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第76話 夜空の下は危険がいっぱい

 俺達を乗せたグングニルは、次の目的地であるサンブリア公国に向かっていた。


 フィリーナ大公が治めるサンブリア公国は、首都をサンドリアとしている。


 大貴族であるフィリーナ大公は美しいもの、すなわち芸術品をとても愛している。


 それがサンブリア公国の国策として謳われており、国の特徴を具現している。


 芸術の国。


 これがサンブリア公国の別称だ。


 国の予算として、芸術への投資を設けており、それを使い芸術品を蒐集している。


 これが、国民への負担となり、サンブリア公国の生活水準を押し下げている。


 王立図書館で読んだ、世界まるみえ百科辞典に記載されていたものと、お姉ちゃんから教えてもらった情報を足して二で割った感想になる。


 これをティアに言ったら、ま、まぁ、間違いではないですね……、と返された。


 なんだか、間違いないのに間違えているような返答に、やるせない気持ちになる。


 そして船内の娯楽、ババ抜きが始まった。


 ワンゲーム終えた後、俺は休憩するために甲板に出ていた。


 既に日は落ちて、満天の星が俺を出迎えてくれる。


 月もこの天候の良さが心地良いのか、笑っていた。


 今日も北の方角を見ているが、先日までの光景は視認できなかった。


 一瞬、明るくなったかと思うと、その光が収束していく様は、花火を見ているようで美しかったのだ。


 代わりに夜空の星の輝きが、何にも邪魔をされずに楽しめるのは僥倖なのかもしれない。


 日本にいたときは、こんなに美しい夜空を見ることなくなっていた。


 大雨が降って、空気中の埃を落としたとしても、だ。


 感慨深く夜空を見上げていると、足音が聞こえた。


 足音がする方向を見ると、ちっちゃなおっぱい星人がそこにいた。


 いや、間違えた! ゆるふわ金髪癒やし美少女のティアがいた。


 近づいてくるティアは柳眉が逆だっている。ご機嫌ナナメな様子だ。


「ヤクモ、今、失礼な事を考えましたよね?」


 言葉の端々に鋭い棘があるような気がする。


「ヤダナー、ティアサン、ソンナワケナイデスヨー」


 俺は、失礼な事など微塵もなかったことを証明する為、毅然な対応をした。


「ヤクモッ! どうして片言で返してくるのですっ! 失礼ですよ!」


 くっ! 『カタコトの異世界人、女性の機嫌をとって成り上がる』作戦は失敗だったようだ。


 俺はオペレーションアルファからベータへ作戦をシフトした。


「ティアの魅力的な姿が満天の星空に輝らされて、おれにょ心が平常心」


 途中まで考えていたセリフを言えてたのに、噛んで頭が真っ白になった。


 しかも、何を言っているのか既に分からなくなっていた。


 俺は自分がモブであることを再認識する。


 しかし、状況を見ていたティアはクスリと零した。


「ヤクモ……。もしかして、お姉様がサンブリア公国で、行方不明になっている事を気にかけて……」


 そんな事は決してない。


 しかし天が与え給うた起死回生、千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。


「ティアのお姉さんもティアみたいに可愛いの?」


 なんで、俺は脱線してるの? 千載一遇じゃなかったの? 死ぬの?


 脳みそが絶対にショートしている自信がある。


 そう言えば、以前、脳内スパコンが四択をはじき出したとき、禄な回答が無かった気がする。


 しかし、俺の想像に反して、ティアの瞳は濡れていた。


 そして、俺の胸元を小さく握り、顔を上げる。


 潤んだ瞳、少し朱を帯びた頬。そこに上目遣いが追加され、ティアはハートブレイカーと化していた。


 俺のハートもブレイクされたのは必然だった。


「ヤクモ、どうして、貴方はわたくしの事を、可愛いと言ってくれるのです? 今まで言われた事がないのに……」


「ティア……、俺は自分に嘘はつけないよ」


 俺の喉は今、熱砂の砂漠で彷徨っているくらいに乾いていた。


 ティアは更に俺の方へ体を寄せてくる。


 あ、当たっているんですが……。


 そして、上目遣いのまま、顔を上げるティア。


 俺と目があった瞬間、口角を少し上げて微笑すると、目を閉じる。


 ま、まさか、このシチュエーションは!? ヤバいよヤバいよっ!


 大体、キスは言い合いから始まって、険悪な雰囲気でチュッてやるものだと思っていた。


 しかし、この状態のティアを待たすわけにもいかない。


 どうしていいのか分からないが、目を閉じてティアに顔を近づける。


 ティアの体に回す腕に力が入る。


 それで初めて気がついた。


 ティアの体が銅像の様に硬い。全身に力が入っているのだろう。


 俺は何をやっているんだっ!? ここは男らしくっ!


 そう思った時、超豪華客船グングニルに、この旅一番の揺れが襲う。


 今まで動いているのかを疑うほどの船が大きく揺れたのだ。


 俺とティアは目を閉じていたこともあり、そのまま座りこんでしまう。


 揺れは一回きりで収まったようだ。


 二人で座りこみながら、目が合った。


 ティアは恥ずかしそうに横に目を反らし、俺も何となく星空を見上げる。


 そんな余所余所しい二人の前に、口笛を吹きながら登場した人物がいた。


「あら、奇遇ね。弟君とティアじゃない。今夜は星が綺麗ね」 


 お姉ちゃんは、満面の笑みで天に広がる宝石箱を見上げている。


 ティアはジト目でお姉ちゃんを見ている。


「アンナ、まさか貴女が……」


「どうしたの、ティア? 私は犯人(ほし)を見に来ただけよ。夜空の下で弟君(たからもの)を汚されないように、ね」

 お姉ちゃんは星を見るために、この美しい夜空を眺めに来たようだ。


 何故か、ティアはお姉ちゃんと感電しそうな鋭い視線を交えている。


 その時、慌てるような声が聞こえてきた。


「大丈夫かー? 怪我をしている奴はいないか?」


 キャリー船長だ。


 俺は全員が無事であることを伝えた。


 それを聞いた船長は戻っていこうとしていた。


 途中で振り返り、俺に明日の予定を伝えてくる。


 その内容は、明日の夕方には、サンブリア公国の離着陸場に、到着するだろうという事だった。


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