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第110話 アンナに変わる日

 お姉ちゃんにキスをされたまま、ベッドに押し倒される。


 雪が解けるような唇の柔らかさに触れ、頭の芯が蕩けそうな感覚に陥った。

 そして、お姉ちゃんが俺の口内を蹂躙しだす。


 おかしい、姉と弟がするスキンシップの域を超越している気がする。


 どちらかと言うと恋人達が――さっきまで俺とティアがしていたような――するキスをしている感覚。


 俺はお姉ちゃんの肩に手をかけて引き離した。深い場所まで届いていたキスは、美しい橋を築いていく。

 お姉ちゃんはマウントポジションのままだ。


「お姉ちゃん! 挨拶のキスはもっと軽いんじゃない? 俺、勘違いしてしまうよ!」


「弟君、挨拶のキスって何かな。私には、ティアとしていたようなキスはしてくれないの?」


 お姉ちゃんの言ってる事がおかしかった。どうしてティアにしていたようなキスをするの?


「だってティアとは、結婚する話をしているんだ。そんなキスを、お姉ちゃんとできるわけないよね」


「待って弟君! 今なんて言ったの!? ティアとかけっこ? 走るのとキスは関係ないじゃない!」


「かけっこでお姉ちゃんに勝てる気がしない! じゃなくて結婚だよ! 絶対わざとだよね?」


 お姉ちゃんが、けっこん、けっこん、けっこんと顔の上半分を縦線でいっぱいにして呟きだした。


「やっぱり、あの樽でやっておけばよかった……」


 挙句の果には物騒な事を言い出すお姉ちゃん。というか、あの飛んできた樽はお姉ちゃんだったのか!

 やっておくの"や"は"殺"じゃないよね? そうだよね? 


「弟の晴れ舞台なんだから、祝福してくれるよね!?」


 闇落ちお姉ちゃんが出来上がりそうだったので、 俺は話を結婚に戻そうとする。


「だが断る!」


 即答だった。少しは考えてくれても良いじゃない。


「えっ!? お姉ちゃん、おかしいよ! 俺が結婚するんだよ? そこは祝福するでしょ」


「弟君、いえ、あえてヤクモと呼ぶわ。ヤクモ、私達が焦っているのは分かっているのかな?」


「お、おねえ、ちゃん……? 私達って……」


「そう私達。私やティアやピリスはとても焦っているの。それはヤクモがエリーに奪われるから」


「お姉ちゃん、それはどういう……」


「明日、謁見があるよね? そこでヤクモは、シュタイン王からエリーとの婚約を宣言されるの」


「俺の意思は……」


「ヤクモは、王族に一般人の個人的な意思が通用すると思う?」


 俺はそれに答えることができない。それは肯定と同じだろう。


「その通りよね。王族に楯突くなんてできるわけないよね。そうなると私達ができる事は限られてくるの」


「それはどういう?」


 俺は全く答えを想像できずに、さっきからお姉ちゃんに聞いてばかりいる。

 心なしかお姉ちゃんが妖艶に微笑んだ気がした。


「既成事実を作ってしまうの。例えばこんな感じにね」


 お姉ちゃんは言葉を切り腰を上げると、俺がよく知っている単語を小さく呟いた。

 俺の周りに風が起こり、衣服を切り刻む。あっという間に、マッパの俺が出来上がった。


「おねえちゃん、どういうこと……?」


「ヤクモと体で結ばれてしまえば、他人ではなくなるよね? ティアもそう考えていると思うよ」


 何故かシュタインズフォートから帰ってきて、お姉ちゃんが積極的になったと感じていた。

 今日、ティアの状態が不安定だと思っていた。


 しかし、ピリスの名前がどうして出てきたんだ?


「お姉ちゃんはそれで――」


 言いかけた俺の唇を、お姉ちゃんは人差し指で止めた。


「お姉ちゃんは今日でおしまい。私はヤクモに名前で呼ばれたいの」


 ね、いいでしょ、というおねだりをする可愛らしい仕草。


「おね…………、アンナ……」


 俺が名前を言うと、アンナは嬉しそうに顔を傾ける。そして口を開くと風がその衣服を切り裂いた。


「これでヤクモと同じだね」


 一瞬で俺と同じ姿になるアンナ。服の脱ぎ方がセレブすぎた。


 既に準備ができていたアンナは、浮かしていた腰を俺の上に落とし、再び唇を重ねてくる。


 部屋を覆う風の防壁は、室内の音を完全に閉じ込めていた。



 窓から射し込んでくる太陽の挨拶は、今の時間がお昼近くになっている事を告げている。


 昨晩、貪るようにお互いを求めた続けた俺達が、眠りについたのは朝方になってからの事だ。


 いつも聞こえてくる雀っぽい鳴き声は、今日は聞こえてこない。


 ベッドで静かな寝息をたてる銀髪の美しい女性を見て、どうしてこうなった、と何度も自問していた。


 テラ・マーテルに来て、最初に手を差し伸べてくれた女性。

 ずっと姉として、見守ってくれていた女性。


 その女性と体を合わせる関係になってしまった。しかもティアがいるのに。

 そう思っていたとき、アンナが俺に手を伸ばし、その胸元に引き寄せた。アンナの胸に顔を埋める俺。


「ヤクモはティアと約束したのに、私とこうなったのを気にしているの?」


「ティアと約束したからね。ずっと離さない、そして愛するって……」


「ヤクモは勘違いしているね。ティアを離さなくて良いし愛したら良いの。それと同じ事を私達にしてくれれば」


 俺はそれを聞いて驚いた。現在の日本ではあり得ない考え方だ。

 それに私達ってどういう事?


「え、と。私達というのは?」


「決まっているよ。私、ティア、エリー、ピリスの四人。ヤクモ次第ではもっと増えるかもね」


 いたずらっ子の笑みを見せるアンナ。俺はその態度にカチンときて、目の前の果実に手を出した。

 一瞬で、甘い香りが漂いだし、気持ちが高揚していく。


 俺達は、ベッドが悲鳴を上げるのを無視して、再びお互いを求めあった。



 そして時間は瞬く間に過ぎていった。

俺「アンナは上と下どちらが良いの?」

アンナ(上と下!? 何を言っているのヤクモ!)

アンナ「え、と。上でも下でも気持ち良い……」

俺「昼ごはんのメニューだよっ!」

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