ウィンドウショッピング編 その1
母智一人くんは、一人遊びが好きだ。二人や三人や皆で遊ぶのもいいけど一人遊びもいいよね、というタイプではなく、遊びといったらもっぱら一人遊びしか知らない。友達と遊んだ記憶は小学校の中学年くらいまで遡らないとない。にも関わらず一人くんは、一人最高、一人遊び最高と思っていた。
これはそんな一人くんの、楽しい楽しい一人遊びの記録である。
一人くんは大学二年生で、今は夏休み。週に三回近所の本屋でバイトをする以外は特に何もすることもない。
でもそこは遊び上手の一人くん。暇な時間があってもそれをもて余すようなことはしない。
さて今日は何をしようと、希望に燃えた目で今日も目を覚ます。
朝ごはんを食べながら、テレビの情報番組を観ると、最近よく観る若手女優が、趣味はウィンドウショッピングと答えている。そうだこれだと一人くんは思う。今日はウィンドウショッピングをしよう。一人くんはウィンドウショッピングというものを今までちゃんとしたことがない。
さっそく一人くんは早着替えをし、相棒の自転車に乗って近所の大型ショッピングモールに向かう。
いつもなら書店に直行して立ち読みをしたり、CDショップで視聴したりするのだけど、今日はあえていつも行かないアパレルショップに向かう。ウィンドウショッピングといえばアパレルショップではないか。そういうイメージが一人くんにはある。
ウィンドウショッピングはウィンドウという位だからウィンドウ越しに楽しむのが正解なはず。そう考える一人くんは、店の中には入らずに店を仕切るウィンドウ越しに中を覗いたり、ウィンドウの中にいるマネキンを見たりする。
うん、楽しい。一人くんはウィンドウショッピングをしながらそう思う。
一人くんはアパレルショップに今までほとんど来たことがない。基本的に服は母親が買ってくれるのだ。わざわざ自分でお金を出して買う必要がない。だから見るもの全てが新鮮に見えた。
色とりどりの服。それを着こなすマネキンたち。
マネキンはのっぺらぼうに見えて、そこはかとない感情を感じさせる。楽しそうでもあり、哀しそうでもあり、まるでそれを見ている人の感情を反映しているようでもある。
そんなことを考えていると、いつのまにか若い女の店員が一人くんの隣に立っていた。
「お客様、何かお探しですか?」
一人くんは、びっくりして飛び上がりそうになる。でも、実際には飛び上がりもしないし、声を出しもしない。ただ目をちょっと大きくさせたくらいだ。