第49話 リングストーリー 左手の薬指
鉄屑武具店から出た俺達は途中でジュリアスと別れ、風の乙女亭に戻ってきた。
ティアが道中ずっと上機嫌でニコニコとしていた。
良いことがあったのだろうか。もしかしたらアリアの件かも知れない。
ロビーに入ると、アリアが服を着替えて、いらっしゃいませとお辞儀をしている。
早速、実践させるとはティアンネさんは動きが早い。
アリアに頑張れよーと声をかけて、カウンターに行くと、ティアンネさんがいる。
帳簿はみていなかった。
「あんた、良い子を紹介してくれたね。あんな飲み込みの早い子はそういないよ!」
「そうですか。ティアンネさん、ティアの妹さんなのでよろしくお願いしますよ?」
「あぁ、分かって……、そうだね、さっきそう言ってたわよね。と言う事は……」
「その通りです。でも甘やかせないで下さいね! 本人もやる気なので」
「わ、分かったわ。音楽の事はいつもの詩人さんに言えばいいんだよね?」
「はい。俺が弾くと問題が出るので、それでお願いします。アリアの生活はそれでできそうですか?」
「あぁ、賃金は食費と教育費でちょうどくらいになるようにするよ」
「ありがとうございます」
俺はそれだけ確認すると、ティアを連れてその場を離れた。
「ここに来たときは頼りなさそうだったのにねえ」
ティアンネさんの呟きは聞こえなかった。
食堂に行くと、既にモーガン、ルクールがいた。
俺達も隣に座る。
相変わらずの盛況だ。
すると、さっきホールにいたアリアが食事を運んでくる。
ティアンネさんは状況に応じて、アリアのポジションを変えているようだ。
まだ今日、しかも数時間前に来たところだというのに、テキパキと動いていた。
覚えが早いのだろうか。
ティアはその様子を目で追っている。
初めてアリアを見た、モーガンとルクールは硬直していた。
「あ、アリア様? ではないですか?」
「……間違いない。アリア様」
それを聞いたティアが大丈夫ですよ、と言っていた。
実の姉、王女のティアがそう言うのだから大丈夫かな? と少し不安げな表情ながら、納得する2人。
アリアが運んでくる食器を見ては、我々がとか、俺達にお辞儀しないで下さいとか言っていた。
どちらが大人か分からない光景だった。
しばらくして、クリストフが戻ってきた。
アリアを見て、同じような反応だったのは仕方がないのかも知れない。
その後、お姉ちゃんが戻ってくる。
アリアは挨拶して、お姉ちゃんはアリアを見たあと、ティアを見て、またアリアを見た。
中々鋭い。
お姉ちゃんは俺の隣に座ると、いつもの様に話しかけてきた。
その話にティアが相槌をうったりしていると、お姉ちゃんの表情はみるみる険しくなっていった。
「弟君、少しイイカナ?」
語尾が怒っているような気がする。
「まずアルティアなんだけど、どうしてティアになっちゃっているのかな? お姉ちゃんに教えて?」
「え、えと、今日は奴隷を買いに行ったんだけーー」
「弟君、お姉ちゃんも弟君を軽蔑する事はあるんだよ」
「多分、お姉ちゃんは勘違いをしてーー」
「ううん、奴隷という発想がそもそもおかしいと思うんだ、お姉ちゃんは」
「アンナ、私も今日一緒に行ったんです」
「アルティアも? 何だかイメージできないわね」
「ヤクモが安い労力、まあ少女を探していたので……」
「ちょっと待って、少女を探すって? 弟君? お姉ちゃんに説明して!」
俺はティアンネさんにした説明をお姉ちゃんにもする。
ナツメヤクモプロデューサーの件だ。
それによって、風の乙女亭に今、起こっている人手不足を解消しようというものだ。
俺はアイドル育成がビジネスの中核だったので、少女である必要性を説いた。
それを聞いたお姉ちゃんは驚いている。これはチャンスだ。
「そこで出会ったのがアリアだったんだ。そしてお姉ちゃんが気付いた通り、ティアの妹なんだよ。奴隷として働いている知り合いの身内を見て、放っておくなんて俺には出来なかったんだ!」
そして、お姉ちゃんの手を握る。
少し焦るお姉ちゃん。
「その時、手持ちが足りなくてジュリアスに借金してしまったんだよ。でもジュリアスはもうすぐ結婚するから入用な筈なんだ。お姉ちゃん、ちょっとお金を建て替えてくれないかな……」
それを聞いたお姉ちゃんはジッと俺の目を見た。
俺は真剣に見つめ返す。
少し目を逸らし頬を染めるお姉ちゃん。
その反応はおかしい。
「信じていいんだよね、弟君……」
「お姉ちゃん……うん、信じてーー」
その時、ティアの左手が動く。
そしてキラリと光が反射した。
お姉ちゃんはそれを凝視して口を開く。
既にジト目だ。
俺は気がついてしまった。
「弟君、アルティアの左手にある物はなんなのよーっっっ!」
俺はすかさず箱を差し出す! 蓋を開けて取り出せる状態にする!
「今日はジュリアスに付き添って、鉄屑武具店に行ったんだよ。そしたらヴェスタフがこれをくれてさ! お姉ちゃん、つけてみてよ」
さっとお姉ちゃんの左手を掴み、薬指につけた。
ティアは最近の女性は指の場所は関係ないと言ってたから、これで問題ないだろう。
しかし、ティアの表情は唖然としている。
お姉ちゃんはつけられた指輪をまじまじと見つめている。
アレ? 何だか思っていた反応とは違うんだけど?
ティアさん? ちょっとおかしくないですかね? 空気が重くないですかね?
モーガン、ルクール、クリストフも目を見開いている。
こんな場所で? という感じだ。
「弟君、これはそういう意味と受け取っていいのかな?」
「お姉ちゃん、少しイイデスカ?」
「何?」
「指輪を左手の薬指にするのはファッションなんだよ、ね?」
「何を言ってるの? 婚約に決まっているでしょ?」
俺はグリンとティアに顔を向けた。
「てぃあ〜〜〜〜っ! どういう事か説明プリーズぅぅぅぅ!」
説明を聞いた俺は、すぐさま2人の指輪を右手に変えてもらったのだった。
ティア「この指環きれい」
アンナ「ティア何言ってるの? こっちの方がきれいわよ」
ティア「アンナ、それは寝言ですか? 寝てから言ってください」
アンナ、ティア「ぐぬぬぬぬぬ」




