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間話 季節イベント 妖精のハロウィン ②

「お兄ちゃん! パーティーのご招待が来たよっ! シュタイン城で、だって!」


 俺はアリアが扉を開けて言った言葉に驚いた。


 すかさず、アリアの両ほっぺをギュッして問いただす。


「アリア、いつから俺はお兄ちゃんになったんだ?」 


「ふぇっ!? ひょっち!? ほめんなひゃい、ほひゅひんひゃまっ!」


 分かったくれたようなので、両手を離してあげた。


 アリアは、ドサクサに紛れて言ったらイケると踏んだようだが甘い。



 そして俺はヴィド教会国家の第2、第3王女のほっぺをコンプリートした事になる。


 非常に感慨深い成果だと言える。


 いつかはシュタイン王国の王女のほっぺも狙ってみようと画策していた。


 俺はその隙きをつかれてしまう。


 アリアが、お兄ちゃんのえっちー! と言ってだだだっと逃げていったのだ。


 この部屋は3階の角部屋で、隣にはお姉ちゃん、向かいにはティアの部屋がある。


 そしてアリアのえっちー! という大きな声は、伝説の巨神兵を呼び覚ますのには充分な餌だと言えた。


 バタンッ! と何もしていないのに開く扉。


 その開き方は乱暴者の所作と同じだ。


 俺は首を錆びたオモチャの様にギギギと回す。


 開いた扉の先にいたのは、紛れもなく巨神兵(おねえちゃん)だった。



 お姉ちゃんは据わった目をしている。


「弟君? 今、なんだかアリアがお兄ちゃんのエッチと言わなかったかしら?」


「いやだなあ、俺がエッチでお姉ちゃんがエッジ(するどい)なんて、姉弟で面白すぎるんじゃない?」


「お、と、う、と、く、ん?」


「す、すみませんでしたーっ!」


 俺はジャンプして、3回転捻りからの土下座を決行した。


 カツ……カツ……と近づいてくるお姉ちゃん。


 ヒールなんて履いてましたっけ?


 そして土下座をしている俺の前で足音は止まった。


「顔を上げて、弟君」


 その言葉に従い、顔を上げる。


「弟君、私は聞きたいの。どうしてアリアなの?」


「お姉ちゃん、まず俺を信用してくれないかな」


 お姉ちゃんは膝を曲げて座る。


 俺の目の前にお姉ちゃんの顔が来る。


 相変わらず常軌を逸した容姿をしている。


「弟君はアリアを買ったという前科があるからね」


「それは前にも言ったけどこれからやろうとしている事をーー」


「ふ〜ん。弟君はナニをヤろうとしてるのかな〜?」


「お姉ちゃんは何を言ってるんだよ」


「私はね、弟君を心配しているの。だって近くに良い年の子がいるのにって思うでしょ?」


 お姉ちゃんは、何故かチラッチラッと見てくる。


 この前の件から、何故か挑発的なお姉ちゃん。


「言えてる! 例えばお姉ちゃんは凄く可愛いのに、俺は弟だから触れる事も出来ないんだ」


 お姉ちゃんを注意深く見ながら言った。


 凄く可愛いで表情がニッコニコになり、弟だからで急降下していく。


 お姉ちゃんは力なく立ち上がり、私は姉……、ふふ……。と言いながら部屋から出ていく。


 

 お姉ちゃんとすれ違いでアリアがまた戻ってきた。


「おにい、ゴホン、ご主人様! お城から来た人がロビーで待っているよ!」


「パーティーの招待状が来てるんじゃなくて、迎えに来てるの?」


 その時、お姉ちゃんが凄い勢いで振り返った。


「なんだあ、弟君は私とパーティーに行きたくて呼びに来たのね」


 俺に部屋に突貫してきた人がそんな事を言う。


「すぐにロビーに行くからもう少し待ってもらーー」


「どうしたのですか? なんだか騒々しいですね」


 お姉ちゃんの更に後ろにはティアが来ていた。


「お姉様、お兄ちゃんがお城でのパーティーに呼ばれたのです」


「ん? んん? アリア、貴女はいつからヤクモの妹になったのです?」


「お姉様もそっちからなのですか。普通はパーティーから聞いてくるのもだと思うのですけど」


「重要度が高い事に意識がいくのは当然でしょう?」


「まぁまぁ、ティア。俺は正直、どちらでも良いかなと思ってるからアリアが好きな様に呼べばいいよ」


 それを聞いたアリアは嬉しそうに俺を呼んだ。


「えっ!? 好きなようにですか!? それでしたら、ヤクモって呼んじゃいます!」


 お姉ちゃんとティアは顔を見合わせて、眉間をよせてアリアに迫る。


「アリア、あ、貴女まさか!?」


 アリアは満面の笑みで返した。


「うふふ、間違えました。ですが年の差なんて関係ないですよね? あ、使者の方に待ってもらうように伝えてきます、お兄ちゃん!」


 パタパタと走っていくアリア。


 それを見守る俺達。


 三者三様のため息をついて、ロビーに向かう準備をするのだった。



 俺達3人がロビーにつくと、待っていたのはピリス団長、いやピリスだった。


 少し前の件で気心が知れるようになった俺達は、名前で呼び合うようになっている。


 お姉ちゃんが絡んでくる原因になった事件でもあった。


「ピリス、お待たせ。騎士団長が使者っていうのもめずらしいね」


 俺が呼ぶとピリスは少し恥ずかしそうにしていた。


「ヤクモへの言伝という事だったので、私が名乗り出たのよ」


「そ、それはどうも」


 ピリスはとても分かりやすい。


 好意もストレートに伝わってくるのだが、俺みたいなモブではそれに応える事もできない。


 ピリスは持っていた封書を取り出し、俺に渡してきた。


 俺は受け取った封書を開けて、中の手紙を取り出し確認する。



ーー 本日 20:00 王城のテラスにて仮装パーティーを執り行う。 ヘルベルト・フォン・シュタイン ーー


 それはシュタイン王の直筆で書かれた手紙だった。


 しかし、唐突な感じは否めない。


「ピリス、王城ではこんなイベントはよくあるの?」


「ないわよ。私はヤクモが王城に来るのなら、毎日してくれても良いのだけど」


 お姉ちゃんがキッっとピリスを睨んでいる。


 弟をたぶらかすなと言うことだろう、頼りになるお姉ちゃんだ。


「これは俺だけで行けば良いのかな?」


「シュタイン王は、ヤクモが誘った方を全員招待したいと仰ってます」


「了解。それじゃあ、今夜王城へ行くよ。当然、ピリスも一緒にね」


 その言葉にピリスの表情はパアァと輝く、後から放たれる殺気も比例して大きくなる。


「王城の門で待っているわ、こんなに楽しみな事は久しぶりだわ」


 そう言って、ロビーから出ていくピリス。


 俺達はその後ろ姿を見送った。



 ピリスがロビーから出ていった後、お姉ちゃんとティアの方に振り向いた。


 2人は半眼でこちらを見ながら呟いている。


「弟君はピリスに甘い。もしかして弟君は……」


「やはりあの時、ピリスを回復したのは……」


 お姉ちゃんの迷推理とティアの聖女にはあるまじき発言が聞こえる。


 俺はパンパンと手を叩いて、2人を現実に引き戻す。


「はいはい。みんなでパーティーに行くんだから、そろそろ準備をしていかないと間に合わないよ」


「はっ! そ、そうね! 弟君はどんな衣装でいくのかな?」


 お姉ちゃんは俺にネタバレしろというのか?


 隣の聖女も興味津々の表情をしている。


「そうだな〜、俺は目立たないようにネズミになるつもり」


 俺の答えに驚く2人。


 それはそうだろう、ネズミって意味分からないよね。


「ま、まあヤクモがそう考えているのでしたら、それはそれで良いのではないでしょうか?」


「そ、そうね。それに合わせれば良いだけよねっ!」


 合わせるとかどう言う事なんだろうか?


 俺の不安はエベレストよりも高くなった。


「それじゃあ、ここのロビーに18:00に集合しよう。都合が良い人は全員連れてきてね」


「はーい」


 時間を確認してそれぞれの部屋に戻る。



 そして時間は過ぎて、あたりは暗くなってくる。


 俺は昼の間に用意したネズミの衣装に着替え、自室の窓から外を見る。


 街はどういう訳か木々が成長して、そこに蔦が巻き込んでいる。


 まるで未踏の森に迷い込んだ光景。


 道行く人々も様々な衣服に身を包んでいる。


 街全体が仮装パーティーを楽しんでいるような。


 俺は不思議な感覚に巻かれながら、ロビーに向かったのだった。



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