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第57話 救世主御一行、チェスの街を行く

 いいか、よく聞いてほしい。


 何を言っているのか分からないと思うが、それは俺にも分からない。


 今、俺の部屋に3人の超絶美少女がいるんだ。


 もしかすると、これは夢なのかもしれない。


 いや、きっと夢だ。


 それなら、いっそ俺を起こさないでほしい。


 夢を見続けていたいから……。


「弟君、何をブツブツと言っているのよ?」


「起こさないでください……」


「ヤクモ、起きているではありませんか」


「起こさないでくらさい……」


「ヤクモったら起きているのに起こさないでっておかしいですね」


「おこさ、な、い、で……」


 先程も言ったが、今、俺の部屋にこの世のものとは思えないほどの超絶美少女がいる。


 こんな生き物に近づいた事もない、彼女いない歴=年齢の俺はどうしたら良いのか分からない。


 当然、俺はノーマルだから、女の子が大好きだ。


 むしろ大好きではない男はいないだろう。


 しかし、みんな大好きーと言って飛びついたら、お巡りさんこっちですになる。


 まだ未成年だから顔は出ないが、将来は真っ暗で一寸先は前になるだろう。


 ここは日本じゃないから大丈夫なのか? いやまて、そういう問題じゃない。


 仰向けになって色々と考えていると、お姉ちゃんが顔をのぞき込んできた。


「弟君、一体どうしたのよ?」


 キョトンと傾げた顔が目に入る。


 そして、うなじから落ちてくる銀色の髪をかきあげる仕草。


 くうぅ、お姉ちゃんはやっぱり可愛かった! 


「先程から独り言が多いですよね?」


 お姉ちゃんの対面からエリーの声。


 大きく崩したお姉さん座りだった。


 太腿から見えそうになる絶対領域は極限のチラリズムだ。


 静かな瞳は大人の色気を含んでいる。


 こんなん隣にいてたらあかんやろー!?


「ヤクモ! エリーをいやらしい目で見ていますね!?」


 頭の上からティアの声がする。


 寝ながら上を向くと、そこには女の子座りをしたティアがいた。


 脚の間に手を入れて、ガードしている。


 それにより両腕が立派な双丘を寄せている。


 そう寄せているのだっ!


 これはグランドキャニオンもびっくりドンキーだ!


 俺はこのままだと息子が危険だと察知して、ガバリと起き上がった。


「そ、そういえばさ。みんな、そろそろお腹減ってきていない? 俺はもうペコペコだよっ!」


 俺は戦略的撤退の意味を込めて食事の提案をしてみる。


「そうですね、忘れていましたが食事がまだでしたね」


「わたくしも回復を頑張ったので少しお腹が減りました」


「弟君、私もお腹減ったよ」


 (よしっ! イケるっ!)


「そ、それにゃあ、いこうー!」


 俺は現状脱却の安心感で噛んだ、そして声は上擦った。


「待ってください、ヤクモはそのままの格好で食事に行くのですか?」


 そう言われて、自分の姿を確認する。


 外交交渉用の飾り物が多い非効率な服装だ。


 この格好で食事に出かけると周囲の目は俺達に釘付けになるだろう。


「そ、そうだね。着替えてからここのエントランスロビーに集まろう。30分後で大丈夫かな?」


「ヤクモ、わたくしはここで着替えてもいいですよ?」


 そう言ってティアは着ている服装の右肩に左手をかけた。


 そして、服をずらしたことで露わになるティアの白磁色をした右肩。


「まってえっ! ティア、早まったらあかんやでえー!」


 俺は焦りながらダッシュをしてティアの左手を掴む。


 しかし勢いがつきすぎてティアの左手を掴んだまま、後方の壁まで到達しそうになった。


 このままだと2人して壁に激突してしまう。


(とどけえっ!)

 目を瞑り、グッと力を入れる。


 俺は運動能力を限界まで行使して、空いている左手を突出す。


 同時に衝撃を殺すためティアを右腕で抱え込んだ。


 ドンッ! という音。


 同時に俺の左腕を衝撃が襲う。


 右腕に感じるティアの体温は少しだけ高く感じた。


(ティアは大丈夫だったのだろうか?)


 俺は恐る恐る目を開ける。


 俺の右腕に抱きかかえられるようになっているティア。


 少し低い位置からの視線は見上げるように俺に向いている。


 やはり少し怖かったのか、頬は赤みを帯び、瞳は潤んでいる。


 俺の左腕はきちんと仕事をしたようでティアは壁まで達していないようだ。


 俺は状況を見ていたお姉ちゃんとエリーを見た。


 2人は驚いた表情で口を両手で覆っていた。


 悪い事は起こっていないはずなのに、この反応はどういう事だろう。


 再びティアに視線を戻す時に、俺は状況を理解した。


 抱え込むティア、突き出した左腕。


 俺には来ないと思っていたシチュエーションがここにあった。


 はい、壁ドンです。


「やはり、ヤクモはわたくしの事が……」


 抱きかかえているティアからそんな呟きが聞こえる。


 俺はバッ! とティアから離れた。


「ティ、ティア、ごめん。悪気は無かったんだ……」


「ヤクモ、わたくしはずっとあの状態でも良かったのですよ?」


「は、はは、は、姫様はご冗談がお好きなようで……」


 俺は縋るように後ろを向いた。


 そんな俺が見たのは目を疑うような光景。


 お姉ちゃんとエリーがこの場所で着替えようとしていた。


「弟君、私もここで着替えちゃおうかな?」 


「ヤ、ヤクモ、服の後ろにあるホックを外してくださいません?」


 あんたら一体どうなってるん? 俺が狼やったら大変やで?


「えーっと、俺はとりあえずロビーに行っとくから、適当に来てください」


 俺は狼ではなくただのヘタレだった。


「えー!? ヤクモ、ちょっと〜」


 なんだか非難的な声が聞こえてきたが、無視して部屋から出ることに成功した。



 俺はエントランスのロビーにあるソファーで、ぐで〜となりながら3人を待っていた。


 ソファーに座っているとなぜがズリズリと下にいくのは俺だけではないはずだ。


 行き交う人々の視線を感じていたが、こればかりはどうしようもない。


 そうしていると周りが騒がしくなってくる。


 最近は大体、騒がしくなる原因が分かってきた。


「ヤクモ、大変お待たせしました」


 ソファーの後ろから声がかかる。


 よいしょっと立ち上がって後ろを向く。


 後ろにはいつもの3人が立っていた。


 エリーはカジュアルなドレス、ティアはいつもの修道着&牛乳瓶、お姉ちゃんはワンピース。


 ティアだけ見た目はすごく地味というのも平常運転だ。


「おい、あいつ、あの人と知り合いなのか!?」


「ありえないだろ? どう見ても釣り合ってないぞ。奴隷か召使いなんじゃないか?」


「あぁ、俺もお知り合いになりたいぜ」


 うん、いつもの反応をありがとう。


 俺は3人に向かって歩いていく。


 にこやかな3人、複雑な表情の他人。


「今来たとこだから」


「ふふ、ずっと待っていたのでしょう? 部屋から出たのですから」


「そうだったかな?」 


 俺はこの街の事を全く知らない。


 1番近くにいたスキンヘッドのお兄さんに声をかけた。


「そこのお兄さん! この近くでご飯が美味しいところはあるかな?」


「え、あ、そうだな、少し南にいったオアシス沿いにあるぜ。看板がヤシの木になっているぜ」


「親切にありがとう! それじゃあ行こう」


 俺達はその場所に向かうため、宿屋から出ていく。


 お姉ちゃん、エリー、ティアは教えてくれたお兄さんにお礼をしていた。


 後で聞いた話だが、俺達が出た後、お兄さんは幸せそうに鼻血を噴出して倒れたそうだ。



 宿屋を出て南に向かって歩いていると、大通りの露店で面白い物を見つけた。


 3人に断って、店に入って買い物をさせてもらう。


 現在、お姉ちゃんに100万マルクの借金がありとても心苦しいけど、これは見逃せなかった。


 みんなに何を買ったのか聞かれたが、ナイショとだけ言っておく。


「弟君、教えてくれても減らないんだよ?」


「ヤクモは秘密主義なのですね、苦労しそうです」


「わたくしとの仲ですのに……」


「後で教えるから、そう言わないでよ」


 その商品は1000マルク。


 これだけの投資で遊べると思うと少しワクワクする。


「あ、ヤシの木の看板があるよ。入ろうか」


 良いタイミングで目的地にたどり着けた。



 店に入り、案内されたテーブルの椅子に座った。


 店の中にいる人の視線が集中している。


 しかし俺以外の3人は平然としていた。


 これが免疫力なのか!? 免疫がないと人は脆く儚いものだと思い知らされる。


 ウエイターがメニューを取りに来てくれた。


 しかし、ウエイターも見惚れていて、手つきがおぼつかない。


 ウエイターは持っていたトレイを不意に動かした。


 お姉ちゃんかエリーに見惚れてしまっていたのだろう。


 その軌道にティアがいて、アレに少し掠ってしまう。


 衝撃で落下するアレ。


 そして砕け散るアレ。


 ティアの美貌を抑制するアレ。


「申し訳ございません、おきゃく、さ、さ、ま?」


 ティアの容姿にお詫びするウエイターも噛んだ上で疑問系になる。


 周囲は更に騒然となった。


 2人が尋常でないのに、もう1人も異常だったから。


 しかも誰かが気付いてしまう。


「あ、あ、あの、女性は……、きゅうせいしゅさま……」


 その言葉にこの場にいる全員が立ち上がる。


「きゅうせいしゅさまだ、と?」


「確かに聞いた通りの容姿をしていらっしゃる……」


「うわあああああ、俺は救世主様になんてことをおおおっ!」


 ウエイターが号泣しだした。


「みなさま、落ち着いてください。わたくし達は救世主という程の特別な事はしておりません。そしてウエイター様もお気になさらずに、眼鏡はまた購入すればすむのですから」


 その言葉を聞いて、更にひれ伏すウエイター。


 周りの客も流石だとか、女神だとか言っている。



 場が騒々しくなってきた時、奥から1人の男性が出てきた。


 白いコック帽をかぶった男性だ。


「お騒がせして申し訳ございません。私はこの店の責任者でシェフをしております。そしてお話をお伺いしましたが、街をお救い頂いた救世主様だと」


 ティアは微妙な表情で頷いた。


「そこでご提案なのですが、本日は私の顔を立ててご奉仕させてくださいませんか? 街の救世主様にお代は頂けませんし、これからの街の門出として今日は全員にサービスしましょう」


 その言葉に客全員が沸いた。


「責任者様、それでは……」


「先程も言いましたが、今まで止まっていた街が動き出すのです。こんな日に、そしてそれを成した方にお代などいただけませんよ。そうですね、もし心に留めてくださるのなら」


 責任者は言葉を切って、俺を見た。


「今後、チェスに来られた際には、この店をご贔屓にして下さい」


 それだけ言って責任者は奥に入っていった。


 代わりにウエイターが注文を俺に聞いてくる。


「先程は失礼しました。ご注文をお伺いしても……」


 俺達は夜遅くまで盛り上がった店で楽しませてもらったのだった。

 


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