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第63話 ヴィド教会国家 首都ヴァリス

 夜が明けたばかりの早い時間。


 俺達を乗せたグングニルは、ヴィド教会国家の首都であるヴァリスの東にある離着陸場に到着した。


 着陸する時に見えた、首都ヴァリスを囲む白い城壁の壮大さに圧倒される。


「見た目だけは美しい街、ですが内部は人も街も汚れています」


 そう言ったティアの表情は印象的だった。


 この各国への訪問をする際に、アリアを連れて行こうという提案をティアに断られた。


 もしかすると今の言葉は、それに関係があるのかも知れない。


 シュタイン王国や、チェスター連邦の離着陸場と同じようなタラップがある。


 そのタラップへの幅寄せと、安定した空中での静止は、キャリー船長の独壇場である。


「今度は遅れるんじゃねーぞ」


 キャリー船長から、ありがたいお言葉を頂戴して、俺達は用意された幌馬車に乗り込んだ。



「ここから首都ヴァリスまでは、一時間くらいで到着するはずです」


 さすが、じもってぃーのティアは土地勘があり詳しい。


「ヴァリスに来るのも久しぶりの気がするな」


「……メシ美味い」


「ワタシはシュタットの方がいいですねえ」


 モーガン、ルクール、クリストフのコメントは、バラバラのベクトルだった。


「ティアが言った事が気になるんだけど?」


 俺はティアが故郷をディスったのか気になっていた。


 聖女の名を冠するティアが、毒を吐く姿を見たことがない。


 そんなティアが吐いた毒が、故郷の事だったのだから、俺の興味が起こらないはずはないのだ。


「この国の中枢は私利私欲にまみれ、国民の事を考える人はいないのです」


 ティアは少し視線を外し気味に、そして自嘲気味に言った。


 第二王女として、国の事を憂いているのだろう。


「国教をまとめ上げる国が、自身の欲を満たすためだけに存在するのです」


 そこまで禁欲しなくても良いんじゃない? と思う俺はダメな奴なのだろう。


 ティアは聖女として、至高の思想を掲げているのかもしれない。


「アリアはあの容姿なので、求婚や縁談の話が途絶える事はありませんでした」


 んん? そこからアリアの縁談の話だと? 一気に見えなくなった。


「それが、わたくしには話は来ても、すぐに破談するのですっ! 同じ様な容姿なのにっ!」


 ティア……、あんたが欲望まみれやん? しかも中枢ってあんた自身やん?


「それがシュタイン王国では、まさかのヤクモとの出会い! わたくし、この国に未練はありません」


 ほっぺを両手で押さえて、恥ずかしそうにいやんいやんしているティア。


 当然、俺も含めた全員が、半眼になっているのは言うまでもない。


 つまり、アリアを連れてきたくなかったのは、アリアを縁談話に巻き込みたくなかったと言う事か。


 アリアが戻ってきたら、周りがどういう反応をするかなど、分かりきっているのだろう。


 そう思うと、やはり妹思いの良いお姉さんなのだろう。


 稀に暴走している様な気がするが……、今のように。


 そうしていると、幌馬車が停止する。


 俺達は幌を上げて、馬車から降りた。


 そこにあったのは、真っ白で巨大な塔だった。


「ようこそ、ヴァリスの中心。セントラルテンプルへ」


 ティアがそう言ってこの塔の事を教えてくれる。


 ティアはニコリと微笑むと、先頭を歩き出した。


 俺達はその後に続く。



 セントラルテンプルは、ヴィド教皇国家の中枢になると言うことだ。


 中には、ヴィド教会国家の心臓部である教皇庁がある。


 通常であれば、そこに教皇がおり業務を行う。


 しかし、今は教皇が体調不良の為に、枢機卿が代行しているらしい。


 そんな中、ティアはどこに向かおうというのか、淀みなく進んでいく。


 途中ですれ違う修道服を着た人達は、通り過ぎた後、えっ!? という顔で二度見、三度見をしていた。


 ティアは、そんなリアクションにもお構いなしに進んだ。


 そして、どれくらい歩いただろう。


 ティアはある扉の前で立ち止まった。


 そのまま、ティアはノックをして、遠慮無しにドアを開けて中に入った。


 俺達も続いて中に入る。


 中では何かを落とす音が聞こえた。


 何かあったのだろうか? 俺達は音のした室内に急いで入る。


 すると、そこにいたのはティアにソックリの金髪でゆるふわな髪をした女性。


 その女性が、手に持っていた花瓶を落としたのだろう。


 床の花瓶は破損していた。


 向かい合っているティアは、少し涙ぐんでいるように見えた。


「ただいま戻りました。お母様」


 ティアが先に口を開く。


「アルティア……、あぁっ! アルティア。よくぞ無事で戻って来たのですねっ!」


 それに答えるように返事をした女性。


 それはティアの母親である、アーシェラ・マーテルだった。


 

 母娘が再会による抱擁を終えると、まず自己紹介になった。


 ティアが一人ずつ案内をして、それに応えるように簡単なアピールを行う。


 なぜか俺の番の時、ティアは何度も名前を言っていた。


 アーシェラさんは、あら、この娘ったら、みたいな感じだった。


 全員の自己紹介が終わり、本題である外交交渉に入る。


 その時、アーシェラさんは、ベッドに向かって何かを言っていた。


 それに反応するベッドの上にあるシーツ。


 いや、シーツが反応していた訳ではなく、そこに人がいたのだ。


 全く人の気配を感じないベッドの上。


 それに気がついたアーシェラさんは、俺達に紹介してくれた。


「現ヴィド教会国家、教皇のパウロ・マーテルよ。体調が悪くて、起き上がることもできないけれど……」


 俺達はベッドの横に整列する。


 確かに案内された通りベッドには男性がいた。


 しかし、状態はかなり悪そうに見える。


 俺はティアに聞いてみた。


「パウロ教皇様の症状はティアの状態回復では治せないの?」


「以前、試した事があります、しかし、少しは効果があるみたいでしたが……」


 少しは効果があるのであれば、試す価値はある。


「ティア、この教皇庁にピアノは存在するかな?」


「あります!」


「ティア、それをこの部屋に用意できるかな?」


「大丈夫です、ヤクモそれで何をしようと……。あっ、そういう事ですね!」


「そういう事! ティア、絶対に成功させるよ!」


「はい、その通りですっ! ヤクモッ!」



 ティアは嬉しそうに返事をして、アーシェラさんの隣に行く。


 アーシェラさんは真剣に内容を聞いた後、頷いて部屋から出ていった。


 ピアノを用意する為のだろう。


 俺達の外交交渉を成功させる為にも、そしてティアの為にも、これは成功させたい。


 そして、テラマーテルに来て初めての試みでもある。


 鍵盤楽器を使用した演奏効果の発現。


 俺達はピアノが運ばれてくるのを待つしかなかった。


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