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第77話 シュタイン第一騎士団混合部隊

 グングニルが、色々な意味で大きく揺れていた頃。


 シュタインズフォートに向かっていた、シュタイン第一騎士団混合軍は、キャンプを張っていた。


 一昨日の正午に出発してから、結構な強行軍で進んでいる。


 シュタインズフォートには、あと四日で到着する予定だ。


 そして、沢山の人間が集まると、問題が発生するのは仕方がないことなのだろう。


 騎士団とギルドから集められた冒険者では、待遇面で大きな差異がある。


 騎士団には、雨避け用のテントや遠征用の食事など生活に必要な物は揃っている。


 冒険者達は、自前で用意をした粗末な寝具や硬い携行用の食事しかない。


 そして冒険者というのは、得てして乱暴者の集まりでもある。


 例外なく、このキャンプでもそういう輩はいるのである。


「おいおい、騎士さんよお! 俺達も戦うのに、お前達だけいい環境なのは納得いかねえよ!」


「何を言っている! 冒険者と俺達が同じ環境なわけないだろ!」


「さすが騎士様! お偉い方はちがうねえ! それじゃあ、この戦いも騎士様達だけでやれや!」


 それに合わせて冒険者側で、下品な笑い声が広がる。


 その光景を、少し離れた場所で見ている男がいた。


 この戦争に参加した勇者ルシフェルだ。


 通常、戦闘であっても、戦争であっても、ロールという考え方は変わらない。


 パーティーを組んで、その役割をこなすというシステムだ。


 しかし、ルシフェルはシルバーランクに上がった後、パーティーを組めていなかった。


 利己主義の意識が強い為、周りが離れていった結果、ソロでの活動を余儀なくされていたのだ。


 そして、今、騎士団と冒険者の小競り合いを、対岸の火事を見るような視線で見ていた。


 その視線も、何となく見ているといった様相だ。


「どうして、冒険者ってガサツなんだろうねー?」


 ルシフェルは、不意に声をかけられた事で我に返り、声がした方向を見た。


 そこに居たのは、人好きのする笑顔でルシフェルを見る男が立っていた。


 ルシフェルは怪訝そうな視線を男に投げる。


 男は見るからに怪しい仕草で、怪しくない事をアピールする。


「オレはジャックス。覚えてないかなー? ギルドの新人研修で同期だったのにさー」


 それを聞いたルシフェルは、ジャックスと名乗る男の事を思い出したようだ。


 しかし、一瞬、変わった表情はすぐに無感心に変化した。


「ああ、それで?」


「えー、その反応は傷つくなー。というかあの研修の時、キミにはもっと、こう、なんだ、やる気があっただろー?」


 全く傷ついていない軽い反応のジャックスに、ルシフェルは少し戸惑っていた。


 それを見透かしたように、ジャックスは言葉を続ける。


「さっきも言ったけどさー、同期を見かけたもんだから、声をかけたのさー。しかも前はキラキラしていたのに、今のキミはドロドロしてる。一体何があったのさー?」


 軽い雰囲気を継続するジャックス。


 ルシフェルは、この雰囲気ならば吐き出したほうが楽と、感じたのかもしれない。


「僕は自分の立場に溺れていたんだ。特別な職業、容姿、それによって付いてくる経済力。でも傲慢だった僕に誰も付いては来なかった。挙句の果てには捨てられて、生活も辛くなってこの戦いに参加したんだ」


 ジャックスはルシフェルの話を、フンフンと頷きながら聞いていた。


 ルシフェルがはなし終わると、一拍おいて確認する。


「今の話を聞いた限り、キミは改心している様にも思えるねー。もし良かったらだけど、オレ達のパーティーに参加してみないかー?」


 ルシフェルにとっては、考えてもなかった提案だった。



ーールシフェルは、王城で行われた舞踏会の後に起こった事を思い出していた。


 ギルドで必死に呼びかけても振り向いてもらえず、街中で募集してもメンバーは集まらない。


 少ない人数で、クエストをこなそうとして失敗。


 僕は悪くない、僕のスペックは高いのだから、失敗するのはおかしいと言い張った。


 孤立した後はナツメとかいう奴の様に、簡単なクエストを受けて、日々の生活をしのいだ。


 生活の拠点にしていた貴族のパトロンに家を追い出されてからは、馬小屋に住むようになった。


 馬小屋に住む同じ境遇の人からは、ジュリアスという騎士が自分達と同じ立場から、ここを出て良い生活をしているという、成功話を聞かされた。


 シルフの村で、優秀な周りの子供を傍目に自分を襲った劣等感。


 最近は、それと同じ感情が沸き起こってきていた。


 そんな僕をメンバーに誘ってくれている。


 ルシフェルは苦い思い出に蓋をして、ジャックスに答えた。



「こんな僕でよかったら、是非お願いしたい!」


 その答えにジャックスは目を細めて喜んでいた。


「良い返事だねー。オレもパーティーメンバーが増えるのは嬉しいからねー。おーい、みんなー」


 ジャックスが大声で呼ぶと、ゾロゾロと人が集まってきた。


「新人研修で会ったことがあるかもしれないけどー、オレ達は同じ村から来た連れ同士でパーティーをくんでいるんだー。そしてリーダーをしているのは、くじ引きで決まったオレー」


 改めて自己紹介をするジャックスと握手を交わすルシフェル。


 ジャックスはそのまま、全員を紹介した。


 騎士が二人、盗賊が一人、弓使いが一人、治癒師が二人、魔術師が二人の理想的なパーティー構成。


 ルシフェルが挨拶をすると、女性である治癒師二人と魔術師一人が色めき立つ。


 他の男性メンバーは少し面白くなさそうな表情だ。


「イケメンはいいよねー、オレもそんな容姿で生まれたかったよー」


 ジャックスは、本気とも冗談とも分からない口調で言ったのだった。


「ところで、ルシフェル」


 ジャックスは表情を真剣なもの変えていた。


 ルシフェルは、なんだ? という疑問を浮かべた表情になる。


「オレはねー、チーム内のイザコザが大嫌いでさー。ちょっとアレをやっつけたいんだよねー」 


 ジャックスが親指を向けた先、そこには今だに言い合っている騎士と冒険者の姿がある。


「オレ達の存在もアピールできるしさー、あの冒険者の先輩、ゴールドランクなんでなんとかなるでしょー」


 ジャックスはそう言って、口論している方向へ歩き出した。


 ルシフェルとパーティーもその後ろを追いかけた。


 


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