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第45話 俺の買いもの G線上のアリア

 目的を達成した俺達は、彫金ギルドを出た後、どこに行くというのもなく南に向かって歩いていた。


 そう言えば、昨晩考えていた事をジュリアスに聞いてみようと思った。


「ジュリアス、例えば人を安く雇う方法ってあるか? 出来れば10才くらいの少女を」


 それを聞いたアルティアはめちゃくちゃ引きながら聞いてくる。


「や、ヤクモはそんな幼い少女にナニをしようと考えているのですっ!?」


「アルティア、俺、なんだか納得したわ。ヤクモはロリコンだったんだよ」


「ちょ、ちょっと待とうか? 俺はそんなつもりで聞いたんじゃないからっ!」


 いくらなんでも事案発生は考えたくない。


 既に2人の目は、犯罪者を見るソレだ。


 いや、話をきちんと聞いてほしい。


「俺はいかがわしい事をーー」


「やっぱりヤクモはそんな事を考えていたのねっ! 軽蔑しますっ!」


「道理で周りにあり得ないのがいても反応しない訳だ。アルティアご愁傷様」


「お前ら話を聞けよっ!」


 これは腰を落ち着けて話したほうが良さそうだ。


 俺は2人を引っ張ってカフェっぽい所に入ったのだった。



 席に座り、落ち着いて聞いてもらおうと飲み物を注文する。


 俺は紅茶を3つ頼んだ。ウエイトレスがすぐにカップを持ってきてその場で淹れる。


 なるほど、温度を落とさない為の工夫だ。


 しかし、その分ウエイトレスの技量が大切になる。


 サービスの為にコストをかけるのは良いことだと思う。


 カップを口に運び、一口頂く。うん、美味い!


 2人もそろそろ話を聞いてくれるだろう。聞いてくれるよね?


「俺は今、1つビジネスを考えている」


「何だか分からない言葉が入っています。いやらしい言葉でしょうか?」


 ここにまだ疑っている人がいた。


「アルティア、仕事いや商売の話なんだ。さっき言ったくらいの女の子を雇って、例えば演奏会を開くんだ。歌って踊る効果もつけてね。しかもその女の子は普段会える場所にいる」


 そう、これは所謂アイドルプロデュース。


 会える場所は風の乙女亭。


 この世界の娯楽は少ない。一石を投じるのは面白いのではないだろうか?


「ふむ、それでどうやって収入を得るんだ? 形のない物を買うなんてあり得るのか?」


「会える場所に入場するのに費用がかかるんだ」


「面白い発想ですね。上手くいくものでしょうか?」


「やってみないと分からないね。ティアンネさんが人手の事を言っていたので思いついたんだ」


 普段は風の乙女亭を手伝ってもらう。その間に色々な勉強をして、音楽を覚える。


 体力作りも大切だ。すぐには無理だろうけど、何年か先には結果が出せそうな気はする。


「それだったら、こういうのはどうだ?」


 ジュリアスからの提案。それは奴隷を買うということだった。



 この世界には奴隷という人達がいる。金銭で買われていく人達だ。


 道徳の観点から忌み嫌う文化ではあるのだが、需要もあり1つの商売として成り立っている。


 安く労力を手に入れることができる為、劣悪な環境の労働の為に買われたりする。


 戦争時の肉壁として殺されることを前提で買われたり。


 容姿の良い女性や男性などは性の道具として買われたり。


 幼い子供は、違った意味での性の道具として……。


 人としての尊厳を保てない人達という事だ。


 そう言う立場なのを理解して、奴隷に身を落とすのは仕方がないのだろう。


 しかし、場合によっては誘拐や騙されて奴隷になっている人もいる。


 非常に闇が深い商売である。


 そういう背景があるので、敬虔な治癒師であるアルティアの表情は曇っている。


 奴隷というのは教えに反するものであり、許されるものではないのだろう。


 特にアルティアはヴィド教会国家のトップである。嫌悪感も一入だと思う。


 それでも俺達と一緒についてきてくれるのは、何か思うところがあるのかも知れない。



 街の南西に歓楽街が立ち並ぶ。


 この時間はひっそりとしており、周りが暗くなってから動き出す区画だ。


 道を通る人も、急いでこの場を離れようとしている様にも見える。


 この中には夜の暴れん坊将軍もいるのだろうか?


 おっと、アルティアの視線が険しい。変な事を考えるのはよそう。


 見るからに胡散臭そうな建物がある。近づくにつれ、香の焚かれた匂いがしてくる。


 お葬式が近くであったのだろうか? 


 俺達は建物に入った。そこで初めて香が焚かれている理由を知ることになる。


 そこは頑丈な木でできた牢屋を連想させた。牢の中には首輪でつながれた人がいる。


 男性、女性ともセックスアピールが強調された服を着せられていた。


 要はほぼ裸に近い下着姿という形だ。


 俺とアルティアは直視することができない。ジュリアス、お前はどうして平気なんだ?


 建物に入ってすぐのカウンターには、こういう場所がお似合いのいやらしい笑みを浮かべた男がいる。


 何故、こういういかにもっていう人を雇うのだろう? 


 受付がジェントルマンだったら、印象も違うと思うのだが……。


「どんなのをお探しで?」


 ごますりしながら聞いてくる。俺達以外に客はいない。


「12才前後の少女を」


 俺がそう言うと、店員は「お好きですねえ」と言いながら案内してくれる。


 アルティアの俺を見る目が非常に怖い。さっき理由は言ったよね?


 店員はヒヒヒと気持ち悪く笑いながら、この子はいかがでしょう? と言ってきた。


 ふわふわの金髪に優しそうな表情を持つ女の子だ。


「そこに誰かいらっしゃるのでしょうか? どうか、わたくしを買ってくださいませんか? わたくし、ご主人様にご奉仕しますから……」


 目が見えていないのだろうか? しかしこの年で言う言葉ではない。


 しかも、言葉遣いが非常に上品だ。生まれがとても良いのだろう。


 値札は1000万マルク。これは無理だ。


 ん? アルティアが驚いた顔をしている。


「どうしたの? アルティア?」


「……な、なんでも、ない、わ」


 アルティアは顔を蒼くしていた。一体どうしたんだろうか。


「もうここしか場所はないの?」


「ありますが、傷もんなんでさ」


「良かったら見せてよ」


「あまり良いものじゃないですぜ」


 俺は頷いた。店員はこちらでさあ、と案内してくれる。


 アルティアはさっきの奴隷を何度も振り返り見ていたのだった。


「あ、あるてぃあ? お姉さま?」


 奴隷の少女は小さく呟いたのだった。


 


 


 





アルティアの顔色は青い。

俺「どうしたの?」

アルティア「なんでもないです……」

アルティア (やはり、わたくし、こんな格好できないです)

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