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第53話 チェスター連邦の首都 チェス

 俺達は予定通り、3日でチェスター連邦に到着した。


 チェスター連邦に着く少し前、遠目にパルテノン神殿を思わせる廃墟があった。


 あの建造物は何だろうと不思議に思っていると、女神の神殿よ、とティアが教えてくれた。


 その時、ヴィドグループ以外はへぇ〜と感心していたものだ。


 しかしティアは建物の名前を教えてくれただけで詳しくは教えてはくれなかった。


 女神とか神とかが名前に冠されていると、なんだか凄い建物に思えてくるからイメージは大切だ。


 その時のティアは表情が少し曇っていたような気がした。


 着陸しようとしたときには、既に夕陽が落ちようとしている時間だった。


 北の方角で視界に違和感を感じて目を向けると、遠方で一瞬明るくなったり、暗くなったりしている。


 言うならば、花火が打ち上がったとき一瞬明るくなり、すぐに暗くなる感じだ。


 そうしていると、グングニルが着陸態勢に入ったため、俺達の意識はそちらに集中していった。



 チェスター連邦の着陸場所は、シュタイン王国と同じ様な離着陸場が海岸沿いに設けられている。


 ステップに寄せられ、空中で止まるグングニルから全員が降りる。


 キャリーさんは空中停止しているグングニルをピクリとも動かさない。


 本当に腕がいいのだろう。



「チェスター連邦は砂漠の中に造られた国なのです」


 エリーがそう教えてくれたのは移動中の幌馬車の中だった。


 なるほど、幌の隙間から覗く風景はシュタイン王国のそれではなく、均された道に広がるのは砂の広野だった。


 離着陸場からシュタイン王国の時と同じように幌馬車で移動するのは、一般の目と賊の目を欺くという目的があるという事だ。

 


 俺達は幌馬車に揺られながら、首都であるチェスに無事に到着した。



 チェスター連邦の首都である、チェスの街はとても雑多な雰囲気だった。


 道はならされてはいるが、シュタットの様なレンガを敷き詰められているわけではない。


 街の中央には大きなオアシスがあり、それを囲むように道があり、家がある。


 家は石場の大きな石を適当に組み合わせたような造りだ。


 街の入口は南だけとなっており、そこから真っ直ぐに北を見ると大きな崖がある。


 その断崖絶壁に並ぶように建つ大きな白亜の宮殿に目を奪われる。


 聞いた話では、その宮殿がホワイトパレスと言われる建物だ。


 大統領の執務と住居を兼ね備えた場所ということだ。


 幌馬車は街の入口を抜け、道に沿って真っ直ぐに北に向かう。


 チェスター大統領、エドワード・カツァリスがいるホワイトパレスに行くために。


 幌馬車に揺られながら街をぼんやりと見ていると気になることがあった。


 チェスの街はチェスター連邦の首都だと聞いていたのだが、街に活気が感じられない。


 道行く人はどこか物憂げだ。


 露店もほとんどが閉店状態。


 場所が変わればやはり生活も違うのだろうか? 


 馬車は大人しい街を進んでいく。


 

 幌馬車は30分くらいで停車した。


 幌を上げると、白亜の建物がその存在を主張している。


 宮殿を思わせる建物の扉は頑丈な造りをしていた。


 大きな柱が数本立っている入口の両脇には衛兵が待機しており、容易に入れない。

 


 エリーが先導して、衛兵に話しかける。


 2言3言、話が進むと衛兵の表情に動揺の色が浮かび始めた。


 2人のうち1人が宮殿内に焦りながら走っていき、もう1人は待たせていることに恐縮していた。


 少しして、2人の男性が小走りにやって来た。


 1人は先程の兵士、そしてもう1人は小柄な利発そうな男性だった。


 口の周りに白く長い髭がたくわえられているが、不潔な感じはしない。


 また耳はピンと先で尖っている。


 図書館で見た情報だと小人族ノームという種族だろうか。


 2人は息を切らしながら止まると、深呼吸して1人が口を開く。


「今晩は、初めして。遠路遥々、チェスター連邦にようこそおいでくださいました。ワシはチェスター連邦、副大統領のボールド・アドゥラ。エドワード大統領との会見を調整しますので、どうぞこちらへ」


 俺達はボールド副大統領に案内されホワイトパレスの扉を通った。



 ボールド副大統領が先頭を歩き、俺達が追従する形で廊下を歩く。


 シュタイン王国の王城の様な絵画や装飾品などはなく、質素であるというのが率直な感想になる。


「このホワイトパレスは議会から選出される大統領の執務兼住居です。私物は私室にしか置かないのです」


 ボールド副大統領は真っ直ぐ視線を前に向けながら、そんな事を言った。


 なるほど、王城は王の所有物だからカスタマイズが自由だけど、ここは公的な施設だから制約があるという事か。


 しばらく通路を進むと、ボールド副大統領は部屋の前に立ち止まり、扉を開ける。


「こちらの部屋でしばらくお待ちください。準備が出来次第お伺いします。御用があれば、扉の外に衛兵がいますのでお申し付けを」


 俺達は案内されるまま部屋に入る。


「それでは失礼します」


 ボールド副大統領はそう言って足早に去っていった。



 俺達が案内された部屋は本当に普通の部屋だった。


 装飾もなく、椅子とテーブルだけの部屋。


 部屋に入ると、ジュリアスとリアナ、モーガンとルクールとクリストフ、お姉ちゃんとティアとエリーで分かれてそれぞれ話を始めた。


 えぇ、そうです、俺はボッチです。


 窓があり、そこから外を眺めると既に周りが暗くなっているため、街の灯りが幻想的な雰囲気を創り上げていた。


 都会というより発展途上的な街は王都とは違った魅力がある。


 ふと、隣に気配を感じ横を向くとエリーが俺を見ている。



「エリー、どうしたの?」


「ヤクモ、この後エドワード大統領との面会があります。お父様から預かっている書状がありますので、何もないとは思いますが……」


「うん?」


「わたくしは今回の様な対外交渉は初めてで不安なのです」


「そうか、そうだよね。でもシュタイン王はその辺りの事は抜かりなさそうだけどね」


「ヤクモ! お父様を信用すると怖いですよ。覚えていますか? 舞踏会での事を」


「舞踏会? 何かあったかな……」


 俺は舞踏会の時にあったことを思い出す。


 しかし分からなかった。


「もうっ! 突然、皆さんを打ち合わせなしに中央に集めようとしたでしょう?」


 そうだ! あの時、ダメアドリブゼッタイと思ったのだった! 


「そうだった、シュタイン王コワス」


「コワス……。お父様もお考えがあってのことだと思うのですけど」


 エリーはどうやら、イケてる俺の現代文法にも慣れてきたようだ。


 その時、扉からコンコンとノックをする音。


 そしてカチャリと開く扉。


「皆様、大変お待たせを致しました」


 ボールド副大統領は準備ができた事を知らせに来たのだった。



 ボールド副大統領に案内された部屋は、会議を行う場所のようだった。


 俺達が入室すると副大統領を含めて5人が会議室の中にいた。


 左右対称に2席ずつ、そして中央に1席。


 中央の机に陣取り座っている人がエドワード大統領なのだろう。


 左には筋肉質で背が低い毛むくじゃらの男性と全身が毛で覆われた狼男。


 右には背が高く耳が長い美形の男性と副大統領。


 図書館で見た多種族で形成している国家。


 その代表者達なのだろう。


 その中で任期ごとに大統領が選出されるされるという事か。


 俺が納得気にしていると、中央の男性が声をかけてきた。


「ようこそ、遥々シュタイン王国からご苦労さまでした。私はこの国の大統領をしている、エドワード・カツァリスだ。本日の急な来訪はどの様な内容なのだろうか?」


 その言葉に対して、エリーはドレスのスカートの端を持ち、美しいロイヤルカーテシーを返す。


 周りの重鎮だろう方達も感嘆の息を漏らす。


「初めまして、エドワード大統領。わたくしはシュタイン王国王女アイリーン・フォン・シュタインと申します。本日はシュタイン王よりの書状を携えて参りました。こちらになります、ご確認を」


 恭しくシュタイン王から預かった書状を渡すエリー。


 その書状を受け取ったエドワード大統領は、シュタイン王国の印がある封を確認して解いた。


 中を確認して書類を取り出す。


 一瞬で読み終わった書類を副大統領、そして重鎮へと渡してゆく。


 そして全員が読み終わったのを確認すると、エドワード大統領は口を開く。


「シュタイン王よりの書状は確認した。その内容によりまずは詳細を聞きたい。ナツメヤクモというのはどなたなのだろう?」


「はい、俺ですが……?」


 なぜ俺が呼ばれたのか分からないので声色に不安の色がのる。


「ふむ、書状の内容は各国間の連携だが、詳細は君に聞くように書いているのだ」


 俺は驚いて周りを見た。


 メンバーも全員驚いていた。


 これでは助けてもらえそうにない。


 そして先程の会話を思い出す。


 フラグ立てちゃっていたのか……。



ボルドー副大統領「わしはボルドー」

エドワード大統領「私はエドワード」

ボルドー&エドワード「そんな2人が揃って……」

俺「おっさんだな」

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