第109話 モテ期到来だとっ!?
視線の先には、はにかみながらティアがこちらを向いている。
お互いの手を握りしめ、その体温を感じながら近くにいる安心感に包まれていた。
乱れたベッドが、穏やかな雰囲気に嫉妬したのだろう。体を少し動かすとシーツが巻き付いてきた。
「そ、そんなに引っ張ると、わたくしの体が隠せなくなりますっ!」
俺が体で引っ張ったシーツを、取り返そうとするティア。その仕草に心がときめいて、更に引っ張り困らせてやろうと目論む。
しかし、単純にパワーはティアの方があるので、シーツを引っ張って困らせてやろう作戦は、あっさりと失敗に終わった。
「くっ! ティアに引っ張られるっ!」
俺は分が悪いことを悟り、作戦を柔軟に変更することにした。その名も、長いものには巻かれろ作戦。要は引っ張れないなら、引っ張ってもらおうと言うわけだ。
引かれる力を利用してティアの隣まで移動できた。瞬時に距離を詰められたことで、ティアに焦りの色が浮かんでいる。
「ヤ、ヤクモ……。まさか、ですよね……?」
「ティア。まさかって、どういう事なのかな。俺はティアが可愛かったから、近づいただけだよ」
俺が答えていると、ティアは途中からシーツで顔を半分隠してしまった。明らかに照れているのが分かる。
「わたくし……、大きな声を出してしまいましたし、何度も気を失いかけてしまって……」
「本当に可愛かったよ」
声がどんどん小さくなり、シーツにどんどん沈んでいくのを見て、心臓を撃ち抜かれた俺氏。思わず同じセリフを二度繰り返してしまう。大切な事なんでっ!
そして、完全に潜り込んでしまったティアの姿が見たくて、姿を隠しているシーツを引き剥がした。
「ひゃんっ!? にゃ、にゃくも、どうしてっ!?」
両腕で抱えきれないほどの果実を隠し、片脚を曲げて内股になっている金髪のゆるふわ美少女。
ため息が出るほどの美しい姿に、理性など保てる訳もなく……。
気がついた時には、その首筋にキスをしていた。絡みつく熱い吐息に頭の芯が溶かされていく。
ティアも、俺の首筋に両手を回し抱きついてくる。先程までと同じように、全身を朱に染めながら。
その瞬間、ティアのまさかが現実となり、第二回戦が開幕したのだった。
再び賢者に戻れた俺達。
しかし乱れに乱れたベッドは、必要以上に饒舌だった。
この戦場が、いかに過酷で、いかに熾烈だったのかが一目で分かる。
ティアは体裁を保つことを諦め、生まれた姿のままで恥じらいの色に染まっていた。シーツを片手に持つのが精一杯のようで、美しい肢体は惜しみなくさらされている。
俺は普段のティアからは考えられない姿に、目が釘付けになっていた。
「ヤクモ、わたくしはもう動けません……。そんなに見つめられると困ってしまいます」
羞恥からだろう瞳には涙がうっすらと浮かび、本当に困っている口調になっている。
「美しい姿に目を奪われるのは仕方がないんじゃない?」
「うぅ、その言い方は卑怯です。そもそも、わたくしの方が体力に余裕があるはずなのにどうして……」
俺の物言いに視線を外し照れている。自分だけが消耗している事に不満を持ちながら。
確かにあれだけ乱れると、どんなに体力があっても足りないだろう。
「そうだ! 昼食がまだだったよね。食堂に行って持ってこようか? ティアもお腹が空いたでしょ」
朝食をとってすぐに来たので、今の時間は夕方の少し手前くらいだろう。
ハードなスポーツよりもカロリーを消費しているはずだ。
「そう言えば。ヤクモ、お願いしても良いですか? それと、この鍵を持っていてください」
ティアはゆっくりとした動作で起き上がり、テーブルの上にある小物入れに入っている鍵を取り出した。体に巻き付けているシーツとのコラボした姿に女神を幻視する。
俺はその鍵を受け取り、色々な方向から見回す。
「この鍵は一体?」
「この部屋の合鍵です。時間に余裕がある時には、わたくしに会いに来てください」
ずっと住んで頂いてもいいですよ、とでも言い出しそうなティア。
俺は可愛いティアを見れるなら、それも良いかもしれないと思っていた。
「それじゃ、食事をとってくるね」
「はい。いってらっしゃい、あなた」
ドアから出ていこうとすると、そう言われて振り返ってしまった。
ティアは楽しそうに、クスクスと笑っていた。
部屋に鍵をかけて、廊下に出るとアリアがいた。
いた、と言うのは語弊がある。アリアが壁に耳をつけて、真剣に何かを聞いていた。
その壁の先は、先程まで俺がいた部屋。アリアのお姉様の部屋だ。
「おかしい、声が聞こえなくった。一体、何が起こったの?」
「アリア?」
「お姉様がお兄ちゃんに何かを渡すような会話だった気がする……」
「アリア?!」
「もう! 何なの!? 今、大切な……。お兄ちゃんっ!? どうしてここにっ!?」
ようやく俺に気がついたアリアは、非常に焦っている。アリアの独り言も怪しさ抜群だった。
「アリア、今、大切な、何があるのかな?」
俺は半眼になりながらアリアを問い詰めた。すかさず右手から封書を差し出してくる。
「お、お姉様に手紙が届いたので、持ってきたの! お兄ちゃんのもあるよっ!」
手渡された封書は、シュタイン王からの物だった。俺はそれを開封し中を確認する。
内容は、明日の夕方五時に謁見の間に来るように、という物だった。
「アリアありがとう。よかったらティアの分も渡しておくよ」
俺が手を差し出すと、アリアは手紙を後ろに隠しジト目になった。
「お兄ちゃん、お姉様へ手紙を渡すのは簡単ではないんだよ? それできるという事は……」
何となく既視感がある場面。俺はアリアの肩を引き、口を押さえた。
以前、お兄ちゃんのエッチーー!! と叫ばれて大変なことになったデジャヴ。
「アリア、ちょっと落ち着こう。俺はエッチではないからね?」
しかし、今回のアリアは大人しかった。俺の言葉に素直に頷いている。
何故か顔が赤い。そうか! 口を押さえているので、息ができないのかもしれない。
危なく指名手配犯になるところだった。間をおかずアリアから手を離した。
すると、アリアの表情にみるみる元気がなくなっていく。
「お兄ちゃん、鈍感だね……。それでも待っているよっ!」
一瞬大人びた口調になり、その後にいつものアリアに戻り、姿勢よく走っていった。
俺はその後を追うように、階段を降りて行く。アリアが食堂で待っていてくれている事を信じて。
結局、待っていると言ったアリアは、食堂で合わなかった。
年下の女の子の弄ばれる俺。今、目から流れているのは決して涙ではない。
シェフに二人分の食事を用意してもらって、ティアの部屋でいただいた。
ティアと軽く話をして、部屋を後にする。普段より笑うティアは非常に可愛かった。
自分の部屋に戻ってきて、ベッドの上に腰をかける。
本当に色々とあった日だった。明日も、シュタイン王との謁見があることを思うと、忙しいのだろう。
その時、部屋のドアが勢いよく、無音で開いた。
俺はその光景に唖然となる。世の物理法則を捻じ曲げる超常現象が、目に前で起こったのだから。
そして、部屋に入ってくる人物。同時に勢いよく無音で閉まるドア。無音で壊れるドアノブ。
室内なのに、無風のはずなのに、美しい銀色の髪を風にのせて、俺に近づいてくる。
いつもの優しさに満ちた笑顔は無く、柳眉を寄せて暴風の如く心が荒ぶっているのが分かる。
「弟君! 朝、大通りでティアとしていたキスは何だったのかなっ?!」
そう言って近づいて来たお姉ちゃんは、俺にキスをしたのだった。
目が覚めると朝だった。
俺「そうだよね。夢だよね」




