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 一通り健たちを見回して、誰にともなく口を開く。

「君たちは悩みが多いね。物事を複雑に考えすぎているんじゃないか? ちょっと言わせてもらうよ」

 健の、

「どうぞ」

という返事に、はじめはまず、志乃を見下ろした。

「志乃さん、君はなんのために強さを求めているんだ?」

「それは……足手まといになりたくないからだよ。俺、ケンからリーダー代理を任された。なのにこいつを守ってやることもできないんじゃ、情けないじゃないか」

「守るといっても健さんは誰より強いのだろう?」

「そういうことじゃないよ。確かに……本気をだせば……怖いけど……」

 一度だけ、健の違う面を見ている志乃は、もう傷跡も残っていない右腕を無意識にさすって言った。

「でも、だからこそ本気にさせないようにしなきゃならないんだ。俺が弱かったらケンに負担をかける。それがあとでこいつの後悔になるんだ。俺だけが足を引っ張って迷惑をかけたくないんだよ」

「なるほど、動機は単純だな。だが、やはり根本がわかっていない。となると、私が理解できないのは護さんが答えを迷っている理由だ。君は実さんのために強くなったのだと聞いた。源はそこだ。それを教えればいいだけのことではないのか?」

 それではダメなのだ……。

 その一言が言えずに護は首を振って目を伏せた。

 しかし、言わなければ伝わらない。

 実のため……それを完全に引き離さなければ志乃へのフォローは上っ面だけになってしまう。

 志乃を自分の思い通りに説得するための言葉は、やはり護には不自由でしかない。

 護は顔を覆って呼び掛けた。

「シノ……。オレは君のフォローを引き受けた。……指導することはその範疇にはないが……。オレをパートナーに選んだことを後悔しないというのならば……」

 顔をあげて、護は決心のこもった眼差しを志乃に向けた。

「徹底的にオレに従ってもらう。どうするのか、君が決めてくれ」

 心の底まで覗いているような視線に、志乃は即答した。

「あんたは想像以上に厳しいよ。だから尚更迷いはないんだ。言うことをきくよ」

 答えの真意を確かめるように志乃を凝視していたが、彼はスッとまた目を伏せた。

「ならば、残りの時間、庭で座っていてもらう」

「座って? ……わかった。で? その他には?」

「他……は、ない」

「ない? ただ座ってるだけ? だってそれじゃ……」

「シノ」

 最後は一言だけだった。

 はじめがクスッと笑う。

「確かに君は厳しいな。今の志乃さんには酷なことではないか?」

 返事をすることを拒むように席を立つと、護は庭に出ていった。

 口出しを許さない。反対もさせない、説明もない。

 それが護のやり方だというように健は頷いた。

 そして実もまた、彼らしい言動に満足したらしい。

 話の区切りに背伸びをして、立ち上がりざまに残ったジュースを飲み干した。

「なんにしても今のおまえでは明日は動けないだろう。ちょうどよかったじゃないか」

 それから窓の外に声をかける。

「オレは部屋に戻るからな。おまえも無理はするなよ」

 屋根と、林の木々に遮られた狭い夜空を見つめていた護は、ゆっくりと振り返ると優しく微笑んだ。

「ありがとう……ミノル」

 その声が、今までにないほど優しく響いて聞こえた実は、僅かに眉を寄せて聞き返そうとした。

 しかし、すぐに空を見上げた彼に、結局はそれ以上なにも言えず背を向けた。

 もし、昨日のように護を読み取っていたら、彼の感情の変化に気がついていただろう。

「シノ、おまえの部屋に行くぞ」

「えっ? ちょ……ちょっと……今夜は勘弁してくれよ」

 今しがた、動けないだろうと指摘したばかりの実に言った。

 どうやら、自分がなにを考えたのか理解していない失言のようだ。

 実が、呆れたように志乃の頭をはたいた。

「なにを勘違いしているんだ。今日は風呂は禁止だ。体を拭いてやる」

「ハウ……。ああ……そう。俺またてっきり……」

とここでようやく、はじめがいた上での失言だと気づいて、爆発したように顔を赤らめた。

「いや、だから……」

 はじめが笑いを堪えている。

「……」

「志乃さん、知っているよ。隠さなくてもいい」

「なっ、なんでっ?」

「まあ、いいではないか。早く部屋に戻りなさい」

 実が平然としているから、尚更恥ずかしいことこの上ない。

 逃げるように、とするほど自由に動かない体を、悲鳴を上げながら立ち上げ、手を貸すような親切を持ち合わせていない実と共に出ていった。

「別に恥じることもあるまいに」

 二人が消えたドアを見やり、はじめがまた笑う。

 健が、そうじゃないよと返した。

「恥じているんじゃなくて、恥ずかしいんだ。一途なだけに人に吹聴したくないらしいよ。逆にミノルは羞恥心がないからね。あの言い方ではシノが勘違いしてもおかしくないよ」

 それから、彼は外にも声をかけた。

「マモル、おまえもまだ無理をしてはダメだ。中に入ったほうがいい」

 護は、それがまるで命令を受けたかのように素直に入ってきて、今度は健の隣に腰を下ろした。


 

 

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