第13話 領主の娘は誘拐するもの!
「急げ!結婚式始まってるぞ」
「待って...早いよ...」
「お前俊敏いくつだ」
「D...」
「はーお前...そんなんでフユを助けられると思うなよ」
細剣の達人と武の達人から逃げきるには最低で全部Aくらいは欲しい。
じゃなきゃ逃げられない。
「ここからは別行動だ。リコはそのまま中で待機、アレンはドアの辺りで待機。俺はステンドグラス辺りにいる」
「分かりました。2人ともお気をつけて」
「任せろ」
「不幸せな結婚ほど退屈なものはないからね」
結婚式の教会前、中のリコが神父の「誓いますか?」で合図を出しアレンが突入。
敵が敵意を示した時点で俺が参戦。
混乱に乗じてフユとリコは工房に退避。
そういう算段だ。
「病める時も健やかなる時も互いに支え合い共に寄り添うと誓いますか?」
タイミングはバッチリ。
俺は魔力がないから分からないが今頃はリコがアレンの魔力に呼びかけているはずだ。
あとは、アレンが突入するだけなんだが...遅いな。
神父の言葉の直後に入ってくるはずなんだが...まさか。
今頃になってビビったか?
有り得る。
「ったくしょうがない奴だ」
俺かアレンが動かない限り結婚式を止めることは出来ない。
最初に動くのは正直どちらでもいい。
ならば、俺が動けばいい話。
バリンという音と共にステンドグラスが飛び散る。
「その結婚、認めるわけにはいかないな」
「誰だお前は」
最初に声を上げたのはフユと同じ猫耳の亜人。フユと違うのはその圧倒的な筋肉。
折角の白い正装もぴちぴちできつそうである。
「一介の冒険者だ」
「その冒険者が人様の結婚式に土足で荒らしていいものか」
「その女は俺の仲間だ」
「その前に儂の娘だ」
「散々放置しておいて今更父親面か。笑わせる。自分が親というならもっと娘の事を考えたらどうだ?」
「考えている。この結婚もフユのことを思って...」
「その本人の意志ガン無視でよくもまぁんなことが言える。親としては最低だな」
アレン。覗いてないでいいから突っ込んで来い。
確かに、拳の一つでもまともに食らったら骨折だけじゃすまないかもしれないが。
お前なら防げるだろうが。
ヒュンという空気を切る音。
その音が聞こえた時には切っ先が俺の喉元に突きつけられていた。
「ご領主様への無礼。私が許さない」
「誰だお前」
「我が名はアベル・アインツベルン!誇り高き騎士の家系に生まれた者なり!」
「部外者に興味はない。すっこんでろ」
「この状況が分かってのことか」
「この状況?侵入者1人殺せない棒切れを突きつけた状況がどうかしたのか?騎士なら大切な奴を守るために即座に切り捨てるはずだが?」
こう会話してる暇なんてない。
他に騎士もいるなか誰一人として動く気配がない。一応警戒はしてるみたいだがなにもしない時点で騎士失格だ。
「貴方は下がっていてください。ここは私が」
「細い棒きれでどうするつもりかね」
「ここで別れです」
アベルの細剣5連撃
確かに速い。だが、リコの魔法により俺の動体視力は大幅に強化されている。
後は俺の体がその速さを上回るほどの速度でよければいいだけ。
「当たらな...!」
「貰った!」
「ふんぬ!」
アベルへと放った斬撃は太い何かに阻まれた。
ゴツゴツとしていて表面には細いなにかが浮き出ている。
腕だ。俺の刀を防いだのは右腕だった。
「おいおいマジかよ...俺の刀を防ぐ腕ってなに」
「娘の祝いの場を荒らした罪。万死に値する。その首、もらいうける」
太い腕から出される打撃は当たれば即死、掠れば骨折という絶対回避を強いられるほどのものだ。
それに細剣の突きで思うように動けない。
「はあ!」
「うぐっ...!」
アベルの細剣が腕を数回かすめる。
服には血が滲み集中力を散らす。
「どうしました。動きが鈍くなってますよ」
「二対一が騎士のやることかよ」
「大切な人を守るためです。それに貴方は強者の部類に入る...それだけの話です」
「降参するというなら殺しはしないがどうする」
「『一刀流居合ー無尽一閃』」
「往生際の悪い...ふんぬ!」
俺の刀はまたしても防がれてしまった...だがそれでいい
「えい」
「うっ...!」
「ご領主様!...しまった!」
「よそ見をするな」
アレンの盾は相当な重さがある。筋力Sの俺が持ち上げられないほどの重さ、それを耐えきるには耐久がSS以上が必要。
アレンの盾を頭に喰らった領主はその場で膝をついた。
思わぬ不意打ちを受けたアベルには俺の峰打ちを強めにいれた。
「よし!逃げるぞ!リコ!」
「フユさん!」
俺はリコをアレンはフユを抱えて教会から逃げ出した。
フユの工房に着くころにはアレンをフユが抱えていた
「遅すぎたから変わったにゃ」
かっこわるい終わり方だな。
「今日中にこの街を出るぞ」
「そう言うと思って着替えたにゃ!」
あの二人を相手にするには戦力が足りなさすぎる。
ここは逃げに徹するしかない。
フユの案内で裏路地を通ってシルフィード領とは反対の北側の門のところまで来た。
だがリコの時と同じように兵が既に待機していた。
「強行突破だ。どうせここにいてもいずれ見つかる」
「私もそろそろ本調子になってきましたので援護くらいなら出来ます」
「でもどうするんだい!まさか全員殺すなんてことは...」
「リコの援護がなければそうなるがあれば別だ」
「いたぞ!大罪人共だ!」「とまれ!」「ここからは通さ...!」
「うるせぇ!邪魔だ!」
「ぎゃーーー!痺れる!」
リコの属性付与魔法。
気絶しやすい雷系の魔法を付与してもらって攻撃した。
金属の武具なんてしてるからよく効くなー。
「集まってくるだろうからこのまま突っ切るぞ!夜になったら俺は戦えないからな!」
倒れ伏す兵士達を残して王都へと向かった。