第108話 交わり合う二人
執拗に絡んだ唇から、銀色の絹糸が俺達の心を繋いだ後。
「ねぇ、ヤクモ。わたくしの服を脱がしてくれますか? 窮屈で苦しいのです」
白磁の肌を柔らかな朱色に染めたティアは、整わない呼吸で俺を見上げた。
その愛らしい潤んだ瞳を見て、俺の劣情が掻き立てられる。
ワンピースのフロントを彩る、複雑な紋章を象ったボタンを上から外していく。
最初のボタンで気が逸りうまく外れない時、ティアが俺の両手を柔らかく包んでくれた。
聖母の慈愛を思わせる両手の抱擁に、俺の気持ちがさざ波のように落ち着く。
一つ目が外れると、他のボタンは、抵抗するのを諦めたようだった。
ワンピースの腹部まで開いた服。
その胸元から覗く大渓谷は、グランドキャニオンをガキの使いに転落させた。
「ヤクモ、恥ずかしいです……から……早く……」
俺は見るだけで昇天しそうな大峡谷に、魂を奪われそうになっていた。
ティアは消え入りそうな声で、視線を床に逃している。
「ごめん、ティア。あまりにも綺麗だったから見惚れていたんだ」
ありのままの思いをティアの伝える。語彙力がないとも言う。
「わたくしが、きれい……?」
ティアは、自分の事を言われているのが、信じられないといった表情をする。
俺は大きく頷いて、ティアの鎖骨にキスをしながら、その袖を片方づつ抜いた。
甘い声で小さく声を上げるティア。
袖を抜かれたワンピースは、骨を抜かれたように床に這いつくばる。
そして、ティアの姿を見た俺も、その美しさに抗えず骨を抜かれていた。
胸を覆う黒いレースのバスケットは、瑞々しい二つの果実を重そうに支えている。
その下に目を移すと、黒いレースのガーターベルトが、神聖領域をヴェールに包んでいる。
ショップで見たアダルティな下着は、ティアによってその真価を十二分に発揮していた。
「ヤクモ、こちらでわたくしを楽にして下さい……」
ティアは俺の手を引いて、ベッドに移動する。
触れたティアの肌は、熱に浮かされたようだった。
ベッドの上でくつろぐように座るティア。
腕で胸と下腹部を隠すようにしている。
ティアの恥ずかしそうな視線に催され、ガーターベルトの留め具を全て外そうとする。
初めて見るガーターベルトの構造に、中々上手く留め具が外せない。
焦る気持ちが、更なる焦りを生み、時間だけが無情にも過ぎていく。
そんな俺は視線を感じて顔を上げる。
ティアは恥ずかしそうにしながらも、急かす素振りはなく、慈しむ視線を俺に向けていた。
聖女の慈愛が、焦りで力が入っていた身体に風を吹き込む。
軽くなった身体は、心も同じように浮き上がらせた。
俺を優しさで包み込むティア。
この女性と、添い遂げることができるのは僥倖でしかない。
そう思った時、頭の中を違和感がかすめる。
幸せと思う反面、これは違うという警鐘。
記憶の中を浮かんでは消える、波の狭間を漂う影。
「ヤクモ、どうかしましたか? 顔色がすぐれませんよ」
俺の違和感がティアに伝播してしまったようで、気遣いの声をかけてくれる。
何となく影の正体に気がついた俺は、思わず口を噤んでしまう。
それを見透かしたかのようなティアは、優しい口調を変えずに俺に語りかける。
「ヤクモが今、考えているのは三人の事でしょう? わたくしはヤクモを独占しようとは考えていません。次期シュタインお……ごほんっ! と、とにかく今はわたくしだけを見てください!」
ティアの彗眼には恐れ入る。
しかし三人ってどういう事だろう? ティア自身も入っているのだろうか?
続く、しゅたいんお? わんわんおの親戚かな?
そして、最後の言葉はホンマそれっ!
「ティア、結婚しよう」
俺は大馬鹿野郎だ。そして全てを理解して許容してくれるティア。
頭で考えるよりも早く、本心が口からこぼれでた。
「はいっ! わたくしはヤクモをずっと待っていたのですから!」
ティアは頬を恥じらいで染めながら、秋桜が咲くような笑顔で応える。
この言葉で俺は覚悟を決めることができた。
さっきまで苦戦していた、ガーターベルトの留め具は驚くほど簡単に外れた。
ガーターストッキングを一足ずつ、丁寧に、ゆっくりと下げる。
ティアもその動きに合わせて、足を引いてくれた。
身体を合わせるくらいの距離まで近づいて、ガーターベルトを外す。
ティアの果実を支える、黒いレースのフロントホックを両手で外した。
横に顔を背けるティア。二つの瑞々しい果実は、神々からの贈り物だろうか。
「わたくしばかり脱ぐのは恥ずかしいです……。ヤクモも早く……」
ティアに言われて、この部屋に来たままの姿であることを思い出す。
「そうだね、ティアが綺麗だから忘れてたよ」
俺は、上着、ズボン、下着という着た時とは逆の順番で、着ている物をキャストオフした。
下半身が、わんわんおになっていて、羞恥してしまう。
ティアを見ると、既に生まれたままの姿になっていた。
その色白の肌は色艶があり、朱を帯びて色香を漂わせている。
俺はティアと目を合わす。
それが合図となりティアにキスをしながら、ベッドの上で身体を重ね、温もりを感じ合った。
軋むベッドは、大海原に放り出された小舟のように、不規則な声を上げていた。
ヤクモ「さぁみんなー、いっせいのーで」
みんな「いっせいのーで」
ヤクモ「わんわんおー(∪^ω^)!」
みんな「(∪^ω^)」




