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第66話 なんだろう、この感覚は?

 数十分前までは、ベッドの中で全く動けなかった人物。


 その人物が、アーシェラさんに支えられて座れるまでになっている。


 ヴィド教会国家、教皇のパウロ・マーテルだ。


 パウロ教皇は、ティアがシュタイン王国に旅立つ直前には体調が悪いというだけだった。


 しかし、この一か月で体調は急激に悪化し、ベッドから起き上がれなくなっていた。


 一番の原因は、サンブリア公国に留学していた、ヴィド教会国家第一王女のアリシアが行方不明になった事。


 秩序の宝珠、アリアそしてアリシアとパウロ教皇への心の負担は限界を超えた。


 心が壊れてしまうと気力や活力が起こらず、何も出来なくなってしまう。


 ベッドから動けず、誰とも話さず、食事もほとんどできない日々が過ぎてゆく。


 パウロ教皇が衰弱していったのは必然といえる流れだった。


 そんな折、シュタイン王国の書状を携えて、ティアが戻って来た。


 そして、数十分前の出来事に至ると言うわけだ。


 パウロ教皇は、これまでの生活で顔色は悪く、体は痩せ細っていた。


 しかし、アーシェラさんに支えられてはいるが、ベッドで上体を起こせている。


 アーシェラさんは、とても優しい眼差しでパウロ教皇を見つめている。


「アルティア、よくぞ、戻ってきてくれた……。そして、女神マーテル様の教義を、ずっと実践していたのだな……。私の娘が、まさか、完全状態異常回復『リカバー』を、使えるよう、になるとは……」 


 パウロ教皇はティアが戻ってきたことを喜び、褒め称えた。


 喋るのが辛そうなのは、しばらく人と話していなかったのが理由なのだろう。


 語尾のタメは言葉を続けるのが、想像以上に大変なのかもしれない。


 ティアはその言葉を聞いて驚いている。


 何故か、クリストフも驚いている。


 ルクールは舟を漕いでいる。


「お、お父様、今なんとおっしゃいましたか? 間違いでなければリカバーと聞こえましたが……」


「アルティア、よ、聞き間違いなどでは、ない……。お前は、状態異常回復の頂きを、使えた、のだ……」


「完全状態異常回復ですかあ。ワタシは短期間に奇跡を二度も見れたのですねえ」


 割り込んでくるクリストフ。


 今って国のトップとその娘の会話の最中で、普通、割り込んだらアカンって思うはずだが……。


 エンチャントの研究でも、ヴェスタフと対等にやりあえてるのだから、こんなの余裕なのか?


「クリストフ、か……。奇跡、を二度も、とは?」


 無礼千万なクリストフに対して、さして気にする様子もなく聞き返すパウロ教皇。


「教皇様あ、ひと月ほど前の話なのですがあ、そこの黒髪の男に火球の魔法を放ったのですよお」


 相変わらずの、間延びをした語尾で答えるクリストフ。


 それに対して頷くパウロ教皇。


 何故か目は輝いている。


 さっきまでの、いつでも逝けます! という目ではなくなっている。


「するとですねえ! 火球が黒髪の持っていたナイフに順応して、ファイヤソードとなったのですう!」


「エンチャント、か?」


 体を少し乗り出すパウロ教皇。


 病み上がりなので、そんな無理しない方が良いと思う。


「はいはい、貴方はまだ病み上がりなのですから、そろそろ切り上げましょうか?」


 表情は笑っているが、声がわろえないアーシェラさんがパウロ教皇の肩を引っ張る。


「はひぃっ!?」


 驚いたパウロ教皇は、さっきまでの弱々しさが嘘のような声を上げた。


 そしてバターンとベッドに寝かされる。


「まったく貴方はっ! エンチャントとかリカバーとかロマンが好きなんですからっ!」


 優しい眼差しだったアーシェラさんはどこにいった?


「パウロ教皇は、まだ体調が優れないみたいですので、休養が必要です。現在、政は枢機卿が取り仕切っていますので、連携交渉の件は一度確認をいたします」


 アーシェラさんはバッサリとパウロ教皇の願望を切り捨てた。


 パウロ教皇の目には未練の色が浮かんでいる。


「皆さんにはお部屋を用意致しました、ごゆっくりと旅の疲れを癒やしてください」


 アーシェラさんが手をパンパンと叩くと、メイドっぽい女性が部屋に入ってきた。


「わたくしがお部屋まで案内いたします。こちらにどうぞ」


 そう言って、俺達に促した。


 俺達はメイドさんの後をついていく。


 パウロ教皇は、おもちゃを取り上げられた子供の様な表情をしていた。



 俺達が部屋から出て、廊下を歩いていると、前方から仰々しい集団が歩いてくる。


 見ると、さっき部屋から強制連行されていったロビンさんだった。


 ロビンさんとその両隣には、これまた超がつくほどのイケメンが並んでいる。


 そして、その後ろからは十人くらいの身なりの良い女性がついてきていた。


 ここって、こんなキャイキャイしていて大丈夫な場所なのだろうか?


 俺がそんな事を思っていると、俺達とイケメン三人達がすれ違う。


 その時、イケメン三人達の足がピタリと止まった。


「ああ、奇遇だね。まさかこんな場所であなた達と出会うなんて! そうは思わないかい?」


 ロビンさんは芝居掛かった口調で言った。


 隣のイケメンはキラキラした視線を向けてくる。


 当然、俺にではない。


 リアナは非常に気持ち悪そうにしている。


 お姉ちゃん、ティア、エリーはにこにこと美しい笑顔だ。


「そうだ、もしよかったらだけど、これから食事に行こうと思っていたんだ。一緒に行かないかい!」


 今時、こんな誘い方ないわー、俺でももうちょっとマシなやり方ができるわー。


 俺にもそういうふうに思っていた時期がありました。


「ええ、喜んでご一緒させて頂きます」


 その言葉を聞いた俺は、振り返った。


 そう答えていたのは、お姉ちゃん、ティア、エリーだったから。


 俺は頭の中が真っ白になった。


 特にこういう軽薄そうな誘いが嫌いな三人だ。


 何故、どうしてという疑問符が駆け巡る。


「ハッハッハ! それでは行こうか。あ、君達には用はないから、ついて来ないでくれよ」


 俺が反応できないでいると、次の言葉が続けられた。


 相手からの条件提示。俺にはその条件に対して抗う権利はない。


 このグループのリーダーはエリーなのだから……。


 イケメン三人についていく、超絶美少女三人。


 あぁ、なんて絵になるのだろう。


 俺達は待ってくれていたメイドさんについていったのだった。


 俺の中でチクリチクリと何かが刺さっているのを気にしながら……。


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