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第47話 ヴィドの聖女はやっぱり凄い

 俺がカフェに着くと2人は胸を撫で下ろしてくれた。


 2人に経過を伝えて、アルティアに奴隷を救ってほしいとお願いする。


 アルティアは2つ返事で了承してくれた。


 あの状況は治癒士にとって許容しがたい惨状だったのかも知れない。


 俺達は3人でボレオの店に戻る。


 そして、店に入るとボレオに案内され地下に向かった。



 俺達が先程いた地下に戻ると、奴隷たちは期待に満ちた目を向けてくる。


 戻ってきたと言う事は、もしかしたら買ってくれるかもしれない。そんな期待の視線。


 俺はアルティアを見た。彼女は決意に満ちた目をしている。


 俺は横に立ち、ヴァイオリンを奏でた。



 朝と同じバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ1番4楽章プレストだ。

 

 演奏に答えるように、アルティアが状態異常回復を詠唱する。


「不浄なる邪を清め給え」


 輝くようなオレンジ色の光が地下室全体を照らす。その慈悲なる光に涙する者までいる。


 流石は聖女、名前通りの実力である。


 何故か使用者のアルティアが驚いた顔をしている。


 そのまま、傷を癒やす為、回復魔法を詠唱する。


「癒しよ、その恩恵を与え給え」


 今度は室温が少し上がったような黄色い光が地下室全体に降り注いだ。


 光が収まる頃には、ここに居る全員の傷が塞がっていた。爛れた肌、ウジの湧いた傷までも。


 流石に欠損は癒せていないが、十分な成果と言えるだろう。


 傷によって出来なかった湯浴みをすれば、ここの異臭がなくなるのも遠い話ではないような気がする。

 

 演奏を終えた俺は、アルティアの頭をポンポンと軽く撫でた。


 何より、この成果のMVPは間違いなく、このヴィドの聖女なのだから。


「ふ、ふ、ふ」


 突然、頭を撫でている聖女から不気味な笑い声? がする。


 ここにいる全員がギョッとしてアルティアを凝視する。


「ふえええぇぇぇんっ!!」


 アルティアは振り返り、俺に抱き着いてきた。殿、ご乱心でございますかっ!?


「あ、アルテアたん、も、もちつこうか?」


 相変わらず、こういう事に不慣れな俺はどもった上に、言葉を間違う。


「だ、だって、や、ヤクモが、ヤクモが……」


 ゴクリと固唾を飲み、次の言葉を待つアルティア以外。


「やっぱり大好きなの〜っ!!」


 一瞬で全員ガクーと顎が落ちて、そのままイノキになって俺を睨む。


 なんやねん、その変な連携は!?


「アルティア、とりあえずやる事があるだろう?」


 早く妹を治したいはずだ。目が見えていないのだから。


「……えっと? き、キス? かな? かな?」


 パアアアン! 目が覚めるような弾ける音。俺はどこからともなく取り出したハリセンを振り抜く。


「そんな返しにくいボケはええから! はよ妹治すぞ!」


「私はボケなんてしてないのに〜」


 俺はアルティアを引きずりながら、地下室から出ていくのだった。



 部屋に戻った俺達は、アリアさんの牢の前にいた。


「アリア、分かる? アルティアよ」


「アル、ティアお姉さま……アルティアお姉さま? 本当にお姉さまなんですかっ!?」


「えぇ、ええ、アリア。わたくしよ……」


 牢屋越しに両手で顔を触れ合う2人。姉妹愛は美しい。


「アルティア、妹さんを先に治してしまおう」


「ぐす、そうねヤクモ。お願い」


 俺はヴァイオリンを構えて、再度曲を奏でる。


 それに合わせて、状態回復魔法を発動するアルティア。


 輝くオレンジの光がアリアさんの目の辺に集まり、そして収束した。


 目の辺りを恐る恐る触れるアリアさん。そしてゆっくりと瞼を開ける。


 そして、すぐに眩しそうに閉じた。


 光を感じている証拠だ。


「お、お姉さま。見えます、見えるのです! 私の目で光を感じることができるのですっ!!」


「よかった、よかったわ! アリア。色々とあったのでしょうね」


「おねえさまっ!!」


 牢の格子を挟み、涙する姉妹。


 その時、地下からボレオが戻ってきて、俺に鍵を投げる。


「ほらよ、遅くなって悪かったな。早く開けてやれ」


 俺は受け取った鍵を錠に差し込み、回す。カチャリと音がして解錠された。


 牢屋の扉を開け、出てくるアリアさん。そして抱き合う姉妹。


 俺はもらい泣きしそうになってしまった。


 ジュリアスは地下から上がってきて、この光景を見た瞬間に男泣きしだした。


 俺は、支払いを済ませようと、ボレオに言った。


「ボレオ、支払いをしたい。カードはどこにかざせば?」


「おっと、忘れてたぜ。ここに頼む」


 カードをかざし、支払いを済ます。


 アルティアはアリアさんと手をつないで歩いている。


 アリアさんは、この後どうしたいのだろう?


「アリアさんはアルティア達と居たい? それともヴィド教会国家に帰りたい?」


「わたくしは……」


 アリアさんは、アルティアを見上げると、少し考えるようにして答えた。


「わたくしは、ヤクモ様に買われました。ですのでヤクモ様のご意向に従います。呼び方はアリアでお願いします。ご主人様」


 アルティアは驚いた表情をしていたが何も言わなかった。


 俺達は風の乙女亭へ帰るのだった。



 風の乙女亭に着いた俺達は、まずティアンネさんにお風呂と食事の許可を取ろうと思い、女将を探す。


 ティアンネさんはいつも通り、カウンターで帳簿を難しそうに眺めていた。


 俺はティアンネさんに話しかける。


「ティアンネさん、ただいま!」


「お、今日は早いね! おかえり。まだ食事には早いんだ。もう少し待っておくれよ」


「俺の食事は後でもいいんだけど、ちょっと話があるんだ」


「どうしたんだい、あらたまって?」


「今日、奴隷の子を買ってきたんだけどーー」


「えぇーっ!! あんたにそんな趣味があったのかいっ!? 幻滅だねえ」


「ちょ、ティアンネさん、聞いてよ。幼女趣味とかではなくて、人助けだよ」


 その時、待っていたアルティアが近づいてきた。アリアを連れて。


「ティアンネさん、私の妹のアリアです。奴隷になっていたので連れてきました」


 アリアさんは丁寧なお辞儀をする。その所作は王族のもので、ティアンネさんも感嘆の息をはいた。


「アルティアちゃんが言うのなら間違いなさそうだねえ」


 俺の信用度がかなり低いんだけど、なんでだろう?


 ここで俺の考えていたプランを発表する。 


「ティアンネさん、この子をこの風の乙女亭で雇ってもらえませんか?」


「なんだって? あんた、どういうつもりだい?」


 俺は今まで練っていたアイドルプロデュースの事業詳細を語る。


「あっはっは! あんた面白いねえ! その案、乗ってあげるよ」


 アリアはその光景を見て不思議そうにしていた。


 君はこの世界で初めてのアイドルになるんだ。


アリア「よろしくお願いいたします」

すらっと決めるカーテシー。

俺「よろしくお願いーー」

アリア「全然なっていません! もう一度!」

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