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第67話 突然の訪問者

 俺は案内された部屋に入ると、ため息をつきながら椅子に腰をかけた。


 部屋を見渡すと、チェスの街で泊まった宿屋と遜色がないほどの豪華な造り。


 しかし、俺の感情は動くことはない。


 部屋の明かりをつけることも億劫だ。


 無気力。


 そんな言葉が似合う状況。


 もしかしたら、ふとした拍子にドアが開き、いつものように三人がやってくるかもしれない。


 いやいや、ついさっき、イケメンと食事に行ったじゃないか。


 俺は一体、何が気になっているんだ? そして何を期待しているんだ?


 どうして……。


 周りに三人が居てくれる事が、普通になっていたから不安なのか?


 不安? 居なくなった事で不安になるって……。


 もしかして俺は三人に……。


 同じ事をグルグルと考えていた時、ドアがコンコンとノックされる。


 俺は神速で起き上がり、ドアまでダッシュした。


 これ程のスピードを出せるのは、俺の知る限りエリーだけのはずだ。


 俺はギルドマスターを超えていると確信した。


 部屋の明かりをつけて準備完了。


 そして、掛け声と共にドアを開ける。


「いらっしゃいまして、おくれやすー!」


 我ながら現金というかテンションが高すぎた。


 この言葉に驚いた表情をしているのは来訪者だった。


 俺は、あ゛、と声が出そうになる。


 そこに居たのはアーシェラさんと車椅子に座ったパウロ教皇だったから。


 

 椅子に座りながら、クスクスと笑っているのはアーシェラさんだ。


 パウロ教皇もニヤニヤとしている。


 俺の羞恥はマックスだ。


 ドアの向こうは未確認領域という事を忘れてはならない。


 しかし、この国のトップがこんな時間にどうしたというのだろう?


 俺が不思議に思っていると、落ち着いてきたアーシェラさんが話しだした。


「わたくし達の訪問に驚いていらっしゃるのでしょう? そうですよね、事前の連絡もありませんでしたからね」


 そう言いながら俺を真っ直ぐに見る。


「単刀直入に言いましょう。貴方は一体何者なのですか?」


 何者かって言われましても、普通のモブメンとしか言えない。


「言葉ではどうとでもいえますから、これを見てください」


 俺はギルドカードの秘匿を解除して見せた。


 特に隠す情報もない。


 それを見たアーシェラさんは、パウロ教皇に見せる。


 驚いた表情の二人。


「貴方、いえ、ナツメ様。この職業は一体?」


「音楽に携わる職業だと思いますが、俺には分かりません」


「それでは演奏効果というのも?」


「はい、どういうものかは俺には分かりません」


「レベルがⅥというのは?」


「ふぁっ!?」


 俺は自分で変な声が出たことに気が付かなかった。


 そして、ギルドカードをアーシェラさんからひったくる。


 アーシェラは少しビックリしているが、気になどしていられない。


 俺は自分のギルドカードをマジマジと見つめた。


 そこには【演奏効果Ⅵ】の文字が確かにあった。


 最近、ギルドカードを見ていなかったので変化に気がついていなかった。


 図書館で本を調べた時にはスキルのレベルはⅤまでと書かれていたはずだ。


「ふむ、ナツメ君」


 パウロ教皇が口を開く。


 俺が最初に見た時の仮死状態に近い面影は全くない。


「アルティアと結婚して、ヴィド教会国家に来ないか?」


 俺は一瞬、ドキリとしてしまう。


 さっきまでのグルグルとした思考の原因である名前がでたから。


 しかし、直後にスパーンッ! とイイ音が鳴る。


 アーシェラさんがパウロ教皇の後頭部をハリセンではたいた音だった。


 ティアもそうだったが、ハリセンをどこから出したんだ?


「ホホホ、このひとはまだ夢を見ているみたいですね。あなたも適当な事を言っているとしまってしまいますよ?」


 どんどん、しまっちゃわれそうなパウロ教皇。


 ハハハ、冗談だよ。と言って訂正するパウロ教皇。


「さて、ナツメ様が規格外である事は置いておいて……」


 脇に置かれてしまった。


 まぁ、聞かれても答えられないけど。


「今回、ヴィド教会国家へ来ていただいた連携の件なのですが、お受けいたします」


「えっ!?」


 俺は驚いて、声が裏返ってしまった。


「どうしてナツメ様にお返事をするのか、ということですよね。それは……」 


「ヘルベルトからの書状が、ナツメ君に全て聞くようにとなっていたからだ」


 途中からパウロ教皇にリレーされる。


 これがVRMMOならスイッチというやつなのだろう。


「そして、ヘルベルトの性格から考えて、君は既に標的になっていると考えて良い」


 標的? もしかして、男と男の禁断の恋。


 『若き王と音楽家の淫らな午後』というタイトルでノンフィクションを連載しようか?


 俺は戦慄した。


 だってノーマルだから。


 そして怯えたチワワの様な目つきでパウロ教皇を見た。


「多分、君は勘違いをしているようだ。憶測でしかないのでこれ以上は言えないが、ね」


「あなた、まさかそれでアルティアとの結婚なんて言い出したの? あきれた!」


「アーシェラ、私が見る限りアルティアとの結婚は時間のもーーいたい! いたい!」


 パウロ教皇が言い終わる前に、アーシェラさんのアイアンクローが炸裂していた。


「アルティアの結婚に干渉は絶対させません!」


 俺はいつも置いてけぼりである。


「あ、あのー……」


「あ、ナツメ様のことを忘れていましたわ、ホホホ。それで連携のお答えは直接わたくし達がヘルベルト様にお持ちいたします」


 パウロ教皇はアイアンクローをされている腕にタップしている。


 早くも限界のようだ。


「今日のお話はこれだけです。それではまたシュタイン王国でお会いしましょう」


 そう言ったアーシェラさんは、クスクスと上品に笑いながら、部屋を出ていった。


 パウロ教皇はアイアンクローのままで引っ張っていかれる。


 既にぐったりとしていたのが気がかりだ。


 よく分からなかった教皇夫妻の訪問。


 俺はモヤモヤとした感情を、この時だけ忘れられたのは救いだったのかもしれない。


 


 


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