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第17話 初めてのパーティー戦 前編

 風の乙女亭で大騒ぎがあった翌日。

 俺は、いつもの時間にギルドに到着して、受付を済ませ研修場に着いていた。背中にヴァイオリンを背負って。周りは物珍しそうに見ていたが、すぐに興味を失っていた。

 これがルシファーだったら反応は別物だっただろう。何故なら俺は最底辺だからだ。

 今日は何故かお姉ちゃんの姿はなく、普段とは少し違う受付となった。


 研修場は普段と全く同じで、いつもの通りに基礎訓練から始める。

 しかし、いつも通りなんだけど、つらい。ノルマは達成出来るようになったけど余裕は全くない。


 みんなより少し遅れて、基礎訓練が終わり、実技訓練をしようとナイフを抜いた所で、教官の集合という号令が響き渡る。みんなの動きがキビキビしている。俺だけヨボヨボだ。

 教官の立つ前に全員が整列する。乱れなど少しもない。あったら後が大変なので、みんな細心の注意を払っているのだ。


 「これより、新人研修1週目、パーティーの基礎訓練を行う。これはお前達が独り立ちしたときにパーティーを経験することがあるだろう。その時に戸惑っていては場合によっては命を落とす。そして、1人が欠けると言うことはパーティーに全滅のリスクが発生するという事だ」


 教官は全員を見渡し続ける。


「そういう事態に陥らないために、この研修で学んでほしい。いいなっ!」

「イエスッ! サーッ!」

「よーし! それではパーティーを作っていく為、リーダーを選出する。立候補はあるか?」


 その言葉に、4人が手を挙げる。ルシフェル、この前の治癒士、仲良しグループの1人、そして俺。


「中々勇敢な奴らだ。それではそのリーダーについていきたいメンバーはリーダーの元に集まれ!」


 直ぐにまとまった。予定調和というやつだ。


「各リーダーはここに用意したクエストーー」


 と教官が言いかけたとき、ドアが開き1人入ってきた。


「ごめんなさい、遅れてしまって」


 そして、俺の所に近づいて来る。え? ちょっとどういうことだよ?

 お姉ちゃんだった。



 ザワ……ザワ……と周りに動揺が走っているのがわかる。

 教官も、え? それはちょっと聞いてないんだけど? という顔をしている。


「ごめんねえ、弟君。ギルドマスターとお話してたら遅くなっちゃって。でも黙認してくれるそうよ!」


 ギルドマスターはお姉ちゃんに弱みを握られているのだろうか? いつも黙認っていうのがおかしい。


「え、えっと、アンナ殿? ギルドマスターの許可はとってると?」

「はいっ! 教官! ギルドマスターは黙認してくださるそうです! それに私もブロンズなので丁度良いかと思います!」

「ア、アンナ殿が受付を外れたら回らないのでは?」

「ギルドマスターがするとおっしゃってました!」


 教官は絶句した。ギルドマスター絶対弱み握られてるよね。怖いから言えないけど。


「ところでアンナ殿は、またどうして今更研修なんかに?」

「だ、だって、弟君の初めてを見逃すなんて、ね? きゃっ!いっちゃった」


 お姉ちゃん、俺を殺す気ですか? 誤解を生みそうな言い方やめてもらえませんか? 周りからの視線に殺意が乗っていますけど? しかも何故、いつもよりブリッ子なんですか? 今時そんなので騙される奴なんて……いた! しかも勇者だとっ!?

 勇者からの視線が痛い。そんなに睨まなくてもいいじゃない。

 そんなことを思っていると教官がクエストの説明を始めだした。



「今回は初めてのパーティー戦ということもあり、シルバーランクのクエストを遂行してもらう訳だが、街の周辺にしか生息しないモンスターの討伐が目標だ。しかもそのモンスターは、必ず単独で行動するという習性のもののみを選んでいる。時間は2時間、正午の鐘が鳴るまでに帰って来い!」

「イエスッ! サーッ!」

「よし、それではクエストを分配する。どれでも好きな物を持っていけ!」

「サーッ! イエスッ! サーッ!」


 全員で元気一杯に挨拶して、リーダーが前に出てクエストを選ぶ。1番最初に選んだのはルシフェル。どれでも一緒という感じで依頼書を1枚取ると、仲間の方へ歩いていく。そして、そのまま研修場から出て行った。俺の隣を通り過ぎるとき、アンナは渡さないと小声で、しかし決意のこもった声で言われた。おい勇者! お前絶対勘違いしてるよ!

 次はルシフェル第2グループの治癒士だった。あまり変わらないねとか言いながら、1枚選び仲間のところへ。内容を言い合って、おしゃべりしながら出ていく。

 最後に残った俺と仲良しグループリーダーで、どうぞどうぞとやり合っていた時、お姉ちゃんがこういうのもあるよーと1枚差し出してきた。教官はぎょっとしてたが、これもマスター黙認済みだろうということでお咎め無しだった。お姉ちゃんの厚意を無駄には出来ないので、それを選ぶ。

 仲良しグループも決まったみたいで、よし頑張ろうと声を掛け合って、全員が研修場を出たのだった。


 最後に残った教官は、深い深いため息をついていた。


 

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