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 そこには、膝を折った護が窓にしがみつき、青ざめた顔を向けていた。

 夕べのように腕を吊っていたわけではなく、ケガをしている左手には、やはり銃が握られていた。

「マモル!」

 急いで駆け寄る。

「ダメじゃないか、起きてきては……」

「……」

 何か言いたげに、健の腕を弱々しく掴む。

 その目は、力がないながらもはじめに向けられていた。

「……トレーニングをしていたんだよ」

 争っているように見えたのかもしれないと思って説明したのだが、護は、力なく健を押し退けると立ち上がった。

 一歩、外に踏み出して、また足を崩す。

「マ……」

「ダメ……だ」

 冷や汗が流れていながら無理に立ち上がろうとする彼を、健が支えた。

「何がしたいんだよ?」

「あなたは……ダメだ……。……オレが……」

「バカなことを言うな。ほら。部屋に戻るよ」

 支えている体がかなり熱い。

 まだ熱があるというのに、どうして起きてきたのやら。

 気力だけで動けるわけがない。

 意識が朦朧としている彼の腕を、自分の肩に回そうとした健から、はじめはさりげなく回り込み、さっさと背負ってしまった。

「護さん、君では役不足だよ。迷惑だ。……健さん、部屋はどこなんだ?」

「こっちに」

 窓際に落ちていた銃を取り上げて部屋に案内する。

 彼の部屋には、小型のクローゼットとベッド、それにサイドテーブルしか置いていなかった。

 健たちが初めて会ったころのような、殺風景な部屋だ。

 その頃は、健には想像もしなかった理由があった。

 今のこの部屋は、どうせ長居する予定のない家だから、という理由らしい。

 元々、物にすら執着のない彼らしい考え方だ。

 ベッドに寝かせる。

 息づかいが早く苦しそうだが、まったく意識がないわけではなく、護はうっすらと目を開けた。

「大丈夫か?」

 はじめの横からの健の問いかけに、はっきりしない意識で微かに頷く。

「すまない……ミノル」

 その、声にならないほどの小さな囁きに、健は苦笑した。

 やはり間違えるのか……。

 以前、護自身も言っていた。

 実際の声はそれほど似ているわけではないのだが、志乃も今までに何度か、健と実の声を聞き違えていたのだ。

 いずれも、寝起きのときや通信のときだというから、耳に曖昧に入るときに似てくるらしい。

 ともかく、自分がここにいても何ができるわけでもない。

 間違えられたついでだと、彼は実を呼びに行った。

 サイドテーブルの上には、中の氷が溶けて水ばかりになった氷嚢が置いてあった。

 それにタオル。

 はじめは、氷のうを珍しげに取り上げた。

 水が入っているということは、これで熱を下げていたのだろうと、勝手に解釈して護の頭に乗せる。

 どうも、頭元にフックがあった意味すら理解できずにいるようだ。

「なぜ、ここまで無茶をするんだ……護さん」

 呼び掛けていたわけではない。

 単なる独り言だ。

 しばらくすると、実がトレイを持ってはいってきた。

 機嫌が悪いのが一目でわかる。

 彼は黙って薬液と注射器を取り上げると、護の右腕にスプレーを吹き掛けて注射をした。

「ミ……」

「喋るんじゃない。起きるなと言ったはずだぞ。何がほしかったんだ?」

 喋るなといった側から尋ねる実を、憮然と見つめたはじめだが、返事がないにも関わらず、

「今、持ってこさせるからな」

と、注射器をトレイに戻した彼に驚いた。

 サイドテーブルの上、タオルの陰になったところに、なにやら小さな箱が置いてある。

 そのスイッチを押して、実は話しかけた。

「エリ、スポーツドリンクを持ってきてくれ」

「……どうしてわかったんだ……」

「え?」

 護の額に乗っていた氷のうとタオルをトレイに乗せ、実ははじめの呟きに振り返った。

「何が?」

「……何がほしかったのか、どうしてわかったのかと思ってな」

「どうして……? こんなにはっきり……」

 言いかけて、目を泳がせたもののすぐに、

「そんなことか」

と、クスッと笑った。

 ノーセレクトであるメンバーから見れば、今さら驚くゆな能力ではないという意識があったのだが、はじめがノーマルであることを忘れていた。

 説明をするようなことでもない。

 だから、

「大したことじゃないさ」

 関心も持たずに答えただけだった。

 納得できたような、できないような……はじめは曖昧に頷いた。

「それで大丈夫なのか?」

「自業自得だ。放っておけばいい」

「……本当に薄情だな」

 実は、面倒そうに息をついた。

「あのな。ケガのせいで熱が出ているだけなんだ。安静にしていれば自然に熱は下がる。それまではオレだって何ができるわけじゃないんだよ。もっとも……」

 そのとき、ノックと共にドアが開き、絵里が入ってきた。

「冷やしてあるものか?」

「常温よ。冷えていたほうがよかった?」

「いや、これでいい」

 彼女は護を見下ろして、呆れたようにまた、実に向いた。

「言葉は正確にして。これで、なの? これが、なの?」

 妥協するのと、希望のものとでは差があるのだ。

 妥協ならば冷えたものを持ってくるつもりだった彼女は、実がさっさと取り上げてしまったため、彼の額を軽く叩いた。

「どっちなのよ?」

「これが、だよ。冷えていたらマモルにはきついからな」

 二人とも、口を閉ざして見つめあってる。

 というより、絵里のほうがなにかを待っているような感じだ。

 そんな彼女を見下ろしていた実が、小さく首を振った。

「エリ、今さら言わせるな。君だって聞きたくはないだろう?」

 彼女はそれでも待っていたが、やはり諦めたらしい。

「どうもそのようね。期待したあたしのほうが悪かったわ。……でも、マモルだけに留めておけるの?」

「やるしかないだろう?」

「言っておくけれど、あたしたちまで巻き込まないでよね」

 彼は、苦笑混じりに言い返した。

「君のほうでなんとかしてくれ」

「……あたしがマモルに敵うと思わないでよ。……まあ、仕方がない。……いいわ。しばらくは近づかないようにするから」

「そうだな。そのほうがいい」

 やはり今回もダメだったか。

 一度でもいいから感謝を言葉にしてほしかったのだが、今の実は、本心どころか、メンバーにすら無関心な護の感情のほうを受け入れている。

 気持ちの伴わない言葉など、聞くだけ無駄だ。

 絵里はそれきり、はじめに目配せをして部屋を出かかった。

「あ……絵……」

 彼女の後ろ姿に、言葉にならない声をかけたのははじめだ。

 絵里が振り返る。

「なあに?」

 はじめが、ベッドとドア付近と、距離の離れている二人を交互に見比べる。

 小さな舌打ちとともに、実が言った。

「はじめ、大した話じゃない。気にするな」

 それに対して、絵里がすぐに言い返した。

「言っている側から覗くんじゃないわよ。マモルだけにしてと言ったでしょう、ミノル」

 返事は、軽く首を竦める仕草だけだった。

 恐らく、彼らにしか理解できないことなのだろう。

 柄にもなく気にしてしまったことに、はじめは自分で呆れながら彼女を見送った。




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