第70話 狩られるハンター
わたくし達が、店から出て少し歩いたところで、第一王子が後ろから走ってきました。
「君達、一体どうしたと言うんだ? 第一、俺を誰だと思っている? 場合によってはーー」
「貴方ごときが、わたくしに何かをできるのですか?」
わたくしが答えると第一王子の顔は真っ赤に染まりました。
「オマエッ! 誰に向かって言っているのか分かっているのかっ!? 無礼にも程があるっ!」
メッキの仮面が剥がれ、言動が荒々しくなりました。
こんなに簡単に剥がれるメッキならしない方が良いでしょうに……。
「無礼はどちらでしょうか? 第一王子がこんな人間だとヴィド教会国家も先はないですね」
わたくしの言葉で更に激昂する第一王子。
こんな簡単に感情をコントールされるようでは、為政者は務まらないと思います。
第一王子が大きな声をあげているので、周りを警備していた兵士も集まってきたようです。
先ほど一緒にいた、ブラウンの髪をした二人の男もこの場にきました。
第一王子は警備の兵士にまくし立てます。
「お前達っ! 何をしているっ! あの女共を不敬罪で捕らえろっ!」
「ロビン様、申し訳ございません。アーシェラ様より、この方達には指一本触れるなと……」
「な、なん、だとっ!?」
兵士が動けないことを聞いて、狼狽える第一王子。
アーシェラ様の配慮に感謝しなければいけませんね。
「王子様。わたくしを一体どうされるおつもりか、教えていただいても良いですか?」
わたくしは一歩前に出て追求する。
侮蔑ののった口調で。
「ぬおおおおおおぉぉぉぉ! 俺を舐めるなああああああぁぁぁぁっ!」
突然、大声を出しながら突進してくる第一王子。
わたくしはため息をつきました。
第一王子の初動で大体の実力は分かりました。
どういうつもりなのでしょう。
そんな実力でこちらに向かってくるなんて……。
頭に血が上ってしまって、正常な判断ができないのであれば、教皇職など継ぐことはできないでしょうに……。
しかも、平気で女性に向かって手を上げる考え方は許容できません。
そんな事を考えていると、第一王子はわたくしの近くまで接近してきていました。
第一王子はわたくしに右ストレートを繰り出します。
わたくしは、その止まったような拳を躱しました。
そして、第一王子の横をすり抜ける際に、簡単な戦闘評価を教えて上げました。
「実力はブロンズランクにも到達していないですね。わたくしに挑むのは早すぎます」
わたくしの言葉に、驚愕の表情で答える第一王子。
不思議とこういう時は、時間の経過が遅く感じます。
わたくしはそのまま名乗ることにしました。
「アイリーン・フォン・シュタインに挑んだ事は誇りに思っても良いでしょう。そして自身の愚かさを悔いなさい」
「ど、どうして、シュタインの剣姫が、ヴィドに来ているん、だ?」
あら、わたくしの事をご存知でしたか。
第一王子の背後をとりました。
「これから眠りにつく貴方には関係のないことです」
わたくしはそう言って、第一王子の即頭部に回し蹴りを放ちました。
第一王子は全く反応ができていません。
これでは受け身も取れないでしょう。
第一王子は回し蹴りの直撃を受けて、豪快に吹き飛びました。
まるでボロ雑巾のように。
着地した第一王子は、気を失っているらしく仰向けで微動だにしません。
ここからはアンナの仕事です。
「私、いやだなあ」
そう言いながら、離れた場所で第一王子に照準を合わせています。
「風よ……」
目を瞑りながら、精霊による真空の刃を発生させました。
狙う場所は一ヶ所です。
二度と女性に近づけないようにする為に。
「アッーーーーーーーーーッッッ!」
凄い悲鳴が聞こえてきました。
治療はティアの仕事です。
ティアも、顔を背けながら、嫌そうな表情で回復魔法を詠唱します。
第一王子は、ビクンビクンと気持ちの悪い動きをしながら気を失いました。
その様子を見ていた、ブラウンの髪をした二人の男が走り寄ってきました。
第一王子と一緒にいた二人です。
ティアの話では枢機卿の双子の子息なのだとか。
枢機卿の双子は大変な状態の第一王子に目もくれず、わたくしの正面で正座をしました。
そして、最初に私達を誘ったようなキラキラした瞳で見上げてきます。
「お姉様と呼ばせていただいてもいいですかっ!?」
一糸乱れぬ双子の言葉。
「あ、貴方方は、な、な、何をおっしゃっているのですか!?」
わたくしは衝撃の言葉に動揺を隠せません。
「俺達はお姉様の素晴らしい後ろ回し蹴りに惚れてしまったのですっ!」
「なんですって!?」
「俺にあの素晴らしい後ろ回し蹴りをっ!」
「こいつは後でも大丈夫なので、俺からどうぞっ!」
言い合っている間に、双子の口論は熱を帯びていき、ついに喧嘩に発展しました。
わたくしは埒があかないと思い、撤退を図ろうとアンナとティアを見ました。
二人はウィンクをしてきます。
わたくしも二人に合図をするべく、ウィンクをします。
何故かそのウィンクに反応する声がありました。
「俺、明日死ぬかもしれん。あんな美女にアピールされたんだぜ」
「おいおい、お前何言ってやがる、あれは俺へのアピールだ!」
「お、俺はもう我慢できんっ! ぶぶはぁっ!」
周りの男性から意味の分からない会話が聞こえます。
人によっては、幸せな赤いシャワーを鼻から放出していました。
わたくし達は大混乱を起こしている、その場所からそっと離れました。
そして、セントラルテンプルへ向かいます。
ヤクモは今頃何をしているのでしょうか?
わたくしは一刻も早く戻る決意をしました。
エリー「わたくし達がいる限り……」
ティア「あらゆる悪事は許さない……」
アンナ「その名は、人呼んで……」
みんな「あと最低限二人は必要ね」




