第23話 矢が俺絶対殺すマンになってやがる...
翌日。
メイの実力を見るためにギルドから仕事をうけた。
標的はブルファングというイノシシだそうだ。
「一直線に突っ込んでくる敵なら簡単だろ」
「いきなりじゃないですか?私、動物とか狩ったことないんですけど…」
「大丈夫だよ。木の上から撃てば狙われないから。そうだよねフユさん」
「…人任せすぎにゃ。確か視野が狭いから頭より上は視野外で狙われなかったはずにゃ」
狙われんないなら恐怖で外すってことはないし敵は一直線にしかこない。
日本にいた時に『弓道』なるものをやっていたという話を昨日聞いたから多分大丈夫なはずだ。
「メイ!そっち行ったぞ!」
「はい!」
メイは一つ深呼吸をすると矢を構えた。
今のところ動作に問題はない。
俺自身弓は使わないから詳しい動作とかは分からないが焦ったりしてる様子は見当たらない。
「これなら行けそうだな」
「当たらないって行ってたからどうなるかわからないけどね」
イノシシが徐々にメイのいる木へと近づいて射程距離に入ったのだろう。
メイが矢を放つとイノシシの方向へと飛んで…行かなかった。
「うお!あぶね!」
イノシシへと放った矢は迷うことなく俺の方向へと飛んできた。
「リュー射線にいたら危ないじゃないか」
「どう考えても射線じゃないが…悪い」
俺がいたのがメイから見て斜め右辺り。
いくら風が吹いて射線が逸れたと言っても飛んでくるわけはないんだがな…。
場所を変えて再挑戦。
「今度はちゃんと狙えよ!」
「分かりました!」
イノシシをメイの方向まで誘導して完全射線外へと逃げる。
逃げた先はメイの後ろ。
ここなら絶対に当たらない。
メイが外しても俺が処理すればいいだけの話だ。
メイが構え再度矢を放った。
「なんでだよ!」
再び放った矢は俺めがけて一回落ちて地面スレスレで俺を狙ういう起用なことをして見せた。
「リコ!どうなってる!」
「私にも分かりませんよ!」
矢が『リュー絶対殺すマン』の能力を手に入れてやがる。
当たらない以前に人を殺そうとしている。
意味が分からないどういう原理で動いてやがる。
「フユ。この特異体質と言っていいのか分からんが解決出来るか?」
「出来ないことはないけど、それなりの時間がかかるにゃ」
「時間が掛かってもいいから頼む…このままじゃまともに戦えないだろう…」
当たらないという話は聞いていたがまさかここまでとは…。
ただ緊張とか恐怖で当たらないだけかと思っていたが実はそうではないらしい。
弓に問題があるのはか矢に問題があるのかそれともメイに問題があるのか…。
メイに問題があるとしたら完全に俺への私怨だろうなー。
まだ出会って2日と経ってないのに俺、何かしたかな…。
結局、矢が人に飛んでいく現象の原因は分からなかった。
フユ曰く、弓にも矢にも変な効果は付いていなくてメイ自身おれを恨むようなことはないという。
出会って2日程度で恨みを買うとか俺が何したっていうんだ。
「フユの弓が出来るまでメイは様子見だな。」
「申し訳ありません…」
「気にすんな。そういうのを確認しなかったこっちにも非はある」
「ご主人様は寛大なんですね」
「寛大ってなんだ。俺はそういう難しいことは分からない。更に言えば、ことの重大性も分からないということだ」
奴隷という高額な買い物をしておいてなんだが、正直言って実感は湧かない。
ただ、遠距離攻撃できる人を雇っている感覚。
「これから仕事だ。メイ、近接を教えるからついてこい」
「僕達は弓の素材集めするから今回はリュー達二人で行ってきてくれるかい?」
「それはいいが、素材集めなら全員でした方が早くないか?」
「確かにそうだけど近接不慣れなまま連れて行っても危ないだけだからね。今回はリューの特訓を受けた方が彼女の安全から見ていいかなと思ったのさ」
なるほど。そういうことなら2人で行きますか。
本人は嫌そうな顔してるけど気のせいだよな、そうだよな。
「じゃ、行くぞー」
「は、はい。」
受けた仕事は初心者用の仕事。
内容はスライムの討伐。
俺もメイもこの世界の字が読めないから受付の人に取ってきて貰った。
「メイって字はどうやって書くんだ?」
「えっと、芽衣って書きます」
「これでメイって読むのか。俺の名前は『りゅうき』って言うが自分の名前すら書けないんだ。だから名前の由来も知らないし、漢字も知らない。なんなら平仮名すら書けない。俺がいた日本はそういったことを学ぶ必要が無かった世界なんだ。メイの知っている日本はどういうところだ」
「私がいたのは2019年の日本です。義務教育と言って15歳までは学校で勉強が義務化しています。平仮名は勿論、漢字も、計算も歴史も自然現象的なことも習います。ご主人様みたく身体中に傷がある人なんていませんでした。犯罪などがありましたが街全体が火の海になるなんてことはありませんでした。」
平和な日本…想像できないな。
一度でいいから見てみたかった。
「ご主人様がお強いのってやっぱり生きるためですか?」
「そうだな、俺のいた日本じゃこれくらいの強さが必要だった。銃の威力はなにかで知ってるだろ?」
「はい。テレビとかネットで見たことがあるので知っています」
「その銃弾が常に飛び交っていると考えたら俺の強さもまだまだだろ?」
お互いの知らない日本のことを話すのは俺的には楽しかった。
元の東京はどういう場所で、どういう建物があったのか。
俺が知ってるのは赤い塔が建っていたことくらい。
目的地まで歩いて30分くらいの道のりずっと自分の知る日本を語り合った。
「ここだ。ここがメイの特訓場だ。基本的には弱い奴しかいないから安心していい」
「わざわざすいません。わたしが前からちゃんと体育とかやっていれば手を煩わせることもなかったのに…」
「だから、気にすんなって。誰しも最初っから強かったわけじゃないんだ」
「ご主人様もですか??」
「ああ、俺もだ。俺にだって子供の時期があったわけだしな。さ、特訓だ」
「よろしくお願いします…」
出てきたスライムを片っ端から倒して見たが、メイの近接戦闘センスは壊滅的だということがわかった。
スライムが怖いのか腰が引けている。
これじゃ、弱い部類のスライムも一撃じゃ倒しきれない。
倒しきれないとスライムが反撃する。
その反撃も水がかかった程度の冷たさが伝わるだけで痛みとかはないが、メイからすればなれないことだけで慌ててパニックを起こす。
近接攻撃は対象が至近距離にいるため怖さも倍増するんだろう。
「ご主人様!」
「戻ってこい」
「なんでそんなに落ち着いてるんですか…!」
「こいつとは何回か会ってるからな。対処法は知ってる。丁度いい、同じ日本人も鍛え方次第では俺みたいになるということを見せておこう」
『一刀流居合ー無尽一閃』
俺よりはるかにでかい怪物を一撃で仕留める。
自然界で一番厄介なのは手負いの獣だ。行動が読めず特攻も迷わずにやる。
しかし、一撃で首を飛ばしてしまえば関係なくなるがな。
「俺は使い慣れた刀しか使えないがある程度のところまで行くと、これくらいになる」
「……」
「メイ?…立ったまま気絶してやがる」
メイもまだ死体とか血とかダメなタイプだったか。
ま、今日の訓練はこのくらいでいいだろう。
俺は気絶したメイを抱えて宿へと戻った。