第50話 王城からの招集
食事も終わり、それぞれの部屋に戻った。
あの後、お姉ちゃんからお金を借りることができた。
明日、ジュリアスに借金を返そう。
そんな事を考えていると、コンコンとドアがノックされる。
顔を出すと、アリアだった。
こんな時間にどうしたのかと聞くと、すぐにホールに来てほしいとの事。
俺はそのまま、ホールに向かった。
アリアはパーティーメンバー全員を呼ばないといけないからと、走っていった。
もう覚えたのか、やはり出来る子なのかもしれない。
俺がホールに到着すると、見覚えのある男が1人立っていた。
いつぞやのヴァレオと見回りをしていた、ヨーゼルム? だったかな?
ぞろぞろとパーティーメンバーが全員揃う。
人数を確認したヨーゼルム? は口を開いた。
「俺は王国第6騎士団団長のヨーゼルムだ。こんな夜分に申し訳ない。明朝9時に王城へ登城してほしい。詳細は明日の登城時に伝える。問題はないだろうか?」
俺達は顔を見合わせる。
1番スケジュールが問題なのはお姉ちゃんだが、大丈夫なのだろうか?
お姉ちゃんを見ると、大丈夫だよとウィンクして照れた。
自爆か? 自爆テロなのか?
ティアはジト目だ。
俺は被爆してしまったようだ。
なんという有能テロリストなんだ。
「問題なさそうです。他にメンバー2人がいるのですが大丈夫ですか?」
「あぁ、そちらも手配済みだ。問題ない」
「どの様な内容の登城なのか聞いても?」
「それは俺も聞かされていない。登城してからでないと分からない」
「了解しました。明日の9時にここにいる全員登城します」
それを聞いたヨーゼルム団長は夜分失礼した、と言って風の乙女亭から出ていった。
エリーが言っていた報酬の件かもしれない。
結局、そういう事だろうと決着して、再び全員が各部屋に戻っていった。
夜が明け、約束の時間の少し前になった城門前にはいつものメンバーが集まっていた。
ジュリアスを見つけた俺は昨日の借金150万マルクを返しておいた。
もう大丈夫なのか? と聞かれたが、大丈夫だよと強がっておく。
結婚間近の友人から、大金を借り続けるとか俺が精神的にやられるからな。
9時になり、跳ね橋が降りてくる。
城門から、こちらに歩いてくる人物は赤髪、ショートボブの女性。
ピリス団長だ。
ピリス団長は俺の前で立ち止まると、恭しく頭を下げる。
俺も釣られて頭を下げる。
「本日は急な召集にも応じて下さり、ありがとうございました」
「いえ、大丈夫です」
「早速で申し訳ないのですが、シュタイン王がお待ちです。こちらに」
そう言って、踵を返し城内に入っていくピリス団長。
動作に淀みがない。
俺達は彼女の後ろを追いかけるようについていった。
ここに来たのは昨日なのに、相変わらずの雰囲気に圧倒される。
今、俺達がいるのは謁見の間だ。
違いがあるとすれば、ここにいる人が異常に少ないという事。
シュタイン王、エリー、昨日の舞踏会で仕切っていた老人、ピリス団長、以上である。
これは非常に機密性が高い案件の香りがする。
「よくぞ参った。ナツメヤクモ、本日はそなた達にしか言えないことを頼む為に呼んだのだ」
「俺達しか? 俺達に、そんな特殊性はないはずですが?」
「昨日の件の詳細はそなた達しか知るまい」
「そういう事ですか。どの様なご依頼かお聞きしてもよろしいですか?」
「うむ、コルトー。頼むぞ」
「はい。わしはシュタイン王国宰相コルトー・バズール、以後お見知りおきを。さて、陛下よりお話があったお主達への依頼じゃが、単刀直入に言うと同盟の使者として他国に行ってほしいのじゃ」
俺達は驚きで絶句した。
その内容は一般冒険が受けて良い内容ではないはずだ。
しかもニュービーのシルバーランクが護衛だと何の役にも立たないのでないだろうか?
「お主は今、実力を気にしているのではないかと思うのじゃが、気にするでない、お主達に依頼したい内容が護衛ではなく交渉だからじゃ」
「もっと質がわるいだとっ!?」
「これこれ、そういうでない。今回の件は公にしたくないのじゃ。わし達は王位継承者のアイリーン王女が誘拐されてしまったわけじゃ。しかも王都近辺にまで帝国機の侵入を許してしまっておる。挙句に捕らえたリンバルは暗殺されてしまう始末……」
「え……、あ、んさつ?」
「そうじゃ、昨日の夜、何者かに地下牢へ侵入を許し、亡きものにされたのじゃ。リンバルは将校という立場じゃからな、帝国としては知られたくない機密を持っていたはずじゃったのに……」
悔しそうに持っている杖を握りしめるコルトー様。
しかし、ここはそんなに紙防御の城なのか?
「……お主、今、失礼なことを考えたじゃろう? 王城には結界が張ってあり、簡単に侵入などできん!」
「ですよねー」
「全ての案件で帝国が関与、そして手綱を握っておる。そこでじゃ、陛下は帝国以外の国、サンブリア公国、チェスター連邦、ヴィド教会国家と連携を取り、そして万が一に備えたいとお考えなのじゃ」
そして、それを依頼するには一連の事件、背景を知っておく必要がある。
つまり、俺達が適任というわけだ。
「帝国は他国にも小細工をしていると聞く。例えば……」
シュタイン王が突然に口を開き、アルティアを見た。
「ヴィド教会国家の第3王女の件もそう言われている」
「シュタイン王、その件は昨日、ヤクモの手で解決致しました」
謁見の間に驚きの色がうかぶ。
そして喜色を含んでいった。
「それは誠か!? パウロもさぞ喜ぶであろうな!」
「はい、教皇も1つ肩の荷が降りると思います」
「ふむ、しかし、そなたの父も厄災が続くな」
「仕方がありません。神の思し召しであるのですから」
教会も大変だよね。
すべて神の試練なんだから。
「ナツメヤクモ、これが我が国の、世界の現状だ。今の平和な均衡が、いつ崩れてもおかしくはないのだ。この依頼受けてくれるな?」
王様、逃げられないようにしないで下さい。
「はい、シュタイン王。ご期待に答えられるか分かりませんが、精一杯の努力をします」
そう答えた俺に、シュタイン王は少しニヤリと似合わない笑みをした様な気がした。
エリー「各国をまわるのですね」
俺「初旅行だ」
お姉ちゃん「弟君と二人きり」
エリー「ふしあなですね」




