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第128話 ジュリアスの戦い 寝室編 

 俺は演奏を終えた後、深く息を吐いた。

 さすがは超絶技巧練習曲! 五分の曲なのに引き終えた後の疲労感がハンパない。


 落ち着く為に息を吐いたままの状態で目を閉じて俯いていると、ドアノブの回る音がした。

 錠が外れる金属の音がなり、ゆっくりと開いてゆく扉。

 演奏を終えたばかりの俺は動くことができず、エリーの方を見ると同じく動作が遅れたようだった。


 そして開いた扉から現れたのは、動くことすら気怠そうにしているジュリアスだった。

 着ているものが下着だけというのがなんとも言えない。



「やっぱりヤクモだったか……、助かったぜ」


 部屋から出てきたジュリアスはドアの枠に体を預けていた。

 体力がほとんど残っていないようで、話すだけでも肩で息をしている程だ。


 俺としてもジュリアスを休ませてやりたのだが、状況が状況だけに最低限の確認だけする。

 

「ジュリアス、一体何があったんだ。あり得ない状況だと思うんだが?」


「いいかヤクモ、起こったことをありのままに話すぜ。ティアがあの六英雄の女を手当した後、俺がこの部屋に運んできて看ていたんだ。身体能力が高いみたいで、しばらくすると目を覚ました。するとだ――」


 ジュリアスは一度言葉を切って、両腕を擦る仕草をした。

 それは、よく人が嫌なことを思い出すときにする仕草だ。その時、よほど怖ろしい事が起こったのだろう。


「『くすくす、私を倒せる雄に出会えるなんて思いませんでした〜。これは予定変更ですね〜』と言うなりベッドに引きずり込まれてマウントを取られた。そして、一瞬で服を全て剥がされてイキナリ襲われたんだ」


 これを聞いて、俺は驚くしかなかった。

 日本ではイキナリが許されるのはステーキくらいだったので、襲われるというのは恐ろしくもある。

 

 ジュリアスの顔は血の気が引いたように蒼くなり、全身は小刻みに震えている。


「それは怖いな」


「あぁ、リアナも怖いが……、それよりも怖ろしいものの片鱗を味わったぜ」


 そう言いながら遠い目をするジュリアス。

 嫁さん(リアナ)が怖いとか一体なにがあったんだ? 


「ところでジュリアス。ローザ様はどうされたのですか? ヤクモの演奏が始まるのと同時に凄い叫び声が聞こえましたが」


あの女(ローザ)なら力尽きて俺の隣で眠ってしまったので、そのままにしているぜ」


 そう言ってジュリアスは扉を開け放った。それにより室内の様子があきらかになる。


 謁見の間や会議室のような広さはない部屋。

 壁には装飾品などはなくシンプルの一言だ。壁の色も白一色に統一され清潔感を感じさせる。


 部屋の中央付近には、傍目から見ても質が良さそうなベッドが置かれてある。

 その上で、ローザさんが深い眠りについているのが分かるほどの寝息をたてていた。


 巻かれたシーツから覗く肢体は、千年を生きてると思えないほど瑞々しい。


「まったく、いい気なもんだよな。ヤクモを連れ去ろうとしたと思えば、今度は俺に襲いかかってくる。挙げ句の果てには疲れてたら眠ってしまう。ある意味この場所は敵陣だろうに」


「ほんそれ」


「うっわ、適当に答えやがって! まあいい、二度ともお前がいなかったらとても対応できたとは思えないからな」


 ジュリアスは半ば呆れたような顔をしながら、イイ笑顔を向けてきた。


「何言ってるんだ、ジュリアスが俺を見捨てないからだろう。俺一人ではないもできないんだから」


 俺はすかさずサムズアップでかえす。歯をこれみよがしにチラ見させて見る。


「ヤ、ヤクモ! 何だか引き攣っているように見えますよ!」


 俺の口端キラリンがミスっている事に気がついて止めようとしてくれるエリー。

 やはりモブの俺には、ルシフェルのようにキメる事はできないらしい。


 そう言えば、アイツはシュタインズフォートから姿を見ないけど、大丈夫なのだろうか?

 まあ高スペックの勇者もっているひとだし、どうとでもなるよね。


「ヤクモは相変わらず締まらないな。ギルドの研修から何も変わってない」


 ジュリアスは相貌を崩して、懐かしむような表情かおを向けてきた。

 そして、軽く握った拳を差し出してくる。

 

「オマエモナー」


 ギルドの研修であぶれた俺達。

 何もできない俺、家を追い出されたジュリアス、回復を遅らせるリアナ。

 そんな出来損ないの三人が、今は国の中枢を担うまでになった。


 各々の能力は低いかもしれない。

 でも力を合わせ、精一杯向き合うことで結果を残してきたんだ。


 ジュリアスの拳に、俺の拳を合わせる。


「「これからも頼むぞ!!」」


 同じ言葉を交わした俺は、この関係が末永く続く事を確信した。




 合わせた拳を外した時、エリーが柔らかい笑顔で話しかけてきた。


「ジュリアスはこの後、ローザ様を看てくださいますか? 本日の合同訓練は練習みたいなものですから」


 疲労困憊のジュリアスを気遣っているのだろう。エリーは、合同訓練への不参加を容認するように話しかけた。


「エリーそう言ってもらえると……って、そう言えば騎士に戻ったからアイリーン王女殿下になるのか!?」


「ふ、ふふ、今更ですよ、ジュリアス。貴方はパーティーメンバーであり、ヤクモの親友なのですから。公の場以外では今まで通りにして下さい」


 ジュリアスが王女殿下と言った時のエリーの目が怖かった。


「わ、分かったエリー、そうさせてもらう。それじゃあ俺は少し休ませてもらうわ」


 エリーから少し視線を逸らせながら、ジュリアスの声は少し小さくなった。


「そうだな。エリー、俺達も会議室に戻ろうか」


「そうですね」


 そう言いながら腕を絡ませてくるエリー。そんなに近いと当たってますん。

 腕を絡ませながら、手は恋人つなぎというバカップル真っ青の状態で部屋から出ていこうとした時。


「そうだ、ヤクモ!」


 ジュリアスが思い出したように俺を呼び止めた。


「どうしたジュリアス?」


 俺達は立ち止まって振り返る。


「俺を助けると思って、今度、夜に俺達の寝室の前でさっきの曲を弾いてくれないか?」


 それを聞いた俺とエリーは顔を見合わせて、無言で再び歩き出した。

 後ろからジュリアスのお願いが聞こえてくる。


 そのまま扉を開けて、エリーと一緒に会議室に向かう。

 

 少し前から師匠とか言ってたから、夫婦の寝室でなにかあるのだろうとは思うけど……。

 そんな気まずい事できるわけないでしょうよ!!

エリー「演奏中、室内から聞こえる音が凄かったです」

エリーは頬を真っ赤に染めていた。

俺「えっ!?」

エリーは会議室とは違う部屋に俺を連れ込んだ!

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