第79話 芸術の国、サンブリア公国
俺達を乗せたグングニルは、夕日を背にサンブリア公国の東にある、飛空艇の離発着場に着陸した。
キャリー船長の操舵は相変わらずの特級品で、全く揺れが起こらない。
俺達は、タラップに苦もなく降り立つことができた。
「今度も遅れるんじゃねえぞー!」
キャリー船長がいつもの様に発破をかけてくる。
俺達はいつもの様に軽い返事をして、タラップを降りて行く。
離発着場には、幌馬車が停められており、軍服を着た男が三人立っていた。
そのうちの一人が、俺達に気が付いて近づいて来る。
「シュタイン王国からの特使の方ですね。フィリーナ大公殿下より承っております。こちらにどうぞ」
その言葉に合わせて、待機していた男の一人が、幌を上げて誘導する。
俺は、待機していた軍服の三人を、訝しげに見てしまった。
三人は不思議そうな表情で俺を見ている。
俺が何故、彼らを見てしまったのかというと、例によってイケメンだったから。
俺は、この世界に来て、周りの美男美女率に疑問を抱いていた。
容姿に優れている人々が常に身近にいると、感覚がおかしくなってしまう。
この国に至っては、入国した瞬間から、ハ○ス&アンド○&○スカルが控えていたのだ。
ちなみに最後の人は、あらいぐまの事ではない。
どういった経緯で、フィリーナ大公はこんなイケメン軍団を形成しているのだろうか?
まあ、女主人✖イケメンという公式を見ると、何となく答えは出ている。
そんなイケメンに、エスコートされているウチの姫様達は、無関心をキメこんでいる。
むしろ、イケメンが見惚れている節があったりする。
最後に俺が乗りこむと、幌馬車は動き出した。
移動中の幌馬車は快適とは言えなかった。
ハ○スっぽい男が馬を操り、後の二人は中で微動だにしなかった。
しかし、何もしていなかった訳ではなく、視線は休まっている時がないほどだった。
恐らくは、要人警護のシークレットサービスという体裁なのだろう。
そんな彼らの幌内での様子は、非常に違和感があるものだった。
危機管理の為、視線を巡らせるイケメン。
だが、お姉ちゃんを見た途端に泳ぐ視線。
すぐに軌道修正をはかり復帰する。
次の俺でそのままスルー、次のティアで泳いで修正。
更に次のエリーでも同じ動作をしていた。
そんな状態だったので、俺達はリラックスして話もできない。
居心地が悪い環境で、二時間くらい過ごした時、幌馬車の動きが変わる。
坂を上っているのだろう、幌馬車の速度が少し落ちて、勾配を感じる。
舟を漕いでいたルクールが、反応できずに馬車から落ちそうになっていた。
お姉ちゃんは俺にグイグイ寄ってくる。
ティアは俺の腕にしがみついてくる。
それを見たエリーは、ティアを俺から離そうと引っ張る。
更に、俺の腕へ抱きついてくるティア。
ティアが、グラマラスデンジャラスボディなのは、世界の誰もが知る事実だ。
えぇ、かなり盛りましたよ。これでもかっていうくらい。
そこまで俺は追い詰められていた。
前門の虎、後門の狼とは上手くいったものだ。
どちらに逃げても食べられちゃう。
おい、そこのイケメン二人! 見ていない振りはヤメロ! 助けてください!
俺の心の叫びはイケメン二人には届かない。
女神は俺を見捨ててはいなかったようで、勾配を感じなくなった。
坂道を抜けたのかもしれない。
しかし、何故か俺の状態は変わる事はなかった。
「きゃああ、弟君! この坂道険しいねっ!」
「ヤ、ヤクモ! わたくし、貴方の腕を離すと馬車から放り出されます!」
「ティア! ヤクモの腕を離しなさい! もう充分堪能したでしょう!?」
おかしい、元々そんなに角度は感じなかったし、今は全くの平坦な道だ。
俺はメンバーに助けを乞うべく、周りに視線を巡らせた。
メンバーが全員、半眼になっている。
イケメン二人は、羨望の眼差しを向けてきていた。
そうしていると、幌馬車は停車して後部が開く。
どうやら到着したようだ。
全員が俺達に見向きもせず、砂糖の塊を頰張ったような表情で幌馬車から降りていく。
そんな中で、一人だけ俺達に近づいて来る男がいた。
そして、もみくちゃにされている俺に、手を差し伸べてくる。
お姉ちゃん、ティア、エリーは不機嫌な表情になった。
「リア充、爆発しろ。だったな?」
「うるせえ! それより、早く助けてヘルプミー!」
俺に手を差し伸べたリア充。
ジュリアスはニヤリとしながら俺を引き上げた。
「もうっ! ジュリアスは空気を読んで欲しいですねっ!」
三人のほっぺは空気を含んだ風船のようだった。
幌馬車から降りて、その光景に目を奪われる。
小高い丘から見下ろす風景は、ルノワールの絵画を見ているかのようだ。
そして、丘の上の建物は宮殿だった。
宮殿の前には、手入れをされた花園があり、薔薇が整然と植えられている。
区画を美しく切られた通路は、宮殿全体の印象を引き締めている。
宮殿はベージュの色調で柔らかく彩られ、主人の感性の良さを表している。
芸術の国という噂は、決して誇大広告ではない、と言える佇まいである。
そんな、サンブリア宮殿の美しい装飾を施した扉が、開け放たれる。
俺達は、アンド○と○スカルの先導に従って、その扉をくぐる。
振り返ると、後ろで咲き誇る薔薇の花が、風によって揺れているのが見える。
美しい薔薇の花びらは冷たい風に攫われていくのだった。




