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ホテルの部屋で、私はおばさまに、家族の部屋を見に行きたいと提案した。たとえAINABIのせいとかでなくても、パパは、少なくともあのときだけは、何かおかしかったのは間違いないもの。それなのに、お母さんも弟も反応してない。かなり不気味だった。
私はお母さんとパパと弟が泊まる部屋に突撃しようとした。二つ隣。隣の部屋は空き部屋で鍵が閉まったままになっている。隣同士じゃないところも、すっごく、気持ち悪いというか、不思議だ。そのあたりから足音を立てないように気を付けて、扉に耳を当てて、中の音を聞く。
何か言われたときの理由は考えてある。おばさまとおじさまが一緒にお風呂に入るから、ということにした。
親にはわかってもらえるだろうという理由でそっち方面で攻めることにした。弟にはわからないのが理想だし、わかったらきっとはやし立てるのでなおさらお母さんは黙っていられないはずだ。
扉に耳を当てていると、最初は耳の中のざーっと変な音で気が散って、何もわからなかった。けど、集中してると、少しずつ三人の声が聞こえてきた。三人でしゃべっているということは、いつもお母さんが見ているドラマの時間なのに、テレビをつけているわけではないみたいだ。パパや弟は興味ないから見なくて、家だったらそれぞれ自分の部屋とかにいる。
私はノックをして声をかけようと、耳を離して姿勢を戻し、手を挙げた。そこで、変なものが聞こえてきた。しーくんの声だと気づくのに少し間が開いた。もちろん、ノックも何もできなかった。
しーくんの声は、外国語とか適当に打ち込んだ文字とか暗号を読み上げているような、そういう風に聞こえた。意味が分からない音だった。しかも、しーくんの声が止まるたび、何かを暗唱するような三人の声が続いていた。あまり聞き取れないけど、XXXXのために、XXXXする、と標語のようなことを唱えているのが分かった。
私はポケットからスマホを取り出して、その声を録音した。小さくてうまく撮れてるかわからないけど、三十秒か一分くらいか、ある程度撮ってから片づけて、今度こそノックをして声をかけた。
「基子だけど、いいかな。おばさんとおじさんに、ちょっとこっちにいてほしいって言われたんだけどー」
足音も何もしない。反応なし。そのまま五分か十分は待ってようやく扉が開いたかと思ったら、開けてくれたはずの弟が私の顔を見て真顔のままそっと扉を閉めた。
私、すぐに元の部屋に走って戻った。あんな距離なのに、何が何でも、走って逃げてしまいたかった。開けてくれたおばさまに抱き着いて泣いてしまった。恥ずかしい。
おばさまとダイフクから小さい子みたいに頭を撫でられて、何とか落ち着いてから、あったことを話して、スマホの録音を再生した。うまく聞こえなかったので、おじさまのパソコンに音声ファイルを取り込んで、いろいろソフトで音を加工してもらった。やっと聞こえた音声は、三人の声だけだった。しーくんの声は入っていなかった。
『社長の夢のために、受諾する……社長の夢のために……』
社長の夢ってどんなことだろう。受諾って、何を受けるのだろう。しーくんは何を言っていたのだろう。