第12話 結婚式?よし!ぶち壊す!
「ちょっと行ってくるにゃ…」
「フユ...」
「大丈夫にゃ。すぐに帰って来るにゃ」
フユはピシッとした服装の奴らに連れていかれた。
「領主の娘は大変だな」
「その大変さがわからないようではまだまだだね」
「喧嘩売ってんのか?」
「リコさんと付き合うなり結婚するなら理解してあげないとお互いに不幸になるよ」
「そうかい。何回も告白して振られてる奴がいうと説得力が違うなー」
「でしょ?」
皮肉で言ったんだ馬鹿野郎。
なにドヤ顔してんだよ。
「で、リコ。さっきから黙ったままだがなにか気になることでもあるのか?」
「さっきフユを迎えに来た人達...特別な時にのみ着る服を着ていました」
「その特別な時っていつだ」
「女王様への謁見または…結婚式です」
「リコはどっちだと思う?」
「後者です。それ以外考えられません」
「その根拠は?」
「女王陛下は今、政権を御息女様に譲渡したばかりでリューさんと出会う1日前に行ったばかりです。今から会いにいくなんて考えられません」
「だが結婚するならフユは事前に言ったんじゃないか?」
「...私の時もそうでした。婚姻はその日に決められその日のうちに式まで上げるんです。私がリューさんと出会った時は身体を清めてる時でした」
すぐに帰ってくるか...大嘘こきやがって...くだらねぇ。
「フユさんのご両親を説得することは出来るの?」
「無理だと思います。言葉でなく力で示さなければいけないので...」
「それなら俺が...」
「いくらリューさんでも勝ち目はないです。娘のフユであの能力値ですよ?ご両親、特に領主様本人は全てS以上で筋力と俊敏にいたってはSS以上だと思います」
亜人の家計は化け物揃いだな。
敵としてなら不満はないが殺しは出来ない。
さて、どうする?
「連れ出すしかないのかな?」
「今日結婚するってなら誰かしら張り付くだろ。そんな隙はないと思うぞ」
「んー。どうしようか」
「お前、案外ショック受けてないのな」
「え?まあ、可能性が消えたわけじゃないからね。可能性が少しでもあるなら実行するタイプだからね」
「頼もしい限りだ」
フユに振られ続けて鋼のメンタルを手に入れ、仲間という心の支えを手に入れたアレンはとにかく頼もしかった。
「お2人共...まさか結婚式に乗り込むつもりですか?」
「「その通りだけど?」」
「無茶です!結婚式にはご領主様本人がいらっしゃいます!例えフユの元へ辿り着けても連れ出すなんて不可能です!」
「リコさん。それはやって見なきゃ分からないよ」
「あと、俺らにだってちゃんと思うところはある。今までさんざん放置しておきながら使うところは使うという自分勝手な言動が少なくとも俺は大嫌いなんだ」
「僕も同意見かな」
だから結婚式をぶち壊す。
リコの家みたく時々...十分に目をかけて育てたなら俺はなんも言えない。
だが、フユの家は放任主義という名の孤独。
アレンがいて、注文する客がいたからやってこれたと言うだけの話。
それがなかったらフユはどうなっていた?
考えただけでもイライラする。
「どうやって邪魔しようか」
「アレンが乱入してその間にリコが魔法で足止め?」
「無理ですよ...今はまだ太陽が出てますし足止めするだけの力がないです」
「んーじゃあ...強行突破しかなくね?」
「策尽きるの早すぎでしょ。もう少し考えようよ」
「強行突破が1番楽なのに...」
「楽が最善とは限らないのは君だって知ってのことだろう?」
「...リコ。結婚式の準備ってどれくらいかかる?」
「顔合わせがあって、身体を清めて、着替えてですから...数時間はかかります」
「清めるときは1人だろ?その時に攫えないか?」
「...私の時も人はいましたよ。リューさんが変な行動を取ればすぐに動けるようにはしてありました」
「結構危険な状況だったんだな」
旅の相棒との初対面と同時に命の危機でもあったらしい。
あの時の俺、よくやった。
「どうするかなー。強行突破も無理、策を練ろうにも時間が足りない...クソ、急すぎる」
「僕らだけじゃ戦力が足りなさ過ぎるんだよ。かと言って皆が協力してくれるわけもないし」
考えてても埒が明かない。
こういう時はその場の対応で何とかするしかない。
「進行は任せるよ?」
「任せろ。アレンは俺が領主を止めている間に抱えて逃げろ」
「その前に、フユの気持ちを聞いておきたい。リコ、頼めるか?」
「もう、どうなっても知りませんからね」
失うものは何一つないからな。
居場所も無いに等しいし帰る場所なんてもっと無い。
何も持たざる者の強みだ。
☆
「フユ。会いに来ましたよ」
「リコ...よくここだって分かったにゃ?」
「私だって領主の娘ですから分かりますよ」
「リュー達はどうしたにゃ?」
「フユが出て行った後、ギルドの仕事を受けに行きましたよ」
「あの二人には悪いことしたにゃ」
フユが帰ることは不可能。
この先、あの鍛冶屋にも戻ることなく屋敷で旦那さんと一緒に暮らすことになる。
「顔合わせはしましたか?」
「したにゃ。」
「どうでしたか?」
「優しそうでいい人にゃ。亜人への差別はなく亜人との共存を望んでいるにゃ」
「結婚したいと思いましたか?」
「思うわけないにゃ。今日あって分かったのは見た目と表側の考えだけ、肝心なことは何一つ分かってないにゃ」
領主の娘というのは所詮そんなもの。
両親によっては顔合わせからある程度の期間を開けますが、大抵の場合その日に顔合わせから挙式まで進める。
自分の家系を途絶えさせないように考える時間を与えないようにする。
それが普通。
「リュー達にはまた今度謝って置くにゃ」
「私も一緒に謝ります」
親友の悲しそうな顔をみるとこの先の展開を教えたくなってしまう。
しかし、そんなことをすればバレてしまう。
今はただ泣きそうな親友を抱きしめることしか出来ない。
☆
「なるほど。フユは望んでないわけだ」
「それはこっちがやりやすくなっていいね」
「お相手は細剣の使い手です。その腕は国で一二を争う程だと言われています」
ほう。強者が2人も...やっぱり異世界最高だな。