第44話 ジュリアスの買い物 ヴェスタフ無双
午前中でランクアップした俺達の気分は良かった。
特に身体上の何かが向上するわけでもないが、1つ上に階段を上がるということは、今まで見えなかった景色が見えるかもしれないという事だ。そんな変化はないだろうけどね。
丁度、お昼時でもあったので、今日も風の乙女亭に暗黙の了解で向かう。
当然、お姉ちゃんも一緒だ。
お姉ちゃんに昨日の研修結果を確認すると、全く問題なく完了していたらしい。
王城から伝達がギルドに入っていて、それで全ては丸く収まったようだ。
研修中のメンバーが森の中に倒れていたこと事もあり、王城としても救助要請が必要だったのだろうう。何にしても万事上手く行って良かったと思う。
ルシフェルは、昨日の失敗を他のメンバーの問題にしたらしい。
それでいつもの通り、メンバーが抜けてしまったという事だ。
それが噂で流れてしまって、メンバーの補充もままならない状況。
先程の勧誘もそれを聞くと頷けた。お姉ちゃんはルシフェルには良い薬だと言っていた。
詳しくは教えてくれないが、自分本位な性格で自分を立てるらしい。自分は悪くないというタイプだ。
お子ちゃまである。
それが勇者という力がある存在だから質が悪いのだ。
お姉ちゃんも同郷の幼馴染だから、最初は改善するように言ってたみたいだが、もう諦めたらしい。
中々そういう事って伝わらないよね。
後は勇者が自分で気付けるかどうか、自浄作用があるかどうかというところか。
いつもの様に食事を済ませ、思い思いの場所へ向かう。
その場に残る俺とジュリアスとアルティア。あれ? アルティア?
モーガンやルクールは何処に行ったんだ?
「アルティアは何処かいかないの?」
「私は特に予定がなくて……」
アルティアは変装中、口調を少し崩している。まあ品の良さは隠しきれていないが……。
俺はアルティアに聞こえないように、ジュリアスの首に腕をまわし耳打ちした。
「ジュリアス、今日の買い物ってこの前に言っていた、あの件に関係あるんだろ?」
「はぁ? なんだよあの件って?」
「はぁ? あの件はあの件だろうがって埒があかないな。リアナとの結婚関係だろ?」
「うおっ! ヤクモ、お前……、普段の感の鈍さが嘘みたいな冴えだな? その通りだよ」
「何かお前に悪い事をしたか俺? 普段から鈍い事なんかあった試しがないだろう」
そういった時、ジュリアスはアルティアを見て、こっちを向いた。何故か半眼だった。
「まあ、自覚ないっていうのは相手が可哀想だな。俺には関係ないし別にいいけどな! 勇者みたいになりたくないしな!」
「意味わからん」
「いつか気付けよ? 愛想つかされても知らないからな」
ジュリアスは俺を一瞥して続ける。
「今日の買い物はお前の言う通り、確かにリアナとの件だがどうかしたか?」
「そうだ、それな! アルティアはヴィドの聖女だから、こういうのは詳しいんじゃないかって」
「それ(・・)扱いかよ。そうだな鈍感男より絶対頼りになるわ」
「鈍感ちがうわ!」
話がまとまったのでアルティアに意向を聞こう。
「アルティア、ジュリアスとリアナが結婚するんだけど、その買い物に付き合ってくれない?」
「結婚ですか、ジュリアスおめでとうございます! 参考になります! 是非、ご一緒させてください」
んん? 参考? アルティアにもそんな男性がいるのか。う、羨ましくなんてないんだからね!
「やったぜ! アルティアが来てくれるなら安心だ。そこの鈍感男なんてまだ気付けないんだからな!」
俺は敏腕刑事じゃないから、今の会話で事件解決の糸口は見つけることができなかった。
他の人が分かっているのに、自分だけ分からないって悔しい。
何故かアルティアはヤクモらしいとクスクス笑っていた。くそおアルティアも分かっているのか!?
そんな感じで俺達は北に向かって歩き出した。
俺達は屑鉄武具店の少し西、紳士服店の北にある彫金ギルドに来ていた。
彫金ギルドは主に貴金属の加工、販売を行うギルドでジュリアスの目的にはピッタリの場所だ。
店舗のショーウィンドウから存在感を放つアクセサリー達。そのお値段も存在感を放っている。
「おい、ヤクモ。ちょっとこれは来るところを間違えた気がする」
「大丈夫だ、ジュリアス。まだ慌てる時間じゃない。何処かの紳士服屋も、頭のおかしい値段で服を飾っていた」
「あまり細工の質は大したことなーーむぐぅ!」
俺は、本物の王女様の不穏な言動を察知して、手で口を押さえる。
「さあ! アルティア、ジュリアス中に入ろうかー!!」
店の前で、来るところ間違えたとか、大したことないとか……。営業妨害も甚だしい。
そして通行人の皆様の視線が痛い。
俺が口を押さえている王女様と値段に引いている騎士を引き連れて、視線から逃げるように店内に入っていった。
「あらあ? ヤクモじゃなーい?」
何故か店内にオカマがいた。
「ミスリル銀って貴金属なのよねえ、高価な材料なので困っちゃうわあ」
嬉しそうに語るのはヴェスタフだった。表情と言動が合っていない。
どうやらクリストフとの合同研究で、ビックリするほどミスリル銀を消費しているらしい。
「まあ、上得意様がいるうちは大丈夫よお」
国家相手の商売は安定しているのだろう、極めた一芸は偉大である。
俺もいつかは、観客を魅了する演奏家として音楽を極めたいものである。
おっと、オカマと話をしている場合ではなかった。
店内を見回すと、ジュリアスが真剣に商品をみて、眉間にシワを寄せている。
どうやら、思っていたよりも値段が上のようだ。
アルティアはいまいちの反応だ。王女様はお目が高いのかも知れない。
「あらあ? 何か買いにきたのお? もしかしてそこのお嬢さんかしらあ?」
その言葉に超反応のアルティアさん。パアアアと顔を輝かせる。
「おい! オカマ! アルティアに失礼だろ。そこのジュリアスが主役だよ」
シュウウゥと意気消沈するアルティアさん。
オカマは何故かニヤニヤしている。なんか腹立つわ。
オカマは俺に耳打ちする。
「おいヤクモ、俺が作ってやるから必要なリングのサイズを教えろ」
ダンディーなオカマがここにいた。
ジュリアスにサイズを聞いて、ヴェスタフに伝える。
ヴェスタフは夕方には出来上がるからと教えてくれた。
何故かアルティアに話しかけた後、まったねぇ〜と言って出ていった。
俺達も目的を達成できたので彫金ギルドを出る。
残ったのは彫金ギルドの店員だけだった。
俺「オカマは何でもできるな」
ジュリアス「あぁ、万能だな」
ダンディーヴェスタフ「やあ、お嬢さん。このイヤリングをあげよう」
お嬢さん「オジサマすてきー!」
俺&ジュリアス「こっちもかい!」




