第118話 女神の正体
部屋の中に声のような音が響く。それは宝珠から感じたものによく似ていた。
それよりも気になる言葉があった。どういう事だ!?
「貴女はマーテルですよね!? 息子ってどういう!?」
―― 言葉の通りです。十年前に突然いなくなって驚いたでしょうね。貴方は世界を覆う混沌に対抗する為の、残された光なのです ――
確かに母さんは十年前に行方不明になっていた。話が全く繋がらず、意味がわからない。
―― もう時間がありません。わたしの力は失われ、ヴェルムは逆に力を取り戻しつつあります。残り僅かな力を愛する貴方の為に…… ――
その言葉と共に、宝珠は更に強い光を放つ。その光は俺が持つエルフの護りに吸収されていった。そして宝珠は音もなく砕け散った。
―― このユグドラシルの木片にわたしの意思を移しました。貴方の意のままに形をかえ、意のままに動かせます ――
「ちょ、ちょっと待ってよ。母さんだとか残された光だとか、分かるように説明してよ!」
―― バカな息子! 皆まで言わないと分からないのね! 一度、スーパーイオニティに行って豆腐の角に頭をぶつけてきなさい! ――
「へっ!? 近所にあったスーパーイオニティだと? しかもその言い方は……」
―― だから言ってるでしょ! 母さんだって! 雰囲気を出す為に高尚なイメージで演出したのに……、台無しだわ! ――
「ちょ、雰囲気って! 大体なんで母さんが女神をしてるのさ!」
―― むしろ女神が本職で……。十八年前、全ての宝珠が揃っていたので、余裕かなと思って平行転移を使って移動した先が地球だったわ。そこでお父さんに出会ってしまったの……。今思い出しても下腹部が熱くなるわ ――
「身動き軽っ! 女神って、そんなに軽いの!? 大丈夫なの!?」
―― そ、そうね。その余裕をヴェルムに付け込まれたのは後悔しているわ。でもそれがなければ貴方は生まれていないのよ。感謝してほしいくらいだわ ――
「反撃してきた! もしかして俺には母さんと同じくらい凄い事ができるとかある?」
―― ないわ、貴方は凡人だもの ――
「あ、そーですか」
俺は自分をの事を勘違いしていたようだ。やはりモブはモブなのだ。
―― でも、貴方には音楽があるでしょ? 人に感動を与えたいって、小さい頃から言ってた目標が。その感動が演奏効果になって世界を救うのよ、それは凄い事だと思わない? ――
「ちょっとやる気が出てきた! もうひと押し頂戴!」
―― バカ息子! それでわたしが同調したエルフの護りでピアノを造りなさい。貴方が大好きなシュタインウェイのピアノをね! ――
「シュタインウェイが造れるの!?」
―― さっきいったでしょ! エルフの護りにわたしが乗り込んでいるのだから、無くしたり奪われたら駄目よ! ――
「え!? えっちの時は……」
―― ほんとにバカ! ヴェルムを倒せたら、お父さんに挨拶しにいくわよ! ――
「ありがとう、母さん。俺、そのヴェルムって奴を倒すよ。そして家族団欒でお鍋をしよう」
―― 貴方の事だから、言ったことは成し遂げると思うけど……。お鍋、期待しているわ ――
エルフの護りの光は収束して、くすんだ木片に戻った。
俺が後ろを振り返ると、全員が訝しげな表情でこちらを見ている。
「そういう事で、世界を救う事になりました!」
「「「「「どういう事っ!?」」」」」
美しいハーモニーを奏でる五人。君達がもっている音楽の才能は抜群だよ。
どうやら、俺と母さんとの会話は、みんなには聞こえていなかったらしい。
俺は母さんとの会話の内容を全員に伝えた。
今、ここにいるのは信用できる奥様〜ズとシュタイン王だけだからだ。
「ヤクモがマーテル様の息子だなんて、それなら私達はどうなってしまうのかな!?」
「王族とか、貴族とかの話ではなく、女神という神代の話ですからね。規模が違います」
「わたくし達とヤクモの子供は、女神の血を受け継いでいると言うことですか? ロマンティックですね」
「結婚するのが畏れ多くなってきたわ。私で良いのかしら?」
「母さんが言っていたよ。ヴェルムを倒したら、日本に行ってみんなでお鍋を食べよう!」
「「「「お鍋!? さんせーい!」」」」
その時、肩を突かれているのを感じ、そちらを向いた。
「息子よ、俺も家族なんだから連れて行けよ?」
そこにはアピールするシュタイン王の姿があった。この国の政は大丈夫なのだろうか?
俺はサムズアップして、良い笑顔で応えた。
その時、片手に携えたエルフの護りが、微かに輝いたような気がした。
母さんもみんなとお鍋を囲むのを、期待しているのかもしれない。
マーテル「ヤクモ、納豆買ってきて!」
俺「そんなのないよ!」
マーテル「それじゃあ、お味噌!」
俺「それもない!」
マーテル「使えないわね! このバカ息子!」




