第1話 トーテムのカウンター!▼
もう日付も分からなくなってあちこちから昇る黒煙で空も見えない。
よって、本日は曇り時々血の雨といった所。
「やぁ!龍輝。ご機嫌いかがかな?」
愛用の銃を腰にぶら下げてやってきたのは同じ戦場を駆け回った戦友だった。
「起きたばっかにお前の声はカチンとくるな。」
「戦友にそんなこと言っていいのかなー?援護してあげないぞ。」
「男が言っても可愛くねぇんだよ。斬り刻むぞ 。」
「どうしてそんなに不機嫌なんだい?」
「昨日、組織の奴らと衝突した。」
「いつものことじゃないか。」
「俺がもう少し早ければ親子は助かった...」
「誰が死んでも表情一つ変えない龍輝の唯一の弱点だよね。親子が絡むことがね。まあ、7歳で両親を亡くせばそうもなるよね…。」
「俺は正直、両親の顔を覚えてない。覚えてるのは肩に弾丸が掠ったことだけだ。」
あれからどのくらい経ったかもわからない
「龍輝。いい?ここから出ちゃ駄目だからね?」
「なんで?おれも一緒に行く!」
「駄目だ龍輝。お前は俺達の希望なんだ。ここで失う訳にはいかないんだ。」
「でもでも!.....分かったよ。絶対に帰って来てね?」
「勿論だ。」「帰ったらご飯にしましょう。」
両親は危機的状況だと分かっていても当時小学生だった俺に心配かけないように笑って家を出ていった。
俺は暖炉の裏に隠れ息を潜めた。
「...ない!...うだ!」
「見て...ないです!」
完全には聞こえないが両親の声がして何者かが家のドアを蹴破った音がした。
「...こに.....がった!」
「だから...ないと...だろ。」
「もう.....ろせ!」
怒鳴り声が聞こえたかと思うと銃の発砲音が聞こえた。
しかも1発だけじゃなく何発も。
その1発が暖炉のレンガを貫通して俺の肩を掠めた。
その痛みは小学生からしてみれば激痛も激痛だった。
痛みに耐えきれなかった俺は意識を失った。
☆
「で、今日はどこに行くんだい?」
「さあな。地図もないしな。どこに向かってるか俺にもわからん。」
「行き当たりばったりだねー。じゃ僕はここらで失礼するよ。」
「ああ。死ぬなよ、戦友。」
「簡単にはね。」
戦友と別れ瓦礫を越えながら進むと1つの柱が目に入った。
一つ妙なのは柱が自立して動いていること。
「なんだアレ。」
声に反応したのか柱はこちらに急接近してきた。
組織の新兵器かなにかだろうか?
にしても俺が声を出すまで見つめてるだけだったしな...攻撃的ではないらしい。
「探索用の新兵器?けど、黒いだけでカメラは見当たらない...攻撃もしてこない。いや、アクティブになってないだけか?」
攻撃したらアクティブになって襲い掛かって来る的な。
そう思ったから試しに攻撃してみた。
するとまさかのカウンターを食らってしまった。
「やべ!」
トーテムは光を出すとそのまま俺を飲み込んだ。
その光自体にも痛みはなく体の異常は見当たらなかった。
「なんなんだよ…」
急展開過ぎて疲れを感じているとふと足元に違和感を覚えた。
瓦礫で歩きにくかったはずの道...と言えるかどうか分からない場所が草木も生い茂る綺麗な場所へと変わっていた。
「?空間を再生する系の兵器だったのか?」
それはもう兵器では無くなっているがまあ、状況からして再生ってわけじゃ無さそうだ。
瓦礫の元となる建物も見当たらないし人の気配も全くしない。
謎である。
もしかしたら転移系の柱だったのかもしれない。
とりあえず考えるより動いた方がいい。
血生臭い匂いではなく森独特の澄んだ空気、鳥の声なんて何年聞いてないだろうか。
近くで水が流れているのか少し湿っぽく涼しい。
鳥の声なんて聞いたとしても死体を食べに来たカラス程度である。
東京の都心に埋まっていた原子力爆弾。
誰がなんのために埋めたのか知らないがそれのせいで日本はあんな混沌とした場所へと変わってした。
「たまにの息抜きにピッタリの場所だ。」
「誰ですか!そこにいるのは!」
声を出したのがまずかったようだ。
木陰から様子を伺うと短剣を手にした全裸の少女が震えながらキョロキョロと辺りを見ていた。
「いるのは分かっています!すぐに出てきてください!」
持っている武器は短剣のみ。
近くに服が脱ぎ捨てられている所から水浴びの途中だったらしい。
「済まない。邪魔するつもりじゃなかったんだ。」
手を上げながら木陰から出る。
極力見ないように目を瞑っているし足元は石ころだらけで歩きにくい。
「なぜこんな所にいるんですか?」
「俺にも分からないんだ。柱みたいな新兵器を攻撃したらカウンターにあって光が収まったと思ったらここにいた。」
「なにを訳の分からないことを...」
わけが分からないのは俺の方だ。
敵がいて姿を表しているのになぜ攻撃しない?
こっちだってなにも策がないわけじゃないがかすり傷程度なら負わせられると思うぞ?
「一つ、聞いていいか?」
「...そのままの体勢でならどうぞ。」
「ここは何県だ?」
「県?ここは私の父の領地です。県ではありません。」
県じゃない?ああ、あれか?組織に占領された土地なのか?
それなら侵攻されない限り平和だよな。
日本軍にはもう侵攻出来るだけの戦力はないしな。
「そうか。なんという土地だ。」
「シルフィードという土地です。さっきからなんなんですか?」
「俺は旅をしているんだ。」
「旅...ですか。」
「ああ。どうやら迷ったらしい。水浴び場を覗くつもりはなかった。街への方向さえ教えて貰えればすぐにでも居なくなる。」
「.....このまま貴方を帰す訳には行きません。父の屋敷まで連行します。」
「...分かったよ。」
ヒタヒタと近づいてくる足音。
彼女は何かを呟くと上げられた俺の手首に手錠をかけた。
いつの間にこんな物を持ち出したのだろうか。
日本の警察のような鉄の手錠ではなく木製のかなり大きいサイズの手錠だった。
手を塞がれては武器も使えない。
大人しく連行されて処刑されますかね。
とまあ、考えていたが一つ重要なことを忘れていた。
手錠をかけられた時に目を瞑っているのにも関わらず素材が木だとわかった。
何故か。
簡単な話である、目を開けたから。
会話中に衣擦れの音は無し、つまり全裸のまま俺に手錠をかけたわけだ。
つまり、
「きゃぁぁぁあああ!」
パシン!
頬に衝撃を受け且つ足場が悪い状態で体勢が崩れた俺はそのまま頭を地面へと強打。
当たりどころが悪かったのか意識を手放してしまった。