間話 季節イベント 妖精のハロウィン ③
俺がロビーへ着いた時にはまだ誰も来ていなかった。
少し時間があるようなので、姿写しでおかしい所がないかをチェックする。
灰色のローブを着て、全身をネズミ色で統一。
フードの天辺には松ぼっくりで鼻を演出。
紐を3本左右に付けてヒゲに見せる。
黒く塗った羊皮紙を適当に丸く切って目を作った。
正面からみると、灰色のローブを着た胡散臭い奴。
しかし、お辞儀をするとあら不思議、ネズミさん爆誕である。
俺は自分のセンスに満足していた。
姿写しを見ながらニヤニヤしていると、階段から人が降りてきた。
黒いローブを着たお姉ちゃんだった。
元々、素材が良すぎるお姉ちゃんに黒のローブ姿というのは、中々アダルティな雰囲気でいとおかし。
ちなみにめっちゃおもろい! というのではないので注意が必要だ。
「弟君、似合っているかな?」
恥ずかしそうに聞いてくるお姉ちゃん。
「えぇ、似合ってます」
俺は無意識に敬語を使用した。
「どうして敬語なのよ。ところで弟君は本当にネズミにしたのね」
「他に思いつかなかったし……」
「ネズミでよかった」
お姉ちゃんは意味不明の言葉を言った。
たっかよでみずね……。
うん、反対から読んでも意味はないみたいだ。
しかし漆黒の魔女風お姉ちゃんのローブはビッグサイズなのか、かなり余裕があるみたいだ。
そうしていると、ティアとアリアが階段から降りてくる。
ん? アリアだと?
「ティアンネさんが普段頑張っているからって、パーティーに行くのを許してくれたの!」
アリアは嬉しそうに言った。
ティアンネさんが許可したのなら問題はない。
「ヤクモ、わたくし達似合っていますか?」
「あぁ、すごく似合っている」
ティアは少し俯いて表情を隠した。
アリアもニコニコしている。
2人は真っ白なワンピースを着て、背中に翼をはやしていた。
ティアは牛乳瓶メガネを外しており、金髪ゆるふわウェーブのトリプルコンボを決めている。
アリアはティアにそっくりなので、まるで天使が2人いる様な錯覚をおこしてしまう。
頭の輪は、髪の光沢でカバーしているとの事。
輪っかを頭からぶら下げるのは無理だったようだ。
モーガン、ルクール、クリストフは欠席するらしい。
特に指名されて呼ばれていないのであれば、王様の御前には行きたくないよね。
ジュリアスとリアナも行かないという事だった。
夫婦同士もっと他にやる事があるのだろう。
「これで全員だね、それじゃあピリスとの待ち合わせをしている城門に行こう」
いつもよりかなり少ないメンバーでの出発。
何だか少し寂しい気分になった。
風の乙女亭から表に出ると、先程のおセンチな気分は吹き飛んだ。
シュタットの街がまるで仮装をしている様な変化。
レンガ調の建物は樹木の蔦に巻かれ、その樹木からパンプキンヘッドがぶら下がっている。
パンプキンヘッドの奥から光が漏れており、それが明かりと雰囲気を演出している。
地面も所々から樹木の根がせり出している。
街全体が木々に包み込まれているような不思議な感覚になる。
そして、街を歩く人々も仮装を楽しんでおり、すれ違う人々は普段見ることのできない装いだ。
真っ白な布を被ったお化け、とんがり帽子をかぶった魔女、紳士服のドラキュラ等……。
その雰囲気の中、楽しそうに遊ぶ子供達。
お菓子を配っている大人もいる。
幻想的な雰囲気に包まれ、御伽の国に来たような気持ちになる。
一緒に歩いているお姉ちゃん、ティア、アリアも周りをしきりに見回している。
やはり、楽しそうな表情だ。
そして、俺達の一行は注目を集めていた。
いや、俺を除いた一行と言ったほうが正確か。
お姉ちゃん、ティア、アリアが通った後、周囲の目、特に男性が3人に釘付けになっている。
男達は歩きながら釘付けになっているので、その後、溝に落ちたり、ぶつかったりしているのだ。
まさに歩く人間災害、通った後は阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっている。
そんな事を気にも留めないお姉ちゃんとティアは、歩きながら俺に腕を回してくる。
アリアはティアと手をつないで歩いていた。
とても仲の良い姉妹で微笑ましい。
アリアの表情が不服げなのは気になるところではあるが……。
2人から腕を組まれた時、周りからの視線が殺気に変わったのは気のせいだろう。
「どいてっ! あの出来損ないの灰色オバケを殺せないっ!」
後ろから何だか物騒な声が聞こえるが、ネズミである俺のことではないはずだ。
良い雰囲気の街で無粋な人もいるものである。
4人で横に並びながら城門を目指す。
「なんだか今日は幻想的だね」
「本当ですね、街全体にマナの流れを感じます。大掛かりな事をするものですね」
「お姉様、王城を拠点に視覚阻害魔法を展開しています」
なるほど、この状態は魔法を使って見せているものなんだ。
魔法の多用性にはいつも驚かされる。
後方で大混乱を引き起こしつつ俺達は城門前に到着した。
城門前には既にピリスが待っていた。
普段は凛々しい騎士鎧かいつかのドレスしか見たことがなかったが、今はメイド服だ。
赤い髪に清楚なメイド服はとても似合っている。
俺の両サイドからの視線はキツくなってくる。
「弟君。まさか見惚れていないよね?」
「アンナ、ヤクモは少し止まっていましたよ!」
「お兄ちゃんはあの感じが好みなんだ」
どうしてアリアまで意見してくるんだ。
そんな事をしているとピリスもこちらに気がついた。
「あら、ヤクモ来ていたのね。この服どうかしら?」
「似合っているよ」
俺がそう答えるとピリスは嬉しそうに微笑む。
「ヤクモは変わった服を選んだのね、なんだか灰色のオバケみたいね」
んん? さっきそんな言葉聞いた気がする。
「嫌だなあ、ピリス。こんな出来の良いネズミを捕まえてそれはないだろう」
「ふふっ。ネズミだったのね。出来が良いかは置いておくわ。さあ皆さん、こちらに……」
そう言いながら先に歩き出したピリスに俺達はついていった。




