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「醜態だったぞ。おまえたちは仕事の話をしていたんじゃなかったのか? ケンはそのために外に出たんだろうが」

「それどころじゃなかったよ」

と、真っ先に口を出したのは高志だ。

「おまえの言うことすらきかないということじゃないか。そっちを片付けるのが先じゃないのか? なんのためにオレたちがこいつを見守ってきたと思っているんだよ。オレたちは……」

「タカシ、おまえは何をしにここに来たんだ。マモルに文句を言うためか? 大体、タカヒロもエリも、こいつらを止めるどころか一緒になるとはどういうことだ」

「……それは……」

 口ごもる隆宏に向き直る。

「おまえがマモルに話を持っていったのならば、こいつがなにを言おうと従うのが筋だろう。それがチームワークだと思わなかったのか?」

「冗談じゃないわ」

 今度は、絵里がテーブルを叩いて言い捨てた。

「それを乱す元凶はマモルのほうよ。あたしたちはここでのフォローを任された。なのに彼だけが京都にいくというほうが責任放棄でしょう?」

「そのことだが……マモル、はじめに護衛は必要か?」

 護は一点、はじめの瞳を見据えて言った。

「……後始末のフォローを依頼された原因はケンが町へ……さらにウシゴメまで行ったからだ。洋装の人間が一介の武士を一人だけ連れて徘徊するのは不自然なことだ。そのために、探索が始まる前にここを解体する……」

 話題が自分に向いていると気づいて、はじめは隆宏に目配せをした。

 隆宏のほうも、認めるように頷く。

 護の話が続いた。

「だが、それはさほどの問題ではない。けれど、あなたがケンと共にいたことは事実だ。ウシゴメの人たちの口から彼のことが世間に知れることも懸念される。その場合、彼はともかく、あなたはバクフ直轄地に入り込んだ侵入者として手配が回る」

「……そう言われれば……そうなるか。なるほど、そこまでは考えていなかったな」

 いたって暢気に言ったものの、はじめは内心驚いていた。

 確かにそちらの可能性のほうが大きいのだ。

 素性の知れない異人と共にいたはじめが板橋の辺りで見られた。

 どこから来たのか……と。

 旅人が二日続けて泊まっているわけでもない宿場町に姿を見せることは皆無だ。

 とすると、どこかに居を構えている。

 探索すれば、立ち入れない場所に無断で入り込んでいたことも知られるだろう。

 はじめは、たったそれだけの理由で犯罪者になりかねないのだ。

 だが、京都までの道のりで手配書が回ったとして、護は追ってきた役人のすべてを始末していくというのだろうか?

 それではますます騒ぎが大きくなる。

 解決にはならない。

「方法は?」

と、簡潔に尋ねた実に、護はふと、ここからでは見えない庭のほうに目を向けた。

「これは外交渉だ。ケンにしか勤まらない。彼をただ戻らせても意味はない。ポイントの増設はもちろんだが、さらに彼にはもう一度、この時代に戻ってもらう。場所は……バクフ中枢組織。ミノル、君はサポートに回ってほしい」

 実は目を見張ったものの、思わず笑い出した。

「それは……相当厄介な課題だな。ケンでさえ困難だぞ」

「承知している。だが、彼が解決しなければならない問題だ。時空を超えること自体、もっとも困難な問題だということを理解してもらわなければならない。安易に実行していいことではない。問題が起きたときに解決ができないでは済まされないことを知らなくてはいけないんだ。この次のためにも……対処の方法を確立してもらう」

 なるほどな、と実はメンバーを見渡した。

「……だそうだ。キョウトに行く正当な理由があるじゃないか」

 絵里が、大きく首を振ってやりきれない、とため息をついた。

「あたしたちが聞かなかったわけじゃない。どうして黙り込んでしまったのよ。こうして話してくれればわかることじゃない。……ねえ、マモル、あたしたちはそんなに情けない? こと細かく説明する価値もあたしたちにはなかった?」

「それは違うよ、絵里さん」

 傍観者に徹していたはじめが頬杖をついて口を挟んできた。

「違う?」

「あなたが本心からそう考えていないと、私は信じたいね。護さんは、君たちを信頼しているからこそ、なにも言わないんじゃないかね? 私の目にはそう映るがな」

「彼が? あたしたちを?」

 思わず視線が集中する。

 今までそんなことを考えたこともなかった。

 護は、聞いていなかったかのように表情ひとつ変えず、庭のあるほうを見続けている。

 唖然とした雰囲気を壊すかのように、実が口を開いた。

「ユウコ」

「は、はい」

 呼びかけられた彼女はすでに片付けも終わって、所在なさそうにテーブルのないソファに座っていた。

 背筋を伸ばし、慌てて立ち上がる。

 じっと見つめられ、ハッとしてドアのほうに向かった。

 自分が邪魔だということに気づいたのだ。

「お部屋に戻っています」

「違う。今の話、聞こえていたな?」

「……はい」

「ケンに伝えてきてくれ」

 返事とともにまた一歩踏み出した彼女を、今度は隆宏が止めた。

「待ってよ。ミノル、彼が町に行ったことが原因だと言ったらそれこそ彼、落ち込むよ」

「タカヒロ、マモルが言ったことは間違っていないし、ケンの行動もやってはいけないことじゃないんだ。あいつがするべきことを教えなければならないだろう?」

 そう聞けば足を止める必要がない。

 ドアを開ける。

 背後からまた声がかかった。

「君も、オレたちが呼ぶまで戻らないでくれ。ここから先はオレたちの会議だ。あいつを引き留めておいてくれるな」

 言いながら、食器棚からボトルを二本、取り出して彼女に渡した。

「これだけあれば時間稼ぎにはなるだろう。元気がないが、励まそうとはしないでくれ。目を離さず、傍にいるだけでいい」

「はい」

 夕子を見送って、実はドアのところから今度ははじめを呼んだ。

 はじめもまた部屋を出ようとする。

 自分の部屋に向かおうとした腕を掴まれて、訝しげに振り返った。

「どこに行くんだよ。まだ話が途中だ」

「まだ? 仕事の話し合いなのだろう? 私の出る幕はないはずだが?」

「ああ。仕事の話ならばおまえは邪魔だ。だが、それ以外ではおまえにも答えてもらわなければならないことがあるんだよ。その前に口止めをしておくぞ。ケンの死期を知っているのはマモルとシノ、シノがノーセレクトであることを知っているのはマモルだけだ。他の奴らに気取られないようにしてくれ」

 そうまでしてまだ、なにを聞きたいというのだろうか。

 はじめは眉を寄せたものの、黙って席に戻った。



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