表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/151

第96話 シュタインズフォート攻城戦 柔らかいアレ

 俺は全力で階段を駆け降りていた。


 急いでいる時ほど、たどり着きたい場所への距離は長く感じる。

 息も絶え絶えに、一階ホールにたどり着いた。


 大惨事となっていたホールは、みんなで片付けてくれたようだ。


 俺は探していたティアが目に入ったので、飼い主を見つけたワンコのように一目散に近づいた。


「ティア、ピリス団長の様子がおかしいんだ、一緒に来てくれないか?」

 俺は急いでいるあまり、ティアの手を引いた。


「や、ヤクモは一体わたくしを、何処に連れて行こうとしているのです?」

 ティアは俺を一目見ると、視線を泳がせて恥ずかしそうに俯く。


 俺はティアの手を引いただけなのに、そこまで恥ずかしそうにする理由が分からなかった。


 周りを見ると、仲間達の怪訝な表情が俺を襲う。

 特にお姉ちゃんの視線の鋭さは、豪雪の中で朝を迎える氷柱だ。


「ヤクモさんよぉ、アルティアを何処につれていくんや? あぁ?」

 モーガンの顔は厳つかった。


「そうよ、弟君! 不純異性交遊はお姉ちゃんが許さないんだからっ!」

 お姉ちゃんは、俺の事を勘違いしている。


「わたくしはヤクモと一緒なら、何処にでも着いていきます。さあ参りましょう」

 俺の答えを待たず、自己完結するティア。


 そして、ティアは俺の背中に抱きついてきて――。

 あれ? 背中への感触がダイレクトなんですが? ティアのほっぺは柔らかいなあ。


 俺はこの時になって、キャストオフした上着の事を思い出した。


 上半身裸の男が、年頃の女性を強引に連れて行こうとする画。

 俺はお巡りさん事案を再発させてしまったのだ。


 明日の朝刊を賑やかすことは間違いない。

『十七歳、どーてー少年、上半身裸で聖女を連れさろうとしたところを御用!』


 俺は絶望に打ちひしがれて天を仰いだ。

 あぁ、ほっぺが柔らかいなぁ。


 あ、そうだっ! この世界には朝刊と言うものが無かったんだっ!

 ほっぺに癒やされた事で大切な事を思い出した。


 俺は安堵で心が満たされて天を仰いだ。

 しかし、幸福な時間は長くは続かない。


 お姉ちゃんからの痛寒い視線が、俺を貫いているからだ。

 明日の朝刊は賑やかさないけど、俺の血でここの床を賑やかすかも知れない。


「お姉ちゃんも一緒に来てほしいな」


 大丈夫か俺? いくらなんでもキャパなさすぎぃ!

 俺は自分自身のスペックに絶望するしかなかった。


「もお、弟君も最初からそう言ってくれれば良いのに! もちろん一緒にいくよ」

 え!? もしかしてチョロイ?


 お姉ちゃんは氷解して、春の陽気を思わせる軽やかさで俺の腕を取る。


 俺は理解できない方程式を、何故か解くことができた気持ちになった。


 俺はお姉ちゃんと腕を組んで、ティアは背中に抱きついたままで四階に向かう。


 階下では、舌うちで交響曲を演奏していた。メンバーも、音楽が分かってきたようで何よりだ。



 俺達は、四階の部屋に到着した。


 軽くノックをすると、中からエリーの返事が返ってきた。


「ヤクモの背中……、あったか〜い」

 背後から怪しいティアの声が聞こえてくるが、空耳に違いない。空耳ったら、空耳なのだ。


「ティア、ピリス団長の容態が芳しくないんだ。状態回復魔法を試してくれないか?」

 俺は振り返り、ティアの両肩に手を置いた。


「今度は正面からですかぁ、わたくしは果報者ですね」

 ティアには俺の言葉は届いていなかった。受け流されて遥か後方に飛んでしまっている。


 しかし、そんなティアを目覚めさせる人物がいた。

 おもむろに、ティアのほっぺをむぎゅ〜する。



「あんにゃ、いひゃい、いひゃいでしゅって、ほっぺがにょびる、にょびるっ」


 俺の隣で、ジト目になっていたお姉ちゃんだった。

 俺はこの時、ティアの暴走を止めることができる対処法を、学んだのだ!


 

 暴走が止まったティアは、部屋の中に入っていった。


 廊下にいるのは、俺とお姉ちゃんの二人になる。


「弟君、いつからあんな事が出来るようになっていたの?」

 お姉ちゃんは両腕を胸の前で組んでいる。表情には何かを考える色。


「ここに到着した時の話だよね」

 お姉ちゃんのあんな事というのは、ここに到着して直ぐの事だと考えていた。


「そう、弟君のスキルは、冒険者ギルドで確認したから知っているけど……」


 お姉ちゃんは、少し歩いて窓の外を見た。そして振り返り俺を見る。

 風に誘われた銀色の髪は、月の光を受けて水面のように輝いた。


 俺は、その美しさに目を奪われながら、この砦に到着した時の事を思い出していた。


お姉ちゃん「弟君、あのスキルはやっぱり……」

俺(何だかヤバそうなふいんき、誤魔化しきれるのか俺?)

お姉ちゃん「いえ、やっぱりなんでもないわ」

俺「そこまで引っ張って、おあずけかーい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んで頂いて本当にありがとうございます!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ