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第125話 朝の定例会議

 ティアが回復魔法をかけたことで、水路で気を失っていたローザさんの傷は全て癒やされた。

 そして、アンナを起こしてガルーダを召喚。ローザさんを城内の部屋に運んでもらった。


「小娘よ、お前は精霊使いが荒い!」


 演奏を終えた俺に、アンナは風の精霊王が消える時の言葉を教えてくれた。


「ねえヤクモ。風の精霊王って言うわりには心が狭いと思わない?」


 たった一人の人間を部屋へ運ぶ為だけに召喚された風の精霊王。

 それを召使いのように扱うアンナは、やはり出来る女性なのだろう。


「きっと忙しんだよ、彼は……」


「そうかな? もう一度喚んで聞いてみようかな」


「うん、やめたげて?」


 俺がそう言った時、ガルーダが良い笑顔でサムズアップしたような気がした。




 アンナとの話が一段落して橋の方を見ると、兵士達が修復を始めていた。

 城側の詰付近で、赤毛を軽快に揺らしながらピリスが忙しそうに指示を出している。


 尋常ではない早さで組み上げられていく橋を見ると、その指示がいかに優れているのかがよく分かる。


 順調に見える作業の中、ピリスが俺の視線に気がついた。そして不意に反らされる顔と真っ赤に染まる耳。

 以前なら、やっぱり俺はモブだから……と思ってしまうシチュエーション。


 駄菓子菓子! じゃなくて、だがしかし!


 俺はピリスの方に向かって歩き出した。

 視線を反らしたままのピリスは、近づく俺と指示を待つ兵士の列に気が付かない。

 整然と並ぶ兵士の横を通りすぎ、ピリスの隣へとたどり着いた。


「おい! 騎士団長殺し(サーヴァントキラー)だぞ!」


「こんな真っ昼間からイチャコラとか……。その場所を俺に譲ってくれよキラー」


「お前はピリス団長の相手をできるのか!? 俺は無理だわ」


「それな!」


 兵士達の弛緩した会話が俺の耳に入ってくる。

 絶対にピリスにも聞こえてそうな声量なのに微動だにせず……、いや、よく見ると少し内股気味になって恥ずかしそうにしていた。

 俺は兵士達の会話を無視して、ピリスの肩に手を伸ばす。


「にゃ、にゃにかしりゃ。にゃくも……」


 全身を硬直させて完全に冷静さを失っている。先程まで兵士達に的確な指示をだしていた人物とは思えないほど。

 その様子を見た、増え続ける兵士達の列からどよめきが起こる。


「こ、これがピリス団長だとっ!?」


「か、かわいすぐる……」


「キラーと俺達の間には超えられない壁があるのか……」


「それな!」


 こいつら、俺の奥様に対して何言ってるんだ。

 そう言えば、シュタインズフォート修復の人手が足りてなかったよな……。後で申請しておいてやろう。

 そんな事を思いつつ、俺は兵士達を一瞥して再度ピリスの方を向いた。


「ピリスどうしたの? 急におかしな動きになって」


「うぅ、ヤクモに軽蔑されないか心配になったのよ……」


 何処にそんな要素があったんだ!?


「えーと、ピリスの言ってることがよく分からないんだけど」


「部下に指示している姿を見ても何とも思わない? エリーやティアやアンナはそういう事はしないでしょう?」


 確かに他の三人が指示している姿を見た記憶はない。

 エリーがシュタインズフォートで副指揮官に出していたくらいだろうか。


「俺がそんな事を思うわけないじゃない。むしろ出来る女性(キャリアウーマン)という感じで格好良かったよピリス」


「ヤ、ヤクモ……、ありがとう。それならっ……」


 ピリスは拳を小さく握り気合を入れるような仕草をした後、再び最初見たときのような勢いで兵士達に指示を出し始めた。

 冒険者ギルドでアンナのカウンター前に出来ていたような長蛇の列は、あの時と同じような勢いで解消されていく。


 俺は邪魔をしているような気がして、手を一度振ってからその場を離れた。

 返ってきたウィンクはとても魅力的なものだった。




「ヤクモ! おとう……シュタイン王が早く来るようにって言ってます!」


 何だかんだとあったので忘れてた。朝の定例会議に出席することを!

 俺は意味もなく倒置法を使ってみた。


「エリー、まだ皆は待っていたりするの?」


 俺はエリーに質問しつつ会議室へ向かう。エリーは俺の横につきながらそれに答えてくれた。


「待っているのは何というか身内だけです。武官と文官はもう居なくなっていますね」

 

「シュタイン王は怒ってるかな?」


「遅れた理由が六英雄にさらわれそうになったということですので、とても困った顔をなさっていました」


 エリーは微笑を零している。長い指先を添える所作はとても貴く美しい。

 この女性が妻になるなんて誰が想像できただろう。


「でも皆が俺を助けてくれたからさらわれずにすんだよ。感謝してもしきれない」


「それはヤクモがしている行動……。そうでした! 行動で思い出しましたけど、後で練兵場に集まって欲しいのです」


「珍しいね、エリーがそんなにテンションを上げるなんて」


「はっ!? わたくしとしたことが!」


 そんなエリーを見て、俺の顔にも笑みが浮かぶのを感じる。

 そして見えてくる会議室の扉。


「まずは会議だね」


「そうです、あなた」


 不意打ちの呼ばれ方をして、ドアノブを押す手に力が入りすぎた。


 勢いよく開く扉。


 普通は、遅れてスミマセンという感じで静かに開けるのだろうけど……、来てやったぜ! ドヤァ! になってしまった。


 エリーの方を見ると可愛らしくウィンクしている。

 えへ、ゴメンなさい、と聞こえた気がした。


 可愛かったから夜に仕返ししようと考え、会議室の中を見渡す。

 そこには、シュタイン王、パウロ教皇夫妻、ヴィド三人衆、テオ君がいた。


「ようやく来たかナツメヤクモ。それでは今日から始める合同演習について説明する」


 鷹揚と話し始めるシュタイン王。相変わらずイケボのバスが腹の芯によく響く。

 普段は他の人に代わるのに、直接話すということはそれだけ大切な事なのだろう。


 俺とエリーは空いている席に腰を下ろした。

俺「ようやく城内で迷わなくなってきたよ」

エリー「そうでなくては困ります。ここがヤクモの家ですからね」

俺「えっ!?」

エリー「だってわたくしの夫なのですから」

俺(俺、ヒモやん!)

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