第9話 変な奴
仕事を終えた俺たちはフユの工房にいた。
そして、目の前には数十分もの間土下座している男がいた。
「フユさん!あなたが好きです!」
「何度も言うにゃ。アレンとは付き合えないにゃ」
「名前覚えてくれたんですね!ありがとうございます!今日はそれだけで充分です!それでは、また明日来ます!」
「いや、だから...」
フユが言い終わる前にアレンという男は走り去って行った。
「あれはフユのなんなんだ?」
「不審者」
「淀みねぇな」
即答で答えやがったよ。
まあ、あの感じだと何回も来てるみたいだし毎回あんな告白されてたらそら不審者だわな。
「フユ...まだ諦めてもらってないんですね...」
「もう何十回目か忘れたにゃ…」
「あのアレンとかいう男の何がダメなんだ?それが分からないと相手も諦めきれないだろ」
「ダメという訳ではないにゃ。ただ見た目細いしギルドカードを見た感じ能力も平凡にゃ」
「フユはどんな人ならいいんですか?」
「そういうのは考えたことないにゃ」
「リューさんはどうですか?」
「おいコラ」
「ふっ、人をゴリラ呼ばわりする男に興味なんてあるわけないにゃ」
「事実を言ったまでだ」
「そこまでですよ?それ以上喋るなり攻撃をするならこの工房が無くなりますよ?」
保護者のストップが入ってしまった…いつか泣かしたる!
「そうです!フユ、リューさんに恋人の役をして貰うというのはどうでしょう!?」
「「嫌だ」」
「えぇ...2人して否定しなくてもいいじゃないですか...」
「そんな面倒なこと俺に出来るわけないだろ」
「選りにも選ってリューはないにゃ。それならアレンの首の骨折るにゃ」
俺に恋人のフリを頼むのと人を殺すのが同等かよ。
「でも彼に諦めて貰うにはそれくらいしかないんじゃないですか?」
「お父さんに言えばすぐに解決する問題にゃ」
「この世界の父親は全員娘を溺愛し過ぎだろ...」
リコの時もそうだしこの感じだもフユの所もそうなのだろうよ。
非常に面倒くさそうだ。
「フユがここにいる限り多分アレンは諦めないにゃ」
「と言うと?」
「アレンは冒険者でこの街を拠点としているにゃ。随分前からここを拠点にしてるから離れる気はないと思うにゃ。」
なるほどな。
この街に住んでいて尚且つほぼ永住が決まっているような人と言えば、領主の娘であるフユ以外居ないと言う訳だ。
「それだけならまだ断る理由は沢山あるにゃ。けど、アレンにはちょっとした借りがあるにゃ...」
「借り?」
「数年前にちょっとやんちゃして外に行った時にモンスターに殺られそうになった、その時に助けてくれたのがアレンにゃ」
「...アレンってそんなに性格とか色々に問題があるのか?」
「真っ直ぐで嘘が嫌いは性格にゃ」
幼い頃からの甘やかしというか、贅沢すぎじゃね?
付き合いたいとか結婚したいという願望を持ったことがないから実感出来ないがそんな選り好みしてる場合でもないと思うぞ?
「まあ、嫌なら断り続けるか脅すしかないだろ」
「それが出来たら苦労しないにゃ...」
「派手に脅すと両親に迷惑がかかりますからね」
領主の娘という立場故の面倒くささ。
俺が何を言おうと最終的に決めるのはフユだ。
なら暖かい目で見守ろうじゃないか。
リコを連れてギルドまで行く途中例のアレンと出会った。
「君はさっきフユさんと一緒にいたよね?どういう関係だい?」
「お前に関係ないだろ」
実際は今日出会ったばかりの関係ではあるが、それもわざわざ教えてやることも無い。
「まさか...!僕のフユさんに言いよっているのか!」
「言いよってる訳じゃないが…」
「め、迷惑だと思わないんですかねまったく。何度も断られてるのにその...しつこく付きまとうなんて...人としてどうかと思うよ」
「その言葉、お前にそっくりそのまま返してやるよ」
自分の状況を自分で悪くいう頭の悪さ。
所々言い淀むあたりあくまで牽制のつもりなんだろうな。
「俺とフユが付き合ってると言ったらどうする?」
「!け、決闘だ!」
そう言うやいなや腰に下げた剣で斬りかかって来たではないか。
だが、遅すぎる。
俺ならもう10回は斬ってるぞ。
最近付けた付け焼き刃といったところ。
あの怪力女のどこがいいんだか、分からんな。
「リューさん!殺しちゃだめですよ!」
「...頑張りマース」
広場で剣を必死に振り回す男とそれを簡単に避ける男の決闘が始まった