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第138話 地下牢へ行こう

 俺とティアは風の乙女亭から外に出ると王城へと向かっていた。

 お昼を過ぎた大通りは、通行人もまばらになっている。


 相変わらずティアはG線上のアリアを口ずさんでいた。

 心地よい調べを聞きながら、あることに気がついた。 

 音程を全く外していないし感情表現が飛び抜けている。

 アリアもそうだけど、ヴィドの教皇一家はとてつもない才能を持っているんじゃないだろうか?


 右手にティアの体温を感じながら、ほんの少しだけ嫉妬の炎を燃やしたのは内緒だ。



 超短時間で修復された跳ね橋を渡るとピリスがいた。


「ヤクモ、待っていたわ。地下の牢屋に拘束しているから来てくれるかしら」


 ピリスは美しく踵を返して城内へと入っていく。


 俺には話が見えていなかった。

 風の乙女亭でアンナに小さな問題が起こって、ティアに拷問に行きましょうと笑顔で促され、ピリスに何かを拘束していると言われた。


 一体、何があったんや!?


 俺の脳内ではてなマークがクラスターを起こしていた。


「いきましょうか、ヤクモ」


 ロックダウン寸前で俺の右腕に柔らかい感触。

 横を見るとティアが腕を組んでいた。


「そうだね」


 俺達はピリスの後を追いかけた。


        ☆


 ピリスが厳重に警戒された扉を開けると、地下へと続く階段が現れた。


 日光の気配が微塵もしない薄暗い通路。

 老朽化した照明は重苦しい雰囲気を助長しているだけだ。


「ここは最近まで使用されていなかった場所なのだけれど……」


 先頭を歩くピリスの歯切れが悪い。


「確かに整備が行き届いてるとは言えない」


 俺は灯かなくなった照明を見上げた。


「それはそうなのだけれど……。この地下牢でリンバルは殺されたのよ」

「うえいっ!?」


 今は夏でもないのにホラー話とか。

 俺はピリスの不意打ちで絶叫した。


「もう! ヤクモ!! いきなり大声を出さないでください」


 ティアは俺の右腕にしがみついていた。

 どうやら、かなり驚かせてしまったようだ。


「はは、ごめんね」


 空いている左手で頭を掻いた。


「ヤクモらしいわ。もう少しで到着よ」


 クスクスと上品に笑いながらピリスは再び歩き始めた。


        ☆


「ここよ」


 通路の最奥でピリスは立ち止まった。

 うっすらと二人の人影も見える。


「ここは明かりが少なくて気が滅入りますね」

「ヤクモ、さっきの大きな声はどうしたのかな?」


 エリーとアンナだった。


「気のせいだよ。きっと」

「それであればヴァレオかも知れませんね」

「エリー、ヴァレオは既に自殺しているわ」


 それを聞いて俺は再び絶叫したのだった。 

 

 

 超高度金属アダマンタイトで出来た青い金属光を帯びた頑丈な格子。

 それを隔てて石が積み上げられた無機質な壁が見える。

 独房と呼べる小さな部屋の中で、椅子に座らされて鎖を巻きつけられた黒髪の男。


 風の乙女亭にいた浮浪者だ。


「私が彼を運んできたのよ」


 隣に立つ銀髪の君が俺の左腕を掴んだ。

 笑顔がとても眩しい。

 

「流石、アンナだね」


 多分、あの厳つい生物が運んだのだと思ったけど気にしないようにした。



 独房にはピリスだけが入り、俺達は部屋の外から様子を見ていた。


 拷問というものを想像しながら。

 思いついたのは、爆炎アシュケルがアンナによって四肢を削られたシュタインズフォートの戦い。

 

 俺が絶対に耐えられやんヤツや。


 格子前でグッタリしていると、ピリスの声が聞こえてきた。



「貴方の名前を聞いてもいいかしら」

「俺はガイコウ。帝国では豪剣と呼ばれていた」


 ピリスが静かに問いかけると、ガイコウと名乗った男も落ち着いた声で返す。


「それではガイコウ。帝国の将校様がシュタイン王国の首都に来た理由を聞かせてもらえるかしら?」

「リンバルとアシュケルが続けざまに戦死して、俺に順番が回ってきたから断ってやった」 

「断った? でも貴方はシュタットにいるじゃない」

「命令を断った俺をアイツは殺そうとしたのさ。風使いの魔女がな! それで俺は帝国から逃げだしたんだ」


 ガイコウのコメカミに、はちきれそうな血管が浮かび上がる。

 余程、風使いの魔女を憎んでいるのだろう。


「その風使いの魔女というのは誰の事なのかしら?」

「決まっているだろう! アンネローゼとかいう娼婦のことだ!!」

「どういうことっ!!」


 アンナは牢屋の格子を握りしめていた。

 亡くなったと思っていた最愛の母親の名前が上がり、更に娼婦とまで呼ばれて黙っている娘はいないだろう。


「ひいぃっ! アンネローゼがどうしてここにっ!?」


 アンナを見たガイコウの怯えようは半端じゃなかった。

 鎖を巻きつけられていることも忘れて、この場所から必死に逃げ出そうとしている。


「落ち着きなさい、ガイコウ。彼女はアンネローゼという女性ではありません」

「……な、ん、だと?」

「彼女は私達の仲間です。それがアンネローゼと同一人物な訳がないでしょう?」

「た、たしかに……」

「私達が知りたいのは二点だけです。その答えを聞ければ貴方の拘束を解きましょう」

「ああ、知っていることは答えよう」


 ガイコウの低い声が独房に響いた。

 どうやら冷静さを取り戻したようだ。


「まずはティオール帝国の現状を教えなさい」

()皇帝ルイーズ・ド・ティオールが決闘の末に敗れて処刑された。新しく皇帝になったのは、決闘の勝者でルシファーと名乗る若い男だ」

「「「「えっ?!」」」」


 俺達は互いに顔を見合わせた。

 いけ好かないイケメンで、よく似た名前の人物を知っていたから。


ティオール「うおおおぉぉ! これでどうだ若造!!」

大剣とは思えない鋭い振り下ろしがルシファーに襲いかかる。

アンネローゼ「風よ」

ティオール「ぷげらっちょ!?」

決闘は幕を閉じた。

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