第28話 脱ぎたての下着をどうしろと?
「アレン!そっち行ったぞ!」
「任せて!フユさん!」
「にゃ!メイ!」
「は、はい!リコさん!」
「はい!」
『グルルルルルルルル…』
オルディンへの道中、仕事達成条件であるモンスターの討伐。
今回はミノタロスとかいう顔は牛、身体は人間という違和感満載の敵を倒した。
「こいつがミノタロスか?」
「そうですね。手首に金属の腕輪があるのでそうだと思います」
「腕輪がないとどうなる?」
「腕輪がないものはミノタウロスという上位互換になります」
「ミノタロスより大きいからまずはそこで確かめるだろうね」
「ふーん。戦ってみたいいな」
「これだから戦闘狂は…なに考えてるかわからないにゃ」
「どういう意味だ」
「ミノタウロスは10人パーティを5組用意して挑む相手にゃ。それを単騎討伐とか絶対に無理にゃ」
「そうなのか?」
「過去に単騎討伐した人物はいたそうだけどね」
戦ってみたかったけど残念だ。
「そういえば、今回メイの矢が飛んでこなかったな。まだ刺さってるのか?」
「ああ、そのことだけどね。メイちゃんの矢が君を狙う理由はわからず仕舞いだったけど対策は分かったよ」
「対策?」
「矢を折ればいいのさ。そしたらちゃんと飛ばないからね」
「対策が出来たってことはアレンも矢の餌食になったのか?」
「えっと…その…すいません」
「その通り。でも僕の場合、盾があったから撃ち落とす必要はなかったけどね」
なんだ。
一発くらい受けとけばいいのに。
結構な速度で飛んでくるから直撃だとだいぶ痛いぞ。
「メイのその特異体質どうにかならんもんかね
「今のところ、折るしか手はないね」
折るんじゃそんなに遠距離から攻撃する意味がない。
矢をへし折れる距離にいるなら俺はそのまま攻撃するぞ。
その方が早いし折るという余計な手間が省けていい。
「すいません…せっかく高いお金払って買ってもらったのに…」
「気にしなくて大丈夫ですよ。リューさんはこう見えて一度手にしたものは離さない人ですから」
「それは褒めてる?」
「だいぶ褒めてますよ」
そう。遠回しに見境がないって言われてるような気がした。
☆
オルディンまでは徒歩で2日、さらに都市までは山を超える必要があるため2日という長い旅となる。
だがそれは徒歩で移動した場合の話、今回は馬車に乗せてもらっているため2日で都市まで着く計算となっている。
尚、この計算はリコが出したものである。
「いやー助かったよ。あんたらがいなきゃオレは今頃ミノタロスの餌だ。がはははは!」
豪快に笑う男の名前はガイ。
この仕事の依頼主で報酬は馬車の利用と少しの金額。
金にはそんなに困ってないから主な目的は馬車の利用だった。
「ここ最近、モンスターがすげぇ出てくるもんでまともに商売になんねぇんだ」
「ガイはなんの仕事してんだ?」
「都市に塩とか野菜とか調味料を運搬する仕事さ。オルディンは温泉で有名だが海に面してる土地は山岳地帯、塩を作ろうにも海水が手にはいらないんだ」
「山を越えること自体大変だろうからね尚更だね」
「あ、あの。いつも馬車での運搬なんですか?」
「そうだな。こうしてオルディンと王都で冒険者を雇ってやってるよ」
「盗賊とか雇った冒険者さんに襲われないんですか?」
「襲われることもあるよ。でも、そんなこと言ったら冒険者のあんたらの方が命張ってる分大変だろ」
このガイとかいう男、相当な実力があるのにも関わらず馬車で物を運ぶ仕事をしている。
その上お人好しときた。損な性格してんなー。
その日の夜。
「うおー!これ、あんたらが狩ったやつか!」
「ああ、そうだ。そんなに騒ぐことないだろ」
「いやいや!この短時間でこの数狩れるのはすげぇって!」
いちいち表現が大袈裟なんだよ。
鹿とかウリボーみたいな草食動物だったら速ささえあれば狩れるだろうに…
まあ、追いつくにもそれなりの速さはいるけどさ。
この日の夜は騒がしい夜となった。
だがガイが寝ると途端に静かになった。
「元気な奴だな」
「このパーティには居ないタイプだよね」
たしかに、ここまで騒ぐやつは居ない。
っと、久々に来たな。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
人気のない森の中
定期連絡の日だ。
「リコもフユも無事だ。怪我もなく健康体だ。なにか伝言はあるか?」
『......』
気配はあるもののやはり無言。
そのかわりにナイフが1本飛んできた。
「ナイフじゃなくてもっと柔らかいもので頼むよ。暗闇の中黒塗りのナイフを撃ち落とすのは辛いんだ」
『……』
また暗闇からなにか飛んできた。
これは…下着?飛んできたのは女物の下着だった。
しかも若干暖かい。
「いや、確かに柔らかいものって言ったけどさ。なんで下着を投げる?しかも脱ぎたて…どうしろと?」
『要らないなら返して』
「あ、はい」
こんな爆弾よりあぶないものはとっとと返すに限る。
まだ死にたくないからな。
リコのことだ、俺がこんなの持ってたら俺ごと燃やすだろうから。
「他には?」
『二人のことは大切にして』
「わかってる。貴族と追いかけっこはごめんだ」
貴族と戦争ならやってみたいがな。
今までやりあった敵の数は100人程度。全員銃持ちの合金装備という俺対策のガチガチ装備。
「伝言はそれだけか?」
『然り』
「毎回伝言ご苦労さん」
その言葉を最後に気配は完全に消えた。
ここまで追って来てるってことは相当腕がたつはずだ。
ガイの依頼を受けてからこっちはずっと馬車移動。
モンスターと戦ってる時間もあるからずっと移動していないにしろ馬車の移動に追いつくんだ。
相当魔法が得意なんだろうな。
翌朝。
ガイのイビキで寝付けなかった俺は馬車の荷台で昼寝することにした。
そんな広くない馬車も工夫をすれば人1人は寝ることが出来る。
「あ、あの…工夫ってこのことですか?」
「ああ、メイが俺の枕になればいい…嫌か?」
「いえ、そんなことないですけど…怖いです」
なにが怖いかって?そんなの気配を感じられる俺がわからないわけはない。
リコの目が怖いのである。
しかし、枕が硬かったら寝るに寝れないではないか。
枕は適度に硬く、柔らかくなくてはいけないんだ。
「どうしたリコ。そんなに怖い顔して」
「なんでもないですよー?ただなんでメイさんなのでしょうか?」
「あれだ、リコの膝枕は快適すぎる。旅の途中で熟睡は危険だからな。うたた寝程度で済ませる必要があるんだ。」
別にリコの膝枕がダメなわけじゃない。
実際は俺の好みど真ん中だしこれ以上ないくらい丁度いい。
だがそれは旅の途中に出来ることではない。
近接はフユがいると言っても戦力が減ることに変わりはない。
「そうですか。それでしたら仕方ないですね」
どうやら焼死体を出さずに済んだようだ。
雷にしろ炎にしろ焼けることに変わりはない。
リコの殺気がおさまったことだし一眠りしよう。