オフクロの味
掲載日:2018/07/23
君はドアを開けっ放しにして便器に座ってる。
僕んちに君が泊まりに来たのは今日で何回目になるんだろうね。
最初なんか僕の前で化粧を落とすことすら頑なに拒んでいた癖に、今となってはスッピンにジャージ姿で己のケツを拭いている。
君がハミングしだして、僕は洗濯物を畳む手を止めた。
ゆりかごの歌をきくと泣きそうになる。
誰かが昔、歌ってくれてたのかもね。
オフクロの味ってよく言うけど、それって味だけじゃないんだなって思った。
そしてそれは何にも勝てないノスタルジックでエモったるい感情だから、それを与えてくれる君が急にとてつもなく愛おしくなった。
慣れれば慣れるほどトキメキ(笑)の回数は減ってくけど、その代わりふとした時に僕らは何度もお互い惹かれ直す。
衝動的に夏祭りの射的でもらった景品のプラスチック指輪を引っ掴んで、便器から立ち上がった君の左手の薬指にはめた。
まだ本当のプロポーズはできないし、僕らまだ20代前半の売れないバンドマンとFラン女子大生だから将来なんかみえやしないけど。
運命とか奇跡とかキモいし信じらんないけど。
僕ら世界一丁度よくハマってる気がした。
今更、こうやって無言でしか愛せないよね。
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