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第91話 シュタインズフォート攻城戦 捕虜の処遇

少し胸が悪いかも。ご注意ください。


 シュタインズフォートの牢屋に、美しい騎士が入れられた。


 そんな噂が瞬く間に砦の帝国兵に伝播した。


 王国軍を撃退したことで、帝国軍内に弛緩した空気が流れている。

 ピリスが入れられた牢屋の前に、帝国軍の人だかりが出来たのは自然な成り行きだった。


 極限の状態から開放されると、甘いお菓子が欲しくなる心理と同じなのだろう。


「俺、ちょっとこんな美人しらないんだけど」

「まあ、待て。お前の場合、女に知り合いがいないんじゃねえの?」

「ぎゃははっ! そら知っている訳ねえわっ!」

「あ〜あ、変態が羨ましいぜ。こっそり俺が味見してもわかんねえよな?」

「お前、丸焼きになるぞ」


 牢屋の前はピリスを称賛する声やら、変態を羨望する声やら、自分の欲求に素直な声やらで騒然としている。


 一方、牢屋の中にいるピリスには、表の騒々しさは気にしていなかった。


 両手を後ろで括られていて満足に動く事ができない。

 腰に差していた二本の短剣は既に手元にはない。

 普段、愛用している軽鎧も没収されていた。


 服装は、綿のシャツとタイトなズボンにブーツという、簡単なものだった。


 その視線は虚ろで、中空に固定されたまま微動だにしない。


 ピリスは、先程までの戦闘の事を思い返していた。

 王国軍は、総指揮官であるピリスの号令で動いた。その一言の号令が沢山の命を散らした。

 今まで考えた事が無かった重責に蝕まれていたのだ。


(わたしは沢山の人を殺してしまった……。その罪はどうすれば償えるのかしら……)


 ピリスは自己嫌悪に陥って項垂れる。その動きに合わせ、肩までの赤い髪が儚げに揺れた。

 牢屋の外からは、今にも崩れそうな雰囲気の美女を目の当たりにして、ため息が聞こえてくる。


 ピリスは外からのため息を聞いた事で、自身の置かれてる状況を思い出すことができた。


(そうだわ、わたしは戦犯扱いになっているはず。私が牢屋から出される時は処分されると同義……)


 そう考えたピリスの表情は少しだけ和らいだ。

 犯してしまった判断ミス。それによる大きな被害。波寄せる自責の念。

 ピリスは極刑を受ける事で、その贖罪ができると考えたようだった。



 ピリスは牢屋の壁に背を預け、足を崩して座りながら目を瞑っていた。

 壁や床の冷たい感触も、今生の別れを考えると愛おしく思えた。


 ピリスはふと同い年の親友、アイリーンの事を思い出した。

 子供の頃から、同じ剣術の師匠に師事し、同じ時を過ごした同性の王女。

 最近は、冴えない黒髪の男の子に熱を上げ、空回りし続けていた。


(エリーは何故あんなのを選んだのかしら? 焦る気持ちも分かるし、周りに禄な連中がいなかったのも分かるけど……。妥協しすぎよね)


 そう考えて、ピリスは最近の出来事を思い出す。


(エリーに武闘会で敗れ、騎士団長に就任し、王都がリンバルに乱され、帝国が攻めてきた。そして私はここにいる。一生分の出来事を体験したような忙しさだわ。もう思い残すことは……)


 ない、と言いかけたピリスは唇の端を噛んだ。

 最近の親友がする幸せそうな顔を思い出したのだった。


(私も人を好きになって、恋をしたかったな……)


 自責の念で潰れそうになっていた心に、少しだけ明かりが灯った。

 苦渋に満ちていた表情にも、普段の可憐な色が戻ってくる。



 牢屋の扉が開いたのは、その時だった。

 帝国軍の兵士が四人、牢屋の中に入ってきた。

 そして、ピリスを立たせ、両腕を組んで連れていく。

 ピリスは凛とした姿勢で、それに従ったのだった。



 帝国兵がピリスを誘導して連れてきたのは、シュタインズフォートの最上階。

 四階にある執務室だった。


 帝国兵達はドアの前に立ち止まり、ノックをした。


「ブシュシュ、入りなさい」


 部屋の中から聞こえるくぐもった声に応えるように、帝国兵達は中にピリスを連れていく。


 部屋に入ると声の主と思われる人物は、窓の外を見ながら後ろに手を組みながら立っていた。

 それを見て、ピリスに疑問が浮かび上がっていた。


(わたしは敵国の指揮官だというのに部屋に連れて来られた。今から形だけの裁判でも行うというの?)


 そんな思考の中、ピリスは足に違和感を覚えて足下を見る。

 そこには両足をロープで括り付ける兵士の姿。


 両手、両足の自由を奪われたピリスは、その部屋の一際大きいベッドに運ばれた。

 ここで初めてピリスは、自分がどのような処遇を受けるのかを理解した。


「どういうつもりなのですかっ! 貴方は私を辱めようと考えているのですかっ!?」


 ピリスは精一杯の抵抗をしようと、声を張り上げ、体を動かしてよじる。

 しかし、両手、両足を縛られている状態では、満足な結果を得ることは出来なかった。


 兵士二人に両腕を掴まれ、もう二人がロープを外す。

 そして、ロープを外された両腕は、ベッドの柱に再び括り付けられた。


 四人の帝国兵達は両腕の固定を終え、次は両足に取りかかる。

 淀みのない作業を展開する四人の帝国兵。

 あっという間にピリスは、四肢をベッドに固定され、大の字を描かされた。


「アシュケル様、完了しました!」


 窓際に立っている人物に敬礼を行い、部屋から出ていく帝国兵達。


 ドアが閉じられるタイミングに合わせて、アシュケルはピリスに近づく。


 後退した頭、潰れたガマ蛙の顔、肥った体。

 歪んだ嗜虐的な表情でピリスを見下ろしている。


 ピリスは自分が処刑される事で、贖罪ができると考えていた。

 しかし、今から受ける事は……。


「くっ! 私を殺しなさいっ!」


 それを聞いたアシュケルは無言でナイフを懐から取り出し、ピリスの服に沿って動かした。

 ナイフの通った場所が切れる。


 アシュケルの笑みは更に歪んだものになった。

 はだけた衣服からは、美しい双丘が姿をみせる。


「いやあああああああああっ、殺してえええええええっ!」


 部屋には絶叫だけが響き渡った。

 

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