表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/151

第84話 契約の最終確認

 俺とフィリーナ公爵が着いたテーブルには、部屋にいた全員が集まってきていた。


 フィリーナ公爵がディーラー席に座り、俺がその対面にいる。


 ディーラーは、フィリーナ公爵の隣に立っていた。


 苛立った表情のフィリーナ公爵は、俺に向かって話しだす。


「……勝負のルールを説明させてもらうわ。ゲームはポーカーで、ドローは一度のみ、カードはこちらで用意した物を使用する。ここまではいいわね?」


「オーケー、だけど俺にも一度だけデッキを持たせてもらっていいかな?」


 デッキを手に持つ事は重要なので、許可をとっておきたい。


「……デッキを持つというのは、どういう意味なのか教えて」


 俺が、意味のわからない事を言っている、と思っているようだ。


 発せられる声からも更に苛立っている感情が見えている。


「その言葉の通りです。シャッフルはせずに、デッキを手で持つという事です」


 その言葉を聞いて、フィリーナ公爵はディーラーを見る。


 ディーラーは頷くように顎を引いた。問題ない、という事なのだろう。


 フィリーナ公爵はそれを見て、少し溜飲が下がったのか、落ち着いた声になり話を続ける。


「デッキを手に持つのは許可しましょう。そしてベットするものは、あたくしは奴隷で貴方はその命。それで異存はないわね?」


「はい」


 俺は短く答える。


 その時、俺の後ろから動揺した声が聞こえた。


「ヤクモ! 命を賭けるってどういう事だっ!?」


 ギャラリー達の視線が、声のした方に集まる。


 俺は声の主が誰だか分かっているので、ゆっくりと顔を向けた。


「どういう事って、そういう事だよ。ジュリアス」


「意味が分かんねえよ。負けたら死んでしまうんだぞ、お前?」


「別にいいよ。お姉ちゃん、ティア、エリーが居なくなった生活に未練はないから」


 俺の言葉を聞いたジュリアスが、嬉しそうな表情になる。


「ヤクモ、お前、ようやく彼女達のーー」


 その時、耳をつんざくテーブルを叩く音がした。


「貴方達、あたくしを、いつまで待たせるつもりなのかしら?」


 そう言ったフィリーナ公爵は眉間に皺を寄せ、俺達を睨んでいた。


「公爵殿下、あまり怒るとその美しいお顔に皺ができまーー」


 俺がお節介を焼こうとすると、電光石火で再びテーブルが跳ねた。


「貴方は、あたくしを年増だというのっ!?」


 フィリーナ公爵は、怒り頂点なり! という画を描いている。


 人間は本当の事を言われると腹が立つものだ。


「母上、そんなに怒られては、負けてしまいますよ? この男はそれを狙っているのです」


 どこからともなく、ヌルっと会話に入ってくる人物がいた。


 思わず声のした方を見てしまう。フィリーナ公爵も同じ動きだ。


 そこに居たのは、金髪ロン毛の不健康そうな優男。顔色は真っ白に近い。


 そんな不健康優男が、こんな不健全な場所にどんな用事があるというのか。


 しかし、フィリーナ公爵は違った。


「あたくしのテオ。貴方は起きてきてはいけないでしょう? お部屋に戻りなさい」


 俺達に放つ棘がある話し方ではなく、子猫をあやすようなそれは、別人だと勘違いしてしまいそうだ。


「母上、今日は体調が良いのです。廊下を歩いていたら、母上の声が聞こえたのでお邪魔しました」


「あたくしが、そんな大きな声を出すわけがないでしょう? テオの空耳よ?」


 嘘つきオバサン、見参!


「そうでしたか母上。僕もこの楽しそうなゲームを見ていきましょう」


 テオ君はテーブルの端に移動する。ゆっくりとした動作は優美ですらある。


「アリシアッ! テオに椅子を用意しなさい! 早くするのよっ!」


 フィリーナ公爵は、大声で慌ててメイドに指示を出している。


 三秒で覆った言葉。


「……はい、マスター」


 反応したのは、ティアにそっくりな金髪ゆるふわのメイドだった。


 言葉や表情に、感情を見つけることができない。


 ん? アリシア? 最近、聞いた事があるような気がする。


 そんな時、ヴィド三人衆の姿が目にはいった。


 ヴィド三人衆は、さっきのメイドに釘付けになっている。


 俺は、フィリーナ公爵とテオ君が話をしていたので、立ち上がりヴィド三人衆に近づいた。


「気になっているアイドルを、街中で見かけたような顔をしているけど、どうした?」


「ヤクモか、アイドルがよく分からんが、あの方はヴィド教会国家の第一王女、アリシア様だっ!」


 答えたモーガンの表情には、険しさがうかんでいる。


「ナ、ナンダッテー」


 俺は目一杯の感情表現で答える。


「お前、今、全く感情がこもっていなかったな……。チッ! こんな場所で匿われていたら、分かるはずがねぇ! 行方不明な訳だ……。やっつけちまうか?」


「……掻っ攫う」


「ワタシの火球で牽制しましょうかあ、ルクール、その隙きを狙うのですよお」


 音楽家に対して感情がこもっていないとは、失礼なやつだ。


 そして、ヴィド三人衆は、相変わらずの脳筋仕様だった。


「まあ、俺に任せてよ。絶対に全員を取り戻すから」


 俺は、右手を水平にして親指を立てた。


「あ、あぁ、そうだな。期待せずに見ておく」


 モーガンはそう言いつつ、目は輝いている。


 男のツンデレとか誰得なんだ? 


 俺は首をかしげながらテーブルに着いた。


「貴方、あたくしを待たせるなんて、どういう了見なの?」


 フィリーナ公爵とテオ君のお話は、既に終わっていたようだ。


「仲間と話ができるのも、これが最後になるかもしれないので……」


「あら、そういうことね。貴方が勝てる要素なんて、この部屋の塵ほどもないでしょうからね」


「そういう事です。お待たせして申し訳ございませんでした。そこで再確認ですが……」


 俺は、テーブルに置いていた風のナイフを、突き立てた。


 そして、声音と視線を強める。少しフィリーナ公爵が怯んだ気がした。


「賭けるものは、俺が自分の命を貴女が奴隷で間違いないですね?」


「え、えぇ、それで間違いないわ」


「分かりました、それでは始めましょうか? ディーラー、カードの用意を」


 俺はディーラーに指示をする。


 ディーラーは慌てて箱からカードを取り出した。


「貴方は変わっていますね。腰が低いと思うと今の様に上からになる。こんなに翻弄される母上は初めて見ます」


 隣からヌルっと声が聞こえたので見ると、テオ君が座っていた。


 近くで見ると、さっき感じた金髪ロン毛不健康優男という評価は、間違っていることに気がつく。


 儚い金髪ロン毛不健康優男だった。


 触れると壊れてしまいそうな。まるで、九Hのガラスフィルムで厚さがうすうす仕様みたいだ。


「この後、もっと面白いものが見れると思うよ」


 それを聞いたテオ君は静かに笑う。上品な笑い方だ。


 そして、誰にも聞こえないような声で言った。


「僕を……」


 それを聞いた俺は驚く。


 そうしていると、ディーラーがカードをシャッフルし始めた。


 テオ君からの提言は罠なのだろうか?


 俺はディーラーの手元を見逃すことの無いように、テオ君の真意を計ろうとしていた。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んで頂いて本当にありがとうございます!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ