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第52話 夜空の誓い それぞれの決意

 グングニルは帆船の形状だ。


 キャラック船の様な形で、マストが3本立っている。


 全長が約30メートル。


 搭乗人員は50人くらいのまでは大丈夫との事だった。


 運用は王族の使用もしくは緊急時のみとなっており、一般には開放されることはない。


 内装も、王族またはそれに準じる者が使用するということもあり、豪奢な造りとなっている。


 シャワー室、トイレ等の水場もあり、超高級ホテルと変わりない様相を呈していた。


 船室は完全に個室になっており、部屋数は充分なほど余裕がある。


 また静粛性、安定性も素晴らしく、本当に空を飛んでいるのかと疑うほどの快適性を誇る。


 どんな原理か聞こうとしたが、キャリー船長に国家機密だ、と言われてしまった。



 各国にはこういう王族専用の機体があり、随時使用される。


 ティア達もシュタイン王国に来た際には、ヴィド教会国家の飛空艇を使用してきたらしい。


 俺がこの世界に来て、紳士服店から風の乙女亭に向かう時に見た影は、飛空艇のものだったのかもしれない。


 鳥とは思えない大きさだったから。


 この数日は天候もよく空の旅は快適だろうと、キャリー船長は言っていた。



 搭乗してから、時間が経ち甲板に出ると夜になっていた。


 船体はとても安定していて、夜風が気持ち良い。


 昼の間、天候が良かった事もあり満点の星空だ。


 船で夜空を翔ける。


 なんと言うファンタジー。


 あり得ないシチュエーションに興奮を隠せない。


 船酔いはしていないが、今の状態に酔うという恥ずかしい事をしていると、甲板に人の気配が近づいてきた。



 お姉ちゃんとティアとエリーだ。


 あり得ないルックス大賞があれば、全員が大賞という、意味不明の結果をもたらすに違いない。


 そんな3人だ。


 俺は最近、そんな3人にからかわれていると思えるくらい接点がある。


 恐らく、今、エンカウントしてしまうと、俺が勘違いしてしまいそうな演出をされるのは間違いない。


 免疫のない俺で遊ぶのは本当に勘弁してほしいです。


 俺は柱の影に隠れ、3人が通り過ぎると、ダッシュで甲板を降りて自分の部屋に戻った。

 

        ☆


 美しい夜空が照らす甲板。


 そんな月や星の輝きでさえ霞んでしまう女性が3人。


 全員がグラスを片手に持ち、美しい仕草で語り合っていた。


 外から見ると、凡人等が想像できないような会話をしていると思うだろう。


 神々をも魅了する声で3人は語っていた。


「私が1番出会いが早かったのよ。だから2人はすぐに身を引くべきだと思うの」


 その声は銀色の髪をした美しい女性からだった。


「出会いの順番なんて、関係ないとわたくしは思います」


 次に金髪のゆるふわな美しい女性だ。


「わたくしには既成事実がありますから、お2人には諦めて頂きたいのです」


 プラチナブロンドの美しい女性は恥ずかしそうだった。


 そう、甲板上でのこの会話は単に痴話喧嘩なのである。



「ち、ちょっとエリー? 貴女本気でいってるの? あんなのキスって言わないからっ!」


「本当にそうですよ、あの時はそうしなければエリーが助からなーー」


 アルティアはアイリーンの表情を見て唖然とする。


「えへへ〜。王子様〜」


 アイリーンは思い出して顔がフニャフニャだった。


 アルティアはアイリーンが戦闘不能と判断し、標的をアンナに定める。


「彼はアンナの弟なんですよね? 弟に愛情を持つなんて普通ではありません!」


「弟君は血はつながっていないの! あんなに頼りない男の子、私にしか守れないでしょ!?」


 それを聞いたアルティアは、えっ!? という表情。


「アンナは正気ですか? 前にも言いましたが、わたくしは、彼に男らしく何度も告白されたのですよ? わたくしの容姿に関係なくです。しかもアリアを奴隷から救う時の早い判断。牢屋でのわたくしの回復強化。あれほど男らしい方はいません!」


「えへへ〜、そうそう、そうですよ。危篤状態のわたくしを救う為に、身を呈したキスなんて愛がなければできないのですからね〜」


 アイリーン以外の2人はジト目になった。


 そんな好敵手2人の表情を見てアイリーンは王子様の余韻から覚めた。


 この戦闘に勝利しないといけないことを思い出したのだ。


「わたくしとしたことが、少し思い出して楽しんでしまいました。2人は忘れましたか? ダンスに選ばれたのはわたくしが最初だったという事を。彼との最初はわたくしが全て頂きます!」


 その言葉にぐはっ!と胸を抑える2人。


「エリー、それはさせない! 私は弟君の最初を見続けるの! 最初の訓練の様にね!」


「わたくしの知らない彼を知っている、ですって!?」


「何を仰っているのです? 本当の最初はわたくしに決まっています。聖女の名にかけて!」


「ティア! 貴女は聖女ではなくて性女でしょ! 弟君にずっと背負ってもらって!」


「本当ですか!? ティア!」


「当然ですよ! アンナ、今わたくしをディスりましたね! あら、彼とずっと一緒にいるから彼の不思議な言葉をつかってしまいました……」


「くっ! わたくしの知らない言葉がっ……! 今からわたくし、彼の部屋に行って参ります!」


「エリー、弟君の部屋に行くには、このリングが必要なのよ」


「エリー、そうです。このリングが無いと入れないですよ」


 2人のブロンズリングを見て、震えるアイリーン。


「そ、それは……?」


「ヤクモは何も言わず、私達の指にさしてくださいました……」


 アイリーンの表情は愕然とする。


「わたくし、真実を確かめてきます!」


 そう言ってアイリーンはヤクモの部屋に疾走したのだった。


        ☆

  

 俺がベッドで横になっているとゴンゴンという拳で強くドアを叩く音。


(そ、そんなに力強く叩かなくても……。この遠慮の無さはルクールなのか?)


 俺はドアを力まかせに叩く人物を想像をして、ドアを少し開けーーた瞬間、バアアアンと全開にされた。


 パワフルすぎる!


 全開のドアに立っていたのは、エリーだった。


 (エ? エリーだ、と!?)


 俺は混乱した。


 普段、お淑やかで涼しげなイメージであるエリーが、乱暴というか横暴というか……。


「ヤクモ、確認したいことがあります」


 そういって、カツカツとヒールの音を鳴らし部屋に入ってくる。


 エリーに目を向けると、手にグラスを持ち、顔が少し赤みを帯びている。


 酔っているのかも知れない。目が据わっているのが非常に怖いが……。


「エリー、酔っているなら明日でいいんじゃない?」


 俺はやんわりと引き延ばそうとする。


「いいえ、今すぐでないといけません」


 しかし、引き延ばしは失敗した。


「少し待とうか。エリーらしくないんじゃない?」


 この時、間違いなく俺は言葉の選択に失敗した。


「ヤクモはわたくしの何を知ってらっしゃるのですか!? わたくしらしくとはどういう事をいっているのですか!? ヤクモは……ヤクモは……」


 エリーは感情を昂ぶれせながら言った後、言葉を少し溜めた。


 そして静かに聞いてきた。


「わたくしの事をどの様に思っているのですか?」


 俺はその言葉を聞いて考えた。


 どうって言われてもまだそんなに親しいわけでもない。


 恋人じゃない。他人でもない。嫌いでもない。友達……なのかな? 好きだけど、愛はない。


「好きな友達かな? お姉ちゃんやティアと一緒くらい」


「アンナやティアと同じ……。同じ……ですか。ふふ、それなら」


「それなら?」


「わたくしにもブロンズのリングを頂けないですか?」


「エリーはあのリングでいいの?」


「……頂けますか?」


「あ、うん、少し待って。これだ。エリー右手を出してくれる?」


「……はい」


 俺はエリーの右手の薬指にブロンズリングをつけた。


 エリーは空にかざして、嬉しそうに眺める。


 この時、俺はエリーに少し見惚れていたのかもしれない。


「ヤクモ、いきなり部屋に来て申し訳ありませんでした」


「気にしないで。エリーお休み」


「お休みなさい、ヤクモ」


 ドアを閉め、出て行くエリー。


 一体何だったんだろう。


        ☆


 甲板に戻ってきたアイリーンは清々しい表情をしていた。


 そして、右手にはリングがつけられている。


 2人を少し驚かせようと、左手に付け替えようとしたが止めた。


 彼は言ったのだ。


 3人は一緒だと。


 それならば、焦ることはない。


 今まで全て目標としてきたことは達成してきた。


 スタートが同じと確認できた今、着地点はもう決まっている。


「わたくしはアイリーン。必ず貴方の心を捕まえます」

 

        ☆


 甲板に戻ってきたアイリーンの右手には、ブロンズのリングがつけられているのが見えた。


 弟君はアイリーンに素直に渡したはず。


 何故なら弟君はまだ恋をしていないから。


 リングはただのアクセサリーとして渡したのだろう。


 それなら私は弟君の最初にならなければいけない。


 私がずっと守ってあげるからね。


 弟君……。


        ☆


 わたくしと一緒に待っていたアンナはアイリーンの右手を見て納得しているみたいでした。


 彼はアンナにリングを渡した時も、あまり気持ちが入ってなかったように見えました。


 ですが彼の指輪で最初に左手の薬指につけたのはわたくしです。


 これはもう運命としか言えないのです。


 神からの意向を受けて、必ずわたくしは貴方と結ばれます。

 

 

 

 



違う時刻、グングニルのバウスプリット。

そこに二人の影があった。

ジュリアス「さあ、目を開けてみろ! リアナ!」

リアナ「あたし、飛んでるっ!?」

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