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第114話 謁見の間でのあれこれ

 少し時間は遡る。

 ヤクモとアイリーンが退出した謁見の間にて。


「さて、一芝居は無事済んだ。そなた達には報酬の詳細を伝えておく」


 一仕事を終えた満足そうな笑顔で、シュタイン王は再び玉座に着いた。


 その場にいた王国の重鎮達は、全員で、そうだったんですかっ!? というリアクションだ。

 宰相のコルトーでさえも知らなかったようで、そうだったんですかっ!? になっている。


「報酬の詳細……、ですか?」


「そうだ、コルトー、説明を……」


「ほへ? は、はっ! 畏まりました。まずはジュリアス騎士団長、お主には近衛騎士団が任されるのじゃ」


「へっ!?」


 ジュリアスは、気の抜けた返事をした。その内容から、その反応は仕方がないとも言えるだろう。


「何という返事、しっかりせんか! アイリーン王女には婚約を機に内政を学んで頂こうと思うておる。またこの人事はアイリーン王女の進言によるものじゃ、ジュリアス騎士団長は心して臨むのじゃ」


 自分の事は、さり気なく棚に上げるコルトー。


「謹んで承ります」


「そうじゃ、その意気じゃ。爵位も授かったのじゃから、住む屋敷も用意しておいた。後で案内するので、確認するのじゃぞ!」


「おお! 凄いぞリアナ! いきなり住む場所ができたぞ!」


「そうね、ジュリアス! あたしも嬉しいわ! やっぱり馬小屋はね……」


 その反応に、コルトーは声を張り上げようと息を吸った。王の御前でこの会話はない、と思っているからだろう。


 しかし、それは落ち着いた声で遮られる事になる。


「落ち着けコルトー。今後、必要であれば改善させようではないか」


「はっ! 御意にございます!」


「それとパウロ、そなたからも話があるという事だったな?」


 そう呼ばれたヴィドの教皇は、立っていた場所から少し前にでた。車椅子ではなく自身の両足を地につけて。


「ヴィドでは君たちに助けられた、改めて礼を言いたい」


「お待ちください、教皇猊下! おれ、いや、私達などに頭を下げないで下さい!」


 腰を折ろうとしたパウロに、畏れ多いとばかりに諌めるモーガン。


 しかし、モーガンの制止は効を奏することなく、教皇は動作を止めることはなかった。ヴィドの三人はそれに合わせて平伏していた。


「神聖騎士団の件だが、ヴィドから百人の精鋭を連れてきた。そのトップにお前達を任命したい。騎士団長はモーガン、副団長にルクールとクリストフだ」


 顔を上げた教皇は、ひれ伏したままの三人へ厳かに言った。その言葉に反応して、地中に埋まりそうなほど頭を下げる。


「はっ! 一命にかえましてもっ!」

「……頑張る」

「ワタシにい、できるでしょうかあ?」


 三様の答えを返す三人は、地面に貼り付いている。それに近づいて肩を軽く叩き、顔を上げるようにと言外に伝える。ゆっくりとした動作で顔を上げた三人を見た後、パウロは視線を変えた。


「アルティアよ、十日ほど見ない間に良い顔をするようになったな。聞くまでもないが、お前はどうしたいんだ?」


「お父様、わたくしはヤクモと一緒になります。もうヴィドには戻りません」


 決意に満ちた声音は、アルティアの意思の強さを表していた。それを見たパウロは決意したような表情をする。


「それならば、これが私からの最後の贈り物だ――」


 パウロはアルティアの両肩をしっかりと掴んで続ける。


「アルティア・マーテルをヴィド教会国家教皇に任命する!」


 その言葉に謁見の間が大きく揺れる。シュタイン王も驚きで、口をポカーンと空けていた。


「おとう、さま? どうして……」


「危機が迫る世界で、国が争っている場合ではない。ヤクモ君やアイリーン王女と手を取り合って、成さなければならない事をしなさい」


「わたくしには早すぎます! それに、その様な大役は向いていません……」


「ヴィドの聖女の名は、肩書だけではないことは聞いている。これはアルティアにしか務まらない役職だ」


「お兄様やお姉様は!?」


「ロビンは趣味を最優先にして、既に国政には興味がない。アリシアも奴隷になって、考えるところがあったようだ。それに……」


 パウロはアルティアの耳に顔を近づけて呟いた。


「アイリーン王女と立場が同じになると言う事は、ヤクモ君の第一夫人も夢ではない」


 アルティアの表情が急に輝いたかと思うと、パウロの手を取った。


「お父様、教皇職をお受けします!」


 それを後ろで見ていたアーシェラは、シナリオ通りに事が進むのを見てため息をついた。


「本当にヤクモ様が絡むとチョロいわね」


 

 その時、叫び声の様な声が謁見の間に届いた。


「この声はなにかな?」


 アンナはその声に疑問を感じながら、何となく聞き覚えがあることが引っかかっていた。


「そうですね、この悦びを感じる声は……」


 アンナもアルティアの言葉に同感だったようだ。そして、声に含まれる感情に覚えがあった。


 アンナと顔を見合わせるアルティア。二人はこの声が何なのかを理解する。


 そうしている間にも、悦びと快楽を色濃く含んだ叫び声は、何度も謁見の間を通り過ぎる。


 そこにいる全員も、それが何か分かってきたようだ。男性は少し屈んで、女性は顔を恥じらいに染めていた。


 アンナは言うが早いか、謁見の間を飛び出して、声のする部屋に向かったのだった。



 アンナは部屋の前に到着した。


 そこは王女の部屋。何人たりとも近づくことは出来ないが、遠目に見ることはできる。

 目につく範囲で人だかりが出来ていた。全員が謁見の間にいた人達と同じような姿勢になっている。


 部屋の中から聞こえる声が、どういうものなのかはアンナは身を持って知っている。

 その神聖な声が、第三者に聞かれる事が許せない。


「風よ、防壁となりて、周囲を閉ざせ」


 アンナは呟くとその場を後にした。

 


 その後、夜の帳に包み込まれるように、部屋は沈黙を続けたのだった。 

アンナ「私だけ役職がないよ」

コルトー「それではナツメ殿の助手などどうじゃ?」

女性全員「他はいらないから、それを!」

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