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第4話 冒険者ギルドのシステム

 冒険者ギルドの朝は早い。


 多くの冒険者が行き交う王都の城下町。


 その冒険者達の管理を行う施設なのだから、朝からでも大忙しというのは至極自然な光景なのだろう。


 一般的に朝食の時間なのに、既に受付のカウンターには人だかりが出来ていた。


 クエストを完了して報告をしている者、正に今から冒険者になろうとギルドの登録をする者、ギルドに依頼クエストを出しにきた者、受付嬢をナンパする者……。


 そんな中で、コソコソと怪しい動きをする女性職員の姿があった。


 そんな動きを見れば同僚とて放っておくわけにもいかず声をかける。


「アンナ! なぜそんなに怪しい動きをしてるの?」


 そう呼ばれた女性職員は、小動物の様に驚いて顔を上げた。


 シルバーストレートの女性職員だった。


「え、えっとー、そう、書類をばらまいてしまったのよ?」


 キョドりながら、そして少し目が泳ぎつつアンナは同僚に返事をする。


 しかも何故か疑問形だ。


 ふ~んとジト目になりながら疑いを持つ同僚。


 当然、アンナは背後からの気配を察知できるわけもなく……。


「えいっ! ん~なになに、薬草集め? これは~迷いペット捜索? 雑草抜き? アンナ~面白そうな依頼を独占してるわね~」


 先程とはまた別の職員に、腕に抱えるように持っていた依頼書を後ろから引き抜かれてしまう。


 いきなりの奇襲にアンナは、はわわとなりながら体裁を取り繕おうと踏ん張る。


「ちょ、ちょうど簡単な依頼がまとまって入ったので、一緒に掲示しようと精査してたのよ」


「アンナ、隠さなくてもいいのよー。昨日の騒ぎの黒髪くんでしょ? 今まで声をかけられても一刀両断だったのに。どうしっちゃったのよアンナー、言いなさいよー」


 同僚は受付に置いてるライトをアンナに向けて問いただそうとしていた。


 忙しい時間に3人もの職員が遊び出したのだから、一気にギルドは回らなくなる。


 しかも銀髪の君と呼ばれているギルドの看板受付嬢であるアンナのお惚気とも聞こえなる内容だ。


 ギルド内の男性冒険者達は殺気立つ。


「おい、聞いたか? 銀髪の君に男が出来たらしいぜ?」


「おいおい、俺に挨拶せずに抜け駆けするとはいい度胸じゃねぇか、なあ?」


「いや、待て。ひょっとしたら弟とかかもしれねえぜ?」


「それお前がいつも女に騙されてるやつじゃねえか、まじチョロいなお前」


 今にも関係が無いところで喧嘩が起きそうな勢いだ。


 男女パーティーの男性陣がそんな感じだから女性陣の男仲間を見る目は、黒い虫を見るようなそれだ。


 室内の温度が熱気によりグングンと急上昇していると誰の目にも明らかだった。


 そんなタイミングでガチャリとドアが開く。


 そして入ってきたのは黒髪の男が一人、受付ホールに入ってきた。


 空気を読む男、夏目八雲。


 その人だ。


        ☆


 俺は、一晩お世話になった仮眠室から廊下に出て、なんだか騒がしいドアを開けた。


 廊下から入った部屋は昨日、俺がギルドマスターという名のオッサンにぶっ飛ばされた場所だった。


 気持ちが落ち着いてから改めて見ると昨日とは違った見方ができるようになる。


 100人くらいが集まっても余裕がありそうなホール。


 昨日と同じで沢山の人がいる。


 何故か全員こちらを見ていてすごく居心地が悪い。


 男性は憤怒の、女性は値踏みをする様な表情をそれぞれしているように見える。


 昨日、ギルドマスターに暴言を吐いたのは新顔としては大きなマイナスだったようだ。


 俺はしくじったと思いつつ、別の方向を見回す。


 ホールを分けるようにカウンターがあり、その中で10人くらいの女性が業務をしているように見える。


 しかしカウンター内の職員らしき人達も何故か全員こちらを見ていた。


 その中の3人に自然と目につく。


 昨日お世話になった銀髪の女性がいたからだった。


 アンナさんだ。


 俺は昨日のお礼を言えてなかったので、3人で集まっている受付嬢に近づいていく。


        ☆


 黒のスーツ姿で真っ直ぐにカウンターを目指す姿は、ギルド内の鎧やローブ、剣や盾といった装備をしている冒険者の中においては異色だ。


 この世界にスーツなどというデザインの服は存在しないのだから……。


 ここにいる全員が、その颯爽と歩く姿を見てこの後のイベントを予想していた。


        ☆


 視線がすごく痛い。


 昨日おバカなことをしてしまった報いなのだろう。


 そう割り切りながらアンナさんの前にたどり着いた。


 何故か他の2人の職員は、少し赤い顔をしつつ視線が俺とアンナさんとを行ったり来たりしている。


 背後から殺気みたいなものを感じる。


 おかしい、そんなにギルドマスターは好かれているのだろうか?


 俺は、アンナさんの目をまっすぐ見ながら口を開く。


 アンナさんの頬が少し染まった気がした。


 少し直視しすぎたのかも知れない。


「昨日は仮眠室を貸して頂きありがとうございました。おかげさまで回復しました」


 俺はペコリと頭を下げお礼を述べる。


 周りの全員がコケた!


「それだけかいっ!」


 ギルドにいた全員からツッコまれた。


 一体、何やねん!


        ☆


 俺がお礼をすると、アンナさんは少しだけ照れくさそうにしていた。

 

 俺は昨日ギルドカードを作ったことでギルドのメンバーになった。


 メンバーになった俺にアンナさんは冒険者ギルドのルールを教えてくれる事になった。


 ギルドカードは身分証明書になっており、その効果は絶対ということだ。


 自身の血を媒体に作成された魔道具であるため偽造ができない。


 他の人が落としたものを手に入れたとしても、文字が浮かび上がらない。


 またギルドカードには情報を秘匿できる機能があり、本人がカードを持って情報を制限するように思うだけで名前と発行ギルドのみの表示になる。


 実際、アンナさんは自身のギルドカードを俺に見せてくれた。確か名前と発行ギルドしか見えなくなっている。


 俺もギルドカードを秘匿状態に設定した。


 スキルを他人に知られてしまのはデメリットが多いようだ。


 他人にそれを聞くのもタブーとされている。


 依頼クエストについては、依頼書が掲示板に貼られており、それを剥がして受付に持っていくと受注したことになる。


 つまりは早い者勝ちでおいしい依頼ほど即売れてしまうという事になる。


 依頼を完遂するとギルドに報告することで完了となる。


 例えば依頼を終わらせたのに報告を忘れていると失敗扱いになるという事だ。


 また依頼には期限が設けられており、それを過ぎても失敗扱いになる。


 昇格試験を成功させることにより、ギルドで設定されているランクというものが上がる。


 ランクはギルド内での信頼度、地位というのを表している。


 ギルドカードの色がランクを示しており、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ブラックという順で高くなる。


 因みにブラックランクの冒険者は現存しないらしい。


 新人に向けたギルドからのフォローとして最初の3週間、新人達だけで集まって研修があるらしい。


 ギルドの職員が教官となって、基礎訓練や座学、クエストの注意点などを教えてくれる。


 新人が育ってこそのギルド運営という理念の元、最近できたシステムということだ。


 午前中の九時から十二時までの三時間が研修時間となる。

 

 ギルドのシステムはこれくらいとのことだったが、何かあればすぐに相談するようにとも言われた。


 アンナさんは、記憶喪失の俺が生活して行けるのか不安みたいだ。


 はぁ、アンナさんマジ天使。


 早速、お言葉に甘えて、街の地図とアンナさんのオススメショップを教えもらった。


 最初の目的地である紳士服を扱っている店を念入りに確認した。


 色々と教えてもらった俺は、再度アンナさんにお礼を言って冒険者ギルドを出た。

 


受付嬢1「アンナ、彼とはどこまでいったのよー?」

アンナ「ベッドよ」

受付嬢2「えー!? もうそんなにー!?」

アンナ「えへへー」

俺「ホンマにそこへ行っただけやん!」

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