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 私はおばさまの部屋に案内された。おばさまは雑誌の記事や本を書くライターをしていたことがあって、他の家具と雰囲気があわなそうな事務机が目を引く。

 アンティークっぽい棚やテーブル、ベッドの上にはぬいぐるみがひしめいている。小さいころから見慣れているから、私は何とも思わないていたんだけど、このときだけは、一〇〇体以上あるぬいぐるみたちがみんな、部屋に入った私をじっと見つめているような錯覚さえした。背中がぞっとした。


 すぐに、テーブルの上の色あせた薄青色のくじらのぬいぐるみ・モビィの上にダイフクを載せて、私はおばさまに朝のことを話した。ワイドショーでやってた緊急アプデのことも忘れずに付け加えた。

 おばさまは真剣に聞いてくれた。こんな突拍子もないことなのに、すごく親身に聞いてくれて、私だけじゃなくぬいぐるみやAINABIたちを、心配してるのが分かった。しかも、話してる途中でダイフクがしゃべりだしたもん、おばさまは信じざるを得ないんじゃないかな。


 私が話し終わると、おじさまよりもずっと年上のおじいさんのような、がらがらに枯れた声がした。


『そうかい、おまえさんも、我々の声が分かるのだねえ』


 直後のおばさんの心配そうな声で、すぐに分かった。モビィだ。モビィは、おばさまのお母さんがおばさまが生まれたときに買ってきた空色のくじらだ。一昨日くらいに、しゃべり始めたとおばさまは言った。そりゃ、先に喋ってたなら、少なくともダイフクのことは、信じてくれるわけだ。

 

『何があるかは、我々にも細かいことはわからない。

 だがね、我々だけでなく、人間にとってもとても恐ろしいことが起こるかもしれないんだということは、わかってほしいのじゃ。

 ……そのあぷでとやらが、そのきっかけになるのやもしれんのう』


 おばさまと私は、ぬいぐるみたちとも話をして、ええと何体か、しゃべる子がいて、とにかく話し合った。まだ何も起こってないみたいだけど、動きがありそうだしAINABI関係には注意しておこう、ということだけは即まとまった。六日の出校日の時にAINABI持ちの生徒の様子も見て、報告することも決めた。


 出校日に、ダイフクを連れて行ってほしいとモビィたちに頼まれた。人間にはわからなくても、ぬいぐるみはぬいぐるみ同士で話ができる。ダイフクのようなAIとかついていないぬいぐるみでも、ぬいぐるみになら、注意するように広めることはできるんだって。AIつきのぬいぐるみに伝えることができれば、それとなく持ち主にあれこれ仕向けることができるっていうわけね。




 話がまとまった後は、居間へ移動して、おじさまにも教えてもらいつつ問題集をやった。午後はおばさまの本とアドバイスで読書感想文を済ませることができた。いつも最終日に別の学校の友達のを改造して出してるからほんと助かった。

 予定以上に進んだし、ずっと座っていたから体をほくしたほうがいいし、と私とおばさまは外に出た。おじさまに、ついでに何か食べておいでと小遣いをもらったのもあって、喫茶店に寄っておばさまの買い物のメモを作ったりした。


 喫茶店でもスーパーでも、やっぱりAINABIに目が行く。喫茶店のラジオで例のアップデートが早まったというのがやっていて、余計に気になるのだから仕方ない。慣れない風景に挙動不審になるよその人みたいにそわそわした。


 それぐらい気にしていたおかげか、うちに帰るまでずっと見ていて、気づいたことがあった。例えば、道で三人とか四人とかで歩いてる人を見かけたとする。その場合、全員AINABI持ちか、全員持っていないか、どっちかだ。

 部活動の人とかで固まってる人数が多いと、一人二人持ってないとかあるけど、少人数なら、AINABI持ちはAINABI持ちだけで固まっているか、固まろうとしているように見えた。おばさまやダイフクもそう感じていたと教えてくれた。


 出校日も気を付けてみていたらやっぱり、持ってる子同士持っていない子同士で話をしている。気にして見てみると、持っていない子は持っている子にも普段通り接しているけど、持っている子が持ってない子に話しかけるとき、ためらうというか、一拍置いてから話しかけているっぽかった。


 クラス委員で親がお金持ちの永織ながおりさんなんか、先生の指名とか係の仕事とかでなければ、誰とも話してなかった。それまでならいつも誰か取り巻きと噂話とかしてたのに。彼女のAINABIだけが後をついて歩いていて、取り巻きの人はAINABIの後ろとかにいて、声をかけるのを見なかった。

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