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第126話 演奏効果という名の最強スキル

 俺達が席に座るのと同時に、シュタイン王は『合同演習』の説明を始めた。


「スキルは熟練度によって上昇し、個人の才能によって限界がある」


 その言葉に全員が深く頷いた。これは常識の再確認でしかない。


「だが、しかし――!」


 うん、なんだ? この言葉のニュアンスに感じる既視感デジャヴは!?

 シュタイン王が一瞬、俺を見て口角の端を上げた気がした。


「その常識にとらわれる事なく、その才能を伸ばせる者がいるらしいな!」


「なんだってーー!!」


 俺()()その言葉に驚きを隠せず、思わず大きな声を上げてしまう。

 

 常識を超えた才能の付与……。

 そんなのチートとかいうレベルじゃない! その遥か上の存在……。そうビーターだっ!


 心の中に動揺が駆け抜ける。

 

「おい、ヤクモはん? おどれ、どういう了見で仔犬みたいに震えとんねん?」


 モーガンが苛立ちを感じさせる声で話しかけてきた。


 ビーターの話を聞いても余裕の態度で俺に絡んでくるとか……。

 聞いたところ神聖騎士団長に就任したらしい。立場は人を成長させる、ということか。


「ビーターの存在が確認されたというのにモーガン、いやみんなが平気な顔をしている事が俺には不思議だよ!」


 俺は立ち上がって目の前の机に拳を叩きつけた後、周りを見渡した。

 何故か全員が半眼になりながらこちらを見ている。視線の集中砲火に俺の足は仔鹿のように震えだした。


 事の重大さを知ってもらおうと迫力を出そうとしたら、返り討ちにあってしまった件。

 俺は自分の豆腐メンタルを悔やんだ。


 その時、モーガンの呆れたような声が聞こえてきた。


「あのなあ――」


 一拍おいた後、深いため息。


「ビーターが何かよう分からんけど、その才能を伸ばす者っちゅうのはおどれの事やからな!」


「そんな分かりやすい嘘を言うなんて……。おカワイイ事だな、モーガン!」


 俺がモーガンにドヤ顔で言い終わると同時に、肘のあたりを引っ張られた。

 ふとその方向を見ると、エリーが俺の顔を見ながら首を横に振っている。


「わたくしが先程、練兵場に来てほしいと言ったのはこの事だったのです。まだ検証が必要なのですが、ヤクモの演奏を聴くことであり得ないほどのスキルの上昇が発生していると考えられます」


「あり得ないほどなの?」


「そうですね、例えばティアが伝説的な回復魔法のフルヒールを使って、ローザ様の傷を完全に癒やしたこととかでしょうか」


 それくらいなら、今まで普通にやっていた事だよね。


「一時的に演奏が感情を高揚させる事で効果を上げているんだろうね。何というかドーピングみたいな感じじゃないかな?」


「ドーピングってなんやねん!」


 確かに分かりにくい単語かもしれない。


「一種の興奮剤みたいなものかな。気持ちを高揚させて身体の潜在能力を使うんだよ」


「ですが、それは一時的な効果しかありませんよね?」


「そうだね。でもそれは俺の演奏でも言えることだよね」


 確かセリスを助けた時、一時的に演奏ができなくて戦線を維持できなくなった事があった。

 それは演奏中でしか能力向上が見込めない、ということを物語っている。


「そうなのです……が、その能力が上がった時に戦ったとしたらどうなるでしょう?」


「戦闘が少し楽になるのかな……?」


 今までは能力が上がることで戦いが楽に……。

 いや、待って! 戦えない相手とも戦えるようになったのか?

 

 俺があれやこれやと悩んでいるのと、エリーがクスリと笑って教えてくれた。


「ヤクモは直接戦っていないから分からないと思います。わたくし達は潜在能力をもってしても得られない力を、ヤクモによって与えられていたのです。そしてそれを使って戦うということは……」


「そのスキルの熟練度を大きく向上させるという事だ。結果は言わなくても分かるだろう? ナツメヤクモ」


 シュタイン王がエリーの言葉を継いで、最後を締めくくった。


 つまりは俺の演奏を聴いて何かしらスキルを使うことで、潜在能力を超えた効果を引き出す。

 それが大きな負担となると同時に、大きな経験として転換される。

 結果、普通に過ごしていれば絶対に得る事ができない熟練度を手にすることができる、というわけだ。


 例えばティアでいうと、演奏を聴いて状態異常回復魔法を使ったときに完全状態異常回復魔法が発動されたとする。

 伝説的な完全回復魔法を使用した事で、ティアは普通であれば一生かかっても得られない経験をした事になる。

 それが糧となり、状態異常回復魔法のスキルに熟練度の加算が行われる。


「何となく分かりました。エリー、もしかして片手剣のスキルが上がってたりするのかな?」


「ええ、ヤクモ。わたくしは元々スキルが四だったのですが、今は五になっています。演奏を聴くと奥義も使えそうな気がしてきます」


 エリーが言い終わった途端、シュタイン王が驚いた顔をして唸った。


「アイリーン……、まさかそこまでか?」


「はい、シュタイン王。ヤクモの演奏効果は本当に素晴らしいです。そして男性としても……」


 少し俯き気味に話すエリーの声は、徐々に小さく照れるような……って、何言ってるんですか!?

 シュタイン王も難しい顔になってますやん!?


「ま、まあ早く孫の顔を見せてくれ、アイリーン」


「はいっ! 承知致しました、シュタイン王!」


 満面の笑みをシュタイン王に返すエリーに見惚れてしまった。

 エリーはそれに気がついたようで、俺に向かって同じ笑顔を向けた。

 見つめ合う俺と嫁。

 そして、二人の距離は自然と……。


「ゴホン! ナツメヤクモ。場所はわきまえるべきだと思うが? それとお前の能力が表に出るのは非常に危険だ。よって住居が完成するまでは、この城で寝泊まりをする事を命じる。合同訓練が終わり次第、荷物を取りに行って参れ!」


 良い雰囲気を壊された上、横暴な提案まで頂戴する。


「シュタイン王、そんなこと急に言われても……」


「既にアルティア教皇とアンナ嬢には伝えている。国家機密を知るアンナ嬢はギルドの受付も辞めてもらうことになった。今頃は身辺整理と引っ越しの準備をしているだろう」


 動き早っ! というか知らなかったの俺だけ?



 その時だった。


「アッーーーーーーーーーー!!」


 何処からともなく、なんとも言えない悲鳴のような声が聞こえてきたのは。

 それは紛れもなく、ジュリアスの声。


「そう言えば、ジュリアスは何処に行ったの?」


「休憩所でローザ様の容態を見ていると言ってました」


 ふむ、完全回復したローザさんにジュリアスが対応できるのか?

 答えはノーだ。

 

「うおおおおぉぉっ! ジュリアスぅぅぅぅ!!」


 俺は悲鳴のような声が聞こえてきた部屋に向かって、縮地ダッシュしたのだった。


アンナ「マスターお世話になりました」

アンナ「私、ヤクモと結婚して幸せになります。きゃっ、言っちゃった!」

アンナ「それでは皆さん、お元気で〜」

アンナは冒険者ギルドの重厚な扉を開けて出ていった。

ギルド内は全てが石化した廃墟のようだった。

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