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第46話 交渉人 ザ・ネゴシエーター

 店員に案内された俺達は、地下に続く階段を降りていた。


 さっきの部屋は香の匂いが充満して、別の匂いは何も感じなかった。


 しかし、部屋を出た辺りから異臭が漂い出す。それは階段を降りるほどキツくなる。


 そして、突き当たった扉を開けると、この世のものとは思えない強烈な臭気が扉の中から漂った。


 

 俺は我慢できずに通路でもどしてしまう。


 アルティアの顔色も悪い。それは先刻の部屋からか。


 ジュリアスは顔をしかめているが大丈夫そうだ。一体お前の鼻はどうなっているんだ?


 俺は、ずびばぜんと謝ってから持っていた汗拭きを鼻と口に巻き付けた。


 店員は、まぁ仕方ねえさなあと言っていた。アンタもなんで大丈夫なんだ?


 アルティアも持っていたハンカチで鼻と口を押さえた。



 俺達は準備万端で中に入る。


 そこで見たものは、まさに生き地獄だった。言うなれば「人がゴミの様だ」を体現していた。


 ここには通常の人の形をした人間はいなかった。


 恐らく、上の部屋にいた人達が病気などにかかった結果なのだろう。


 肌は爛れ、傷がある者はそこにウジがわいている。手足が欠損している者もいる。


 身体は全く洗われていないのだろう、汚れなのか、怪我のあとなのか分からない。


 

 店員もこの人達は商品(・・)なのに物凄く嫌そうな表情だ。


 店員に先程の条件に見合う人が居るか? と聞くと7人いるらしい。


 遠くから、こいつとあいつとそいつという感じで指差す。


 一人ずつ確認してみたが、特に特徴はなかった。


 ちなみに値段を聞くと、1人1万マルク。店としても処分したいのだろう。


 しかし、殺してしまうと問題が発生するので、こういう状態で放置されているのだ。



 俺はアルティアに目配せすると、アルティアは顔色が悪いながらも頷いた。


 俺も頷いて、店員にもう大丈夫だと言う。


 俺達が部屋から出ようとすると、奴隷たちは声にならない声を出した。


 引き留めようとしているのかもしれない。


 しかし、申し訳ないが全員を保護することは出来ない。


 俺は人としての尊厳を保てない場所がある事を知り、ショックを受けながら部屋を後にするのだった。



 上の部屋に戻り、店員にお礼を言って店をでる。


 店員は冷やかしかいっ! と少し怒っていた。


 店を出て少し離れた場所で、俺はジュリアスに相談した。


「ジュリアス、この前の250万は今持っているか?」


「あ、ああ、持っているが、お前めぼしい奴隷が居たのか!?」


「そういう事だ。必ず返すから貸してもらえないか」


「女を買う為に、俺の結婚資金を……。いいぜ! 十一で貸してやる」


「返さなくていいとは! 流石だな! 恩に着る」


 そして、ジュリアスとギルドカードをかざし、金を移動させる。


 買うなら今しかない。1時間後売れていないとも限らないのだから……。


 俺だけ店内に戻り、ジュリアスとアルティナには先程のカフェで待っていてもらう。


 店に入るとさっきの店員が出てきて、またお前か? という顔だ。


 しかし今回、俺は客だ。


「奴隷を買い受けたい。最初に案内してくれた子がいるだろう。あの子を200万だ」


「お客さん、あんた何言ってるんだ? 値札が見えてねえのか? 1000万だぞ、コイツは」


「ぼったくりもいいとこだろ。目も見えてないし、身体も育っていない。それでよくそんな値段つけたな。それかここは法外な値段をつけて売る場所か?」


「お客さん、それも踏まえての値段だ。ビタ一文引けねえな」


 強情だな。ちょっと揺さぶるか。


「ふーん、昨日、王城で舞踏会があったんだが、そこでヴィト教会国家の王女を見たんだ。あの子、そっくりだな? 本当にここに置いていて大丈夫なのか?」


「ぐっ……。ちょ、ちょっと上に聞いてくる。待っててくれねえか?」


 店員は奥に入っていった。


 俺は背中が汗でびっしょりになっていた。慣れないことはするものじゃない。


 待っていると、すぐに別の男が出てきた。


 出てきたのは見覚えがある顔。


「ヴァ、レオ?」


「お前、どうして弟の名を知っている? 王城からのガサか?」


 あのヴァレオの兄が身売り奴隷商の幹部だった件。



「お前が弟を追い詰めた張本人か。因果だな」


 ヴァレオ兄はボレオというらしい。親のネーミングが安易すぎる。


「まあ、アイツはやり過ぎたわ。国を売ったらイカン。で、聞いたがお前はこの奴隷をどうしたいんだ? 内情に詳しそうだが……」


 俺はこの言葉でボレオを信じることにした。 


 ボレオは自身の中に線引きができていると踏んだのだ。


 信じると決めたからには次々にカードを切っていった。


「連れがヴィト教会国家の王女なんです。それで偶々ここに来たら、ソックリな子が売られている。見過ごせないでしょう?」


「ふうむ、確かにアレは曰く付きの奴隷だ。しかし200では譲れない。俺達も商売だからな。……700だ。これ以上は無理だ」


「ヴィト教会国家と構えるつもりですか? 個人で? 場合によってはさっき言ってた国を売るのと同義ですよ? 300で安心を買いませんか?」


「はっ! お前、いい根性してるな。ここは俺の店だぜ? 売るも売らないも俺が決める。だが確かにリスクは背負いたくない。……600だな」


「待ってください。600だったらボレオさんだけが良い思いをするではないですか! そうですね、先程も言いましたが、ヴィト教会国家の王女が連れです。地下の他の奴隷をできるだけ治しましょう。やはり400ですね」


「ちっ! わかったわかった。400だ。絶対に地下の奴隷を治せよ。そうじゃなかったら丸損だ」


「出来るだけね」


 俺は右手を差し出した。ボレオも同じ手を差し出し握手する。


「本当にめんどくせー」


 ボレオは笑いながら言った。言葉とは裏腹に表情はとても楽しそうだ。


「それじゃあ、ヴィドの聖女を連れてくる」 


 そして俺は仲間を呼びにカフェに向かった。


「何が出来るだけだよ。ヴィドの聖女だったら治しちまうだろ。確信犯じゃねえか」


 ボレオは小さくガッツポーズをしていた。


ボレオ「今日、とびきりのがはいったぜ」

俺「な、なにー」

ボレオ「これだ!」

俺「どこからみてもトビウオだよな?」

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