第93話 シュタインズフォート攻城戦 音楽家の無双 中編
ヤクモ達がシュタインズフォートの門をくぐり、中に入ると帝国軍の兵士達が待ち構えていた。
「ナツメ! 帝国の兵士は練度が高い! 僕が限界突破を使ってもーー」
ルシフェルがヤクモに言い終わる前に、アイリーンが敵陣に突撃をかける。
ヤクモは絶賛演奏中の為、ルシフェルの声に反応できるはずもない。
「ハアアアアアァァァッ!」
裂帛の気合のこもった声がホールに響く。そこには普段の優しい姫騎士はいなかった。
冷徹な剣姫と化したアイリーン。
細剣による連続した剣技は、帝国兵を翻弄する。
アイリーンが繰り出す一撃に、帝国兵がついていけず、傷を負っていく。
ある者は腕を切られ、ある者は体を突かれ、ある者は足を切られ、倒れていく。
アイリーンは、蝶のように舞い、蜂のように刺す、を体現していた。
「うおおおぉぉっ! お前ら! ワイルドボアより甘いんだよっ!」
通路側を見ると、ジュリアスが盾を構えながら、迫りくる帝国兵に対応していた。
帝国兵からの攻撃を盾で凌ぎ、反動で押し返す。
攻撃を受けて傷ついても、リアナが手厚く回復をかけた。
帝国兵が攻め倦ねていると、その後ろに控えている風の王ガルーダから、かまいたちが飛んでくる。
かまいたちの切れ味は抜群で、何人もが一瞬で切り刻まれて、物言わぬ有機物に変化していった。
逆の通路ではモーガンとルクールが前線で暴れており、後方からクリストフが火球の魔法で援護していた。
モーガンとルクールは、帝国兵と一進一退の攻防を繰り広げていた。
多対個にならないような立ち回りで、実戦のセオリーを忠実に守った戦い方。
そして、僅差の戦いに於いて、魔法の援護は強力で、クリストフの魔法が発動すると一気に攻勢に転じる。
不思議な事に前衛の二人には、傷を負った形跡がない。
「痛っ! くそっ! 帝国軍はやっぱりつえーわ」
モーガンが、帝国兵からの攻撃で肩口から鮮血が舞う。
間をおかず、モーガンに黄色い光が降り注ぎ、その傷を癒した。
アルティアからの回復魔法である。
前衛二人はこれまでに何度も傷ついていたが、アルティアが完治させていたのだ。
このサイクルは、戦闘継続力が無限と言っても良いのかもしれない。
ルシフェルは限界突破を発動、帝国兵に斬りかかった。
反応が遅れた帝国兵は、あっさりと首を飛ばされる。
返す刃で、隣にいた帝国兵の胴を攻撃するルシフェル。
帝国兵のガードが間に合わず、刃が胴に食い込み、そのまま真っ二つになる。
「勇者様、少し腕を上げられたようですね」
ルシフェルが声のする方を向くと、アイリーンが敵を屠っていた。
その足元には帝国兵の亡骸が、数え切れないほど横たわっている。
アイリーンの姿には、返り血や汚れなど微塵もなかった。
「この前はナツメが相手だったので、スキルを使っていなかったからですよ」
ルシフェルは帝国兵を斬りながら答える。
「くすくす。勇者様は、そのヤクモから多大な恩恵を受けている事に、気がついていますか?」
アイリーンは優雅に手を口に添えながら、ルシフェルに聞いた。
その言葉を聞いたルシフェルには、確かに思い当たる節があった。
最初に砦で戦った帝国兵には、ルシフェルの剣技は通じなかった。
しかし、今戦っている帝国兵に対しては、子供を相手にするような手応えしかない。
帝国兵の実力が、突然下がるとは考えにくい。となれば、自身の実力が上がっていると考えるべきだ。
既に、周りには帝国兵の姿は無くなっている。
他のメンバーの周りにも、帝国兵の姿は無かった。
九人で帝国兵三百人を殲滅した事になる。有り得ない事態だと言えた。
「ナツメは一体、どんなスキルを使っているんだ……」
ルシフェルは演奏を続けるヤクモに、得体の知れないものを見るような視線を投げる。
アイリーンもつられる様にヤクモを見た。
その表情は穏やかで、春の陽射しのような優しさに溢れていた。
「ブシュシュ、あなた達は一体、どういうつもりなんですかねぇ?」
階段から聞こえてくるくぐもった声。
その声の主が階段を降りてくると、徐々に姿が顕になる。
後退した頭髪、蛙のような潰れた顔、でっぷりとした体型。
見た目は、底辺を彷徨う冴えないガマガエル親父。
しかし、片手を肩近くに上げ、その指先に集中しているマナの量は尋常ではない。
それが、指先にそれぞれ構築され、合計五つの小さな火種として浮遊している。
「ブシュシュ、わたしの楽しみの邪魔をしてぇ、同胞を殺めたぁ……」
アシュケルの両眼は大きく見開く。その姿にパーティーは戦慄した。
あまりにも気持ちが悪かった為だ。
そして、片手を前に差し出したアシュケルは叫ぶ。
「ブシュシュ、その大罪、死んで償いなさい!」
言葉と同時に迸る爆炎魔法。
それが、それぞれの指先から同時に放たれた。
五つの轟が起こったのは、その直後だった。




