第16話 年頃の女の子を褒めるのはいけないことらしい...
朝日が昇り再び出発する。
「リコ?どうしたにゃ?」
「...いえ、なんでもないです...」
起きた時から様子がおかしい。
顔は赤くなってるしチラチラとこっちを見て目が合えば即行で逸らす。
これの繰り返し。
「リュー達、夜にリコになにかしたにゃ?」
「なんも」
「僕達、普通に喋ってただけだよ」
「じゃあ、なんでリコはこんなに真っ赤にゃ?」
「知らないな」
「僕も心当たりがないよ」
風邪でも引いたのか?
の割には熱はなさそうだし...意味わからん。
「リコ、動物に乗るんだからそういうソワソワした気持ちはできるだけ持たない方がいいにゃ。その気持ちは動物にも伝わって思わぬ事故に繋がることもあるにゃ」
「あの...ですね...」
リコはフユにだけ聞こえる声で話した。
その瞬間、フユの目はジト目になり俺たちを捉えた。
「リュー達のせいじゃないかにゃ。主にリュー」
「俺がなにをしたっていうんだ」
「昨日、フユ達が寝てる間の会話。それが原因にゃ」
後ろでワタワタするリコをガン無視して進める。
昨日の会話...
「寝てる2人のいい所を話してた」
「その時にリコのことなんて言ったにゃ」
「...えっと...」
「優しい、可愛い、物知り。じゃなかったかい?」
「あぁ、そうだ。そう言った」
「.....」
「なんだよ...」
「それは無いにゃ。会って間もない男にそんなこと言われたら気持ち悪いに決まってるにゃ?」
「事実だろ?まあ、気持ち悪いのは否定しないがな」
女を褒めたらダメなのか。
女って面倒だな。
依然としてリコの調子は戻らず俺はアレンの後ろに乗ることになった。
「昨日の話、そんなにまずかったか?」
「僕に聞かれても分からないよ。でも、フユさんの言うことは確かだろうけど」
「街にいてもリコより可愛い奴なんて居なかったぞ?」
「それでも口に出したのが悪かったんだよ」
「そんなもんかね」
「乙女心はそういうものなのさ」
...俺はそんな理屈がどうのとか誰と誰の関係がどうのだから...みたいなややこしいことは考えられない。
好きなら好き、嫌いなら嫌い普通なら普通と思ったり時には口に出したりするだけだ。
字の読み書きも出来ない、魔法も使えない、料理出来ない、泳げない、刀しか使えない俺が唯一出来ること。
これをダメと言われたら俺は何をすればいいのか。
疑問である。
☆
「リコ、あんな言い方だったけど良かったかにゃ?」
「はい。ありがとうございます...」
「...初心過ぎないかにゃ?ちょっと可愛いって言われたくらいで顔真っ赤にするにゃ」
「フユはどうしてそんなに平気なんですか?フユのことだって話題に出たはずですよ?」
「フユは聞いてないし何を話してたか分からないにゃ。分からないことを気にすることはないにゃ」
「それでも、少しは気になりませんか?」
「そんなことないにゃ。フユはもう言われ慣れたにゃ」
「そう言えるのが羨ましいです...」
私だって、外に出れば声はかけられます。
しかし、それは一時のものですぐに側付きの人が追い返してしまう。
仲良くなんて出来ないし当然、恋人なんて出来ません。
「温室育ちも大変にゃ」
「リューさんは私の事...好き...なんですかね?」
「さぁ。それは本人に聞いてみないと分からないにゃ」
「でも、私。料理も、動物を狩ることも、解体も、泳ぐことも、剣を使うことも出来ません。そんな私を好きになってくれる人なんているのでしょうか...」
「さぁ?それはその人次第にゃ。けど、今は馬の操縦に気を向けた方がいいにゃ。リコが怪我したらリコが操縦してる馬が危ないにゃ。馬肉にされちゃうにゃ」
「そうですね。そうします」
私が出来るのことってなんなんでしょう...
☆
野営地から走ること半日。
遠目にぼんやりと建物が見えてきた。
「あれが王都か...」
「僕も行くのは初めてさ。中々にいい所だと聞いているよ」
「それぞれの領地との違いとかってあるのか?ただ建物が多いだけのように見えるが?」
「うーん。それは、僕より現領主の御息女様に聞いたほうが確実だと思うよ」
そりゃそうか。
多分、二人共王都には行ったことありそうな口ぶりだったしな。
王都に馬では入れないとのことなので門の前で馬とは別れた。
最後に馬肉にしようと思ったが持ち運びの件と可哀想だからと全力で止められた。
「王都と他の領地との違いってなんだ」
「そうですね...仕事の種類が多い、中級区画以上では治安はいいはずですよ。そして、1番違う所は王族が住んでいることです!」
「王族...偉いってことか?」
「この国で1番権力のある人たちです」
権力のある人間にはあまりいい思い出はないんだよな...人身売買、薬物売買、銃火器の密輸、幼女愛好家など日本にはろくな奴がいなかったからな...
下手したら斬っちまうかもしれない。
「いいですかリューさん。国王には私と同い歳の王女様がいます。が、絶対に話しかけないでください」
「え、なんで?」
「敬語、出来ますか?」
「.....ないです」
「護衛騎士の前にリューさんを出したらいくらリューさんが強いと言っても1人倒せればいいレベルです。なので、絶対に王城には近づかないでください」
「リューは敬語を知らないんじゃないかい?」
「それくらい知ってる。けど、今まで使う場面がなかっただけだ」
敵に敬語なんて使うわけないし、師匠にだって敬語を使ったことなんてない。
「そろそろ王都に入るにゃ。ギルドカードを用意しておくにゃ」