間話 記憶回廊 アルティア
わたくしはヴィド教会国家の第2王女として生を受けました。
両親が教皇家ということもあり、わたくしは乳母に育てられました。
乳母はわたくしが幼い頃から治癒師になる為の指導をして下さいました。
恐らく高名な治癒師の方だったのでしょう。
わたくしは乳母の教えのまま、魔法の習得に勤しみます。
そして、わたくしが5歳になる頃には簡単な治癒魔法と状態回復魔法が使えるようになっていました。
乳母の話では、系統が違う2つの魔法を覚えるのは容易ではないとの事でした。
わたくしはそのまま乳母に教わりながら、教会での勤めを果たすようになりました。
教会に来られる傷付いた方や体内に不調のある方を癒やすのです。
傷は回復魔法で、不調は状態回復魔法を使います。
そして座学の時間は乳母が更にわたくしの使える魔法の幅を広げるために、強化魔法の指導をして下さいました。
教会でのお勤めをしていると複数の患者さんを診る機会が出てきました。
初めはお一人ずつ処置していたのですが、間に合わなくなり複数の方に回復魔法を行き渡るようイメージしながら詠唱すると、そこにいた方に回復魔法が広がりました。
そこでわたくしは初めて効果の範囲化というものを知ったのです。
これが7歳くらいの事です。
この頃から、誰かがわたくしの事を聖女と呼ぶようになりました。
その呼び名が広がり、わたくしはヴィドの聖女と呼ばれるようになります。
噂の中には尾ヒレがついたりしてできない事もありましたが噂は広まる一方でした。
お母様は噂が大きなるにつれてわたくしの身を案じてくださるようになりました。
そして渡されたのが渦巻の様なガラスが入った眼鏡でした。
これは見た目を歪める眼鏡とお母様は仰っていました。
この頃からお父様がよく溜息をつかれるようになりました。
ティオール帝国にある秩序の宝珠が……、と言われてましたがわたくしには何の事か分かりません。
お母様はお父様の心労に気を病んでいました。
そして月日は経ち、わたくしは10歳になる頃には強化魔法が使えるようになっていました。
また、お父様は更に体調が思わしくないようでした。
サンブリア公国にある、2つの女神の神殿にある秩序の宝珠が奪われたということでした。
わたくしが女神の神殿が何なのかを理解できてきたのはこの時期でした。
3年後、お父様にとっては忘れられない事件が起きます。
このヴィド教会国家の秩序の宝珠が奪われてしまったのです。
これにはお父様もかなりのショックを受けました。
そして、ピークに達した心労で病に伏してしまわれたのです。
女神の神殿を管理する教会国家。
そのお膝元での事件でしたので司祭や司教からの反発の声は酷いものでした。
その中でもお父様の援護に回ってくださった司祭家もありましたが……。
更にその3年後、事件が起こります。
サンブリア公国に向かう為、飛空艇に乗ろうとしていたわたくしの妹である第3王女のアリアが攫われてしまったのです。
わたくし達は捜索に全力を注ぎましたが、全く足取りがつかめませんでした。
アリアは私から見ても美少女です。無事でいてくれることを願うばかりでした。
そして、2年後。わたくしは成人して17歳になりました。
教皇家の娘ということで何度も縁談の話が来ましたが、1度お断りするとその後は音沙汰がありません。
わたくしは眼鏡の効果で見栄えが悪いという評判でした。
そういう事もあり、ヴィドの聖女という名も縁談には効果を及ぼしません。
わたくしはこの様な経緯があり、わたくしを本当に愛してくれる、何度も愛を囁いてくれる、そんな方に出会えたらと思うようになりました。
そんな殊勝な方、居るはずもないですけど。
わたくしは成人した折、ヴィド教会国家の中心部、教皇庁であるセントラルテンプルでライフカードを受け取りました。
わたくしの職業は治癒師。
スキルは回復魔法Ⅲ、状態回復魔法Ⅲ、カリスマという構成でした。
今までしてきた行動が職業やスキルに現れるというのは本当でした。
こうして日々が過ぎていく中で、ついにチェスター連邦の秩序の宝珠が奪われたのが確認できました。
お父様は、これも神の試練なのだろうか? と苦しげに言われました。
わたくしが言ってはいけないかもしれませんが、お父様を苦しめる神など必要ないと考えてしまいます。
わたくしは、この状態をこのまま見ていることは出来ませんでした。
そしてお母様にお願いすることにします。
「お母様、わたくしは最後に残っている秩序の宝珠を確認してまいります」
お母様もお父様の看病で体調が悪そうです。
ですが、わたくしの考えを出来るだけ尊重しようと動いてくださいました。
「アルティア、今、この世界は未曽有の危機に陥っています。ですが人々はこの状態を知ることが出来ません。いいですか? 貴女は信頼できる仲間を探し、そして来たるべき時に備えなさい」
お母様は言い終わると、少し準備をしてきます、と言って部屋から出ていった。
わたくしは1時間程待っていたでしょうか、お母様はもどって来られました。
そしてお母様の後ろに付いて3人の男性が部屋に入ってきたのでした。
「お父様が危機に陥ったときに助けてくださった司祭のご子息です。貴女の旅に同行してして頂きます」
3人の男性は頭を下げる。
お母様は更に続けて言いました。
「貴女は身分を明かしてはなりません。その為にこの3人のご子息とは対等にお話しなさい。わたくしから言うことはこれだけです。必ず、戻ってくるのですよ、アルティア」
お母様は辛そうに言いました。
わたくしはお母様に思わず抱きついていました。
そして、私達は翌日、シュタイン王国に向けて旅立ったのでした。




