
リューさんは見た目は私と同い年なのに所々常識が欠けていて戦闘のこととなると私より詳しいという不思議な人。
メイさんと同じ故郷ということで話しているのを見かけます。
「メイさん。もし良かったら故郷のこと話してくれませんか?」
「え、わたしですか?」
「リューさん、そういったことは教えてくれないんですよ」
「両親を亡くしたって言ってたからあまり思い出したくないのかもしれないけどね」
それでも、一緒に旅をしてるんですから甘えてほしいんです。
寂しくなったら泣いて欲しい、嬉しかったら笑って欲しい。
リューさんはそういうのを我慢する癖があります。悪い癖なので直してあげたいです。
「えっと、ご主人様と故郷は一緒ですけど時代が違うんです」
「時代?」
「はい。私はリューさんより前に生まれてるんです」
「でも2人ってそんなに年齢は変わらないように見えるにゃ」
「それぞれの時代からこの世界に来たです」
「ということはこの世界の出身ではない?」
「そうです。私は日本という場所で学生をしていました。部活帰り家に帰った瞬間、こちらの世界に来てしまいました」
「俄かには信じがたいね」
アレンさんの言う通り、すぐには理解出来ないことでした。
別世界からの人がいるなんて事有り得ない話ではありませんが、現実味がありません。
「ご主人様はおそらく私より後の時代に産まれてこの歳になるまで勉強も受けられず戦っていたのだと思います」
「でもさ、メイちゃんが喋ってるのはこの世界の言葉だよね?」
「いえ、日本語という私たちの世界の国の言葉です。ご主人様も最初そう思ったはずです」
たしかに、出会ってすぐにそんな会話があったのを思い出しました。
でもリューさんはそんなこと一度も言ってませんでした。
故郷のことも、自分のことも隠したままでした。
「ご主人様のこの傷、私の時代では考えられません。これだけ傷つけば死んでしまいますし私の時代では刀の所持は犯罪なんです」
「それなのにリューは最初から刀を持っていたということだね」
「そんな大したことじゃないにゃ。なんでリューは黙ってるにゃ?」
「それは私にもわかりません。ご両親を亡くしたことは私も聞きました。それ以外にも目を背けたい過去があるのかもしれません。それ以上は私の立場だと聞けなくて…」
「ほかにリューさんはなにか言ってませんでしたか?」
「他に…ですか?」
「出来るだけリューさんの支えになりたいんです」
人は自覚、無自覚に関わらずストレスを溜め込むものです。
ストレスの存在をリューさんが知っているかはわかりませんがもしストレスが溜まって爆発したらリューがどういう行動にでるか分かってしまいます。
街周辺のモンスターを全滅、ならまだ讃えられることですがその刃が人に向かってしまえば大罪人となってしまう。
リューさんとは最後まで旅をしたいのです。
「私が言われたのはこれくらいです」
「そうですか…」
「リューの支えになりたいとか物好きにも程があるにゃ」
「もしリューさんが私達を狙ったらどうするんですか!」
「その時は素直に殺されるしかないにゃ」
「リューが本気だしたら僕達なんて瞬殺だろうからね」
「大丈夫にゃ。リコがいればコイツはそう簡単には爆発しないにゃ」
フユ達のその自信はどこから来るのでしょうか。
「リコという存在が抑止力になってるってことにゃ。まあ、リコが誘拐なりなんなりされた時が一番危険な時にゃ」
私という存在が抑止力…
私自身、まだまだ支えになれていないと考えている分、実感がわきません。
「リコの動きは知ってるから大丈夫にゃ」
「リューがちゃんと見てるかどうかは怪しいところだけど」
…もとはと言えば、リューさんがいけないんですよ。
気持ち良さそうに寝ちゃって…熟睡しないとか言って完全にしてるじゃないですか…
私は実際に言葉として言えないもどかしい感情をリューさんの鼻をつまんで解消した。